一人称の波音 19
バー・フォールズのカウンターで、阿部は相変わらず難しそうな本を読んでいた。マスターは、なにやら焼き物のような料理を作っている。香りから推測するに、チキンを香草でゆっくりと炒めているのだろう。チキンの匂いに混じって、かすかなハーブの香りが店内を満たしていた。 阿部は、ビールを飲んでいた。車を走らせたあとからずっといるのだろうか。テーブルには3品以上の食器が置かれていた。小食で、頼んでも2品であるいつもの阿部らしくない。僕は阿部の隣に座り、ビールを頼んでそれをグラスにあけ、ひとく