呆然

地球は巨大な宇宙船であると確信したのは、高校の時の部活中だった。


演劇部の集まる体育館の中二階で輪になって話し合いをしている時、間違いなくここは宇宙船で、この子たちは宇宙人なのだとはっきり認識できた。

同時に、ものすごい不安に襲われてしまった。宇宙船に乗っている宇宙人のくせに、なぜ一瞬で滑り落ちてしまうことなんか全く想定していないみたいな顔をして、第三幕のキャストの立ち位置の話なんかできるんだろう。

中二階の床から宇宙船の振動をはっきり感じた気がして、私は滑り落ちないようにそっと床に置いた手に力を込めたけど、あとは何食わぬ顔をして演出の話を聞いていたから誰にもバレなかった。


私は呆然とする。誰にもバレないように。

本当はバレているかもしれない、私自身も呆然としている人に、ちゃんと気づいているから。

呆然とすると、取る手段はひとつだけ。一人になること。一人になると、ちゃんと正気に戻ることができる。私の中の正気とは、覚悟することであるが、普通の人の定義ではきっと覚悟をせず忘却することである。


正気になりすぎて、付き合っている時に元彼に「私はあなたと別れる覚悟はできている」というようなことを口走り、傷ついたと言われた。当たり前だ。


思うに、私は病気になれない病気である。もし突然中二階で宇宙船から堕ちる!!怖い!!助けて!!!と叫び、階段を駆け降りてガタガタ震えていたらそれは何らかの診断名がつくかもしれないが、そっと床を掴んだだけでは、何もドラマチックなことは起きない。これまで一度も起きたことがない。人をむやみに傷つけるだけで。


私が一人で暗いところに座り込んでいても、それはただ覚悟を決めているだけなので、「どうしたの?」などと声をかけないで欲しい。どうかしているのはこんな意味のわからない星でのうのうと意味のわからない日常を繰り広げているお前らなので。



おしまい

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