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TIFF21 フェスティバルの後に

前の投稿を見たら8月の終わりでした。毎年のことですが、トロント国際映画祭に約一ヶ月翻弄されていましたね。トロント国際映画祭はトロント市のダウンタウンにあるベル・ライトボックスを拠点にして年間プログロムも運営しているので、9月の映画祭はその活動のハイライトと言っていいでしょう。今年はオンタリオ州保健局の厳しい規則とモニタリングのもと、入場人数を制限した劇場での上映も行われました。その他、去年と同じくドライブイン劇場上映、そして自宅のソファから観賞できるデジタル上映と一年半のパンデミックで国際映画祭も進化しています。

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長編映画16本、短編映画8本、10日間でまだまだ観れそうですが、劇場上映とデジタル上映が微妙に重なるスケジュールで思ったほどインダストリー・パスが上手く活用できなかった、というのが今年の感想です。

それでは、カナダの作品から。シャシャ・ナカイ監督とリッチ・ウィリアムソン監督のScarborough、原作者キャサリン・ヘルナンデスさんも参加した上映には、地元スカーボロコミュニティや映画制作関係者も参加してトロント産インディ映画を大いに盛り上げました。

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期待以上にすばらしい出来だったのが、マイケル・マックゴーワン監督のAll My Puny Sorrows ストーリーライン、映像、音楽、そして役者と全てが完璧(少なくとも私はそう思います)な作品です。アリソン・ピルとサラ・ガドンの演技も素晴らしい。二人ともトロント生まれ、トロント育ちの役者さんですが、多数のアーティスト、著名人を輩出したVaughan Road Academyの卒業生という共通点もあります。原作はトロント在住の作家、ミリアム・トーズの人気小説。ニック・アレン(rogerebert.com)の記事はこちらから。

そして、数いるカナディアン映像作家の中で今年最も印象に残ったのが、ケベック州出身のアニメーター、マリー・バラデです。TIFF Shortcut Programme、Boobs(Lolos)のクリエーターである彼女は、ケベック州教育システムCegep*を経て、モントリオール コンコーディア大学でアニメーションを勉強したそうです。ロトスコープ、ストップモーションなどのアニメーション手法を駆使した今作品、「乳房」という女性の身体の一部が持つ不思議な多面性を、彼女なりの解釈と美的センスで素晴らしいアニメーション作品に仕上げています。ベン・ミッチェル(skwigly.co.uk)とのインタビューはこちらから。

過去に数々の名作品(北野武監督の座頭市やタイカ・ワイティティ監督のJoJo Rabbitなど)が受賞しているトロント国際映画祭ピープルズチョイス・アワード、今年の受賞作品はケネス・ブラナー監督のBelfast、1960年代の物語にぴったりと合った素晴らしい白黒映像、アイルランドの歴史をBuddy(Jude Hill)の視点から描いた構想50年、ブラナー監督の力作です。そして、上記のScarboroughもショーン・メンデス基金チェンジメーカー賞を受賞しました。

翌年のハリウッド、オスカーへの指標とされるトロント国際映画祭。例年ほどの派手なレッドカーペットや劇場出待ちフィーバーはなかったものの、パンデミック中でもこれだけの優秀作品揃い、映画制作者たちの熱意が伝わる国際映画祭でした。

バナー写真は私の個人的な今年のハイライト、アラニス・オボムサウィンの作品プログラム。「ライトボックスに来たらこんなに大きな壁画になってるなんてびっくりしたわ!」とアラニス。89歳、まだまだ現役。見習いたい限りです。


*Cegep: Collège d'enseignement general et professionnel カナダ ケベック州にある大学進学前の教育システム。

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