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ClubhouseとZoom/Meet/Teams

Clubhouseをやりはじめる人が増えている。最初の招待枠が2名なので、パンデミック的に言うと実装再生産数が2(その後も招待枠は付与されるので、実質的には2を超えているのかもしれない)なので、COVID-19よりも遥かに高い感染力だから、評判になっている限り、枠が2でも一気に広がるのは間違いない。

さてこのClubhouseをIT的に見ると、UIや様々な機能に特段の独自性があるのではなく、通信処理の部分にエッジが効いていることがわかる。

こういうリアルタイム性の強い双方向通信を開発したことのある人ならわかると思うけど(そんな人ほとんどいないか)、限られた帯域とCPU性能で、通信という不安定なものを使いながら違和感なく動作させるためには、優先順位をつけて処理するところに難しさがある。(どのくらい優先させるかとか、結構工夫が必要だし、リアルタイムだし)

Zoom/Meet/Teamsという定番の仕組みは、そもそもオンライン会議を目的として開発された。なので音声だけでなく動画やチャット、そして画面の共有、コラボレーションツールとの連携など、会議を円滑に進めていくための様々なものがついている。

通信的に言うと、音声が一番リアルタイム性が重要で、その次に動画、そして画面共有、チャットのような感じで、通信的に手抜きができるものとできないものをうまくバランスさせて実現しなければならない。

また利用者はいつ画像をオンにするかわからないし、画面共有するかわからないので、プロトコル的には音声だけでなく、他の通信が割り込んでくることを想定した通信方式にしているはず。

そうやって制御したとしても、通信環境は人によってまちまちなので、脆弱な通信状況でも安定して接続し続けるためには、さらに帯域制御のための優先順位付けを行う必要が出てくる。

会議というものを前提に考えると、優先順位は発言者にある。なので発言者の音声データを優先して送ることにより、限られた帯域を有効に使うという構造になる。

これはどこに現れているのかと言うと、発言者が発言している時に、割って入ろうとするとうまく行かない。相手がなかなか気づいてくれない、反応が悪い、という経験をしている人は多いと思うけど、あれがアーキテクチャ上の制約が現れているところだ。

これはどういうことかというと、帯域の不安定さを考慮に入れても確実に音声を届けるためには、発言者以外の音声の解像度を粗くして(つまりデータ量を小さくして)、リアルタイムには届けているけれど、明瞭さを若干排除して届けているからだと思う。つまり発言者の音声は明瞭に、割って入った人は、なにか言っているのはわかる。という感じ。(あのー、発言よろしいですか?的な割り込みを想定してる感じかな)

一方、Clubhouseは、普通に会話しているように、割って入った発言も明瞭に伝わる。

Zoom/Meet/Teamsのように相手の話が終わらないうちに話し始めることが難しい仕組みは、雑談や掛け合いの対談、パネルディスカッションなどにはむかない。だからZoom飲み会とかやってもいまいち疲れる。例えばリアルな飲み会を居酒屋でやったとして、誰かが話終わるまで他の人は話をするの禁止!なんてやったら、盛り上がらないのとおんなじ。パネルとかも、発言を盛り上げようとすると、パネラーはリアルに同じ場所にいて。というのが最近の定番だし。

ではなぜClubhouseは、こうしたことが実現できているのかというと、めちゃくちゃ簡単な話、音声だけに限定しているから。動画も画面共有も無い。そのかわり、お互いの音声を優劣無く伝える仕組みに特化する。(つまり電話)

本当はこれこそSkypeだったわけなんだけど、SkypeはZoom/Meet/Teamsの猛烈な広がりに翻弄されて、本来の音声通話からどんどん拡大してしまい、いまから挑むなら再設計が必要なレベルなんだと思う。

とは言え、Skypeも含めたZoom/Meet/Teams勢が、Clubhouseのような音声特化で音声が重なっても明瞭に伝わる仕組みを提供することは、おそらく技術的な課題はほとんどないと思う。

なので今のClubhouseの広がりが、彼らにとって本当にとりくむべきアプリケーション分野だと認識するなら、各社片っ端から提供を始めるだろう。

そうなると今度は守る立場になるClubhouse。今のところ録音はできない、記録されるものは何もない。繋がりの情報も今のところ参入障壁にするまでに至っていない。

要するに圧倒的に普及している大手が乗り込んできた時に、離脱を防止する備えは今の所かなり低いと思われる。

まだマネタイズにも成功していないので、資金力に関しても3社にはかなわない。

だからまずはジワジワ広めて、その間離脱防止策をいくつも立てて、マネタイズも成立させてということで、招待枠2名の限定リリース的な感じではじめたのだと思うけど、それが逆に話題性に拍車をかけ一気に広まったのは、なんとも皮肉な話だ。

COVID-19きっかけのリモートワーク生活で、外部との通話がZoom/Meet/Teamsの管理された発言者重視の通話ばかりなので、もっとワイワイ話したいと思っていた人は世界中にいたのだから、Clubhouseの目の付け所は素晴らしい。だから、そういった意味ではエポックメイクなサービスなのは間違いない。

そしてこれがさらに広まるなら、Zoom、Google、Microsoft、そしてFacebookは、またたく間に同じ機能を実装する。

その時が本当に、Clubhouse的なカルチャーが社会に組み込まれていく時だろう。

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