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2021.11.28 - 地域CL : FC徳島×新宿

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introduction

毎年恒例、地域CLの季節がやってきた。各地域リーグのチャンピオンチームが集い、JFL昇格を目指して戦う熾烈な戦いは、3グループに分かれての1次ラウンドを11/12~14に日本各地で開催。1次ラウンドを首位通過した3チームに加え、ワイルドカードを1チーム加えた4チームが決勝ラウンドを戦うことになっている。ここ近年の決勝ラウンドは、千葉県市原市のゼットエーオリプリスタジアムでの開催が通例であったが、今年の決勝ラウンドは味の素フィールド西が丘での開催。都内在住の身としてはありがたい。決勝ラウンドは11/24(水)に第1戦、11/26(金)に第2戦が行われ、今回観戦するのは大会最終日となる第3戦の2試合だ。

今回の地域CLのレギュレーションを整理しておこう。1次ラウンドの首位チームと、2位チームの中での成績最上位のチームの計4チームが決勝ラウンドに進むというフォーマットは前述のとおり。一方、ここしばらくは決勝ラウンドの成績上位チームがJFLに自動昇格していたが、今季は自動昇格の設定がなく、決勝ラウンドの上位2チームがJFL下位2チームと一発勝負の入替戦を行うことになっている。つまり、JFL昇格を目指す地域リーグのチームにとっては、地域CLと入替戦という2つの関門が待ち受けているということだ。これは下位カテゴリ側にとって厳しいレギュレーションだが、決まり事である以上はそのとおりに勝ち抜くしかない。まずは決勝ラウンドで上位2位以内に入ることが各チームにとっての至上命題になる。

第1試合は四国リーグ優勝のFC徳島と、関東1部優勝のCriacao Shinjuku(クリアソン新宿)の対戦。徳島は一昨日の第2戦で、勝点を得られていないおこしやす京都ACとの対戦だったが、後半に退場者を出したこともあり、0-2の敗戦。決勝ラウンド2連敗となり、JFL入替戦への出場資格を得られる2位以内の可能性は消滅している。既に大きな目標が失われ、チームには出場停止者がいるなど、あまり好材料の無い徳島ではあるが、試合前のアップの空気を観ている限り、選手間では非常にリラックスした雰囲気に見える。一方のクリアソンは、1勝1分の勝点4で現在首位。第1戦ではおこしやす京都ACに1-0で勝利を収めており、この勝点3が大きく効いている。この試合では引き分け以上で2位以上、即ち入替戦への進出が決まる状況だ。

感染症対策の関係か、西が丘のメインスタンドは関係者のみの開放となっており、一般の観戦者はバックスタンドかゴール裏での観戦。無論自分はバックスタンドに陣取るが、第1試合の開始よりかなり前に行ったにも関わらず、スタンドはかなりの混雑。特に関東リーグで西が丘を使用する機会の多かったクリアソンにとってはホーム同然の一戦ということもあり、多くのファンがスタンドに陣取っていた。これは心強いだろう。

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1st half

立ち上がりは主導権を握ろうとする両チームの激しい奪い合い。やや厳しめのプレスをかけていく徳島に対し、クリアソンはゴール前まで攻め込んだらやや強引気味にでもフィニッシュに行く姿勢を見せる。そんな中、徐々にボール支配率を高めていったのはクリアソン。ミドルゾーンでボールを拾い、徐々に徳島陣内へ攻め込む時間が増えていく。

しかし19分、試合は予想に反した展開を迎える。徳島は自陣から跳ね返したボールをFWの下田がポストプレイで収め、左サイドの秋月へ展開。秋月はそのまま単独ドリブルでアタッキングゾーンまで持ち運ぶと、カットインから右足でフィニッシュに持ち込む。すると、上手くコントロールされたシュートがぐんぐん伸びてゴール右上隅に突き刺さり1-0。ここまで押されていた徳島が、ワンチャンスを決めて先制する。ようやくの決勝ラウンド初ゴールがとんでもないゴラッソとなり、徳島陣営は大喜びだ。

よもやの失点を喫したクリアソンも反撃に出て押し込むものの、徳島は下田と中林の2トップがどうにか収めて時間を作ってくれるため、クリアソンが一方的に押し込むような展開とはならない。37分にはクリアソンがPAまで押し込む展開から岡本が技ありのループシュートを狙うが、GK・荻野がぎりぎり触ってゴールを許さず。40分あたりからは瀬川と樋口の両WBを入れ替えて圧力をかけたが、徳島の守備が耐えきり前半終了。まだ45分残っているとはいえ、徳島にとっては幸いなインターバルだ。

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2nd half

クリアソンはHT明けからボランチを代えて森村を投入。今季J2・町田から加入した大型戦力補強の一人だ。そして開始早々にスコアは動く。48分、クリアソンは最終ラインの井筒がロングフィードを最前線に送り込むと、これに反応した大谷が抜け出してフリーに。強烈なパワーシュートをニアに突き刺して1-1の同点。大谷が派手なガッツポーズで喜びを表し、ここまで重苦しい雰囲気だったクリアソン側のスタンドが総立ちで沸き立つ。

まだタイスコアに戻っただけだが、試合のムードはこれで一変。ここからボールを圧倒的に支配するクリアソンに対し、徳島はクリアが精一杯の時間が続く。57分には再び左サイドでボールを持った森村が左足でスライスするような形で送り込んだ直線的なクロスを岡本が収め、ここからフィニッシュに持ち込むが、これはクロスバーを直撃。徳島は「九死に一生」だが、守備でもちこたえるのがギリギリという状況だ。

そして66分、チャンスを作ったのはまたしても森村。左サイドのやや浅めの位置からPA内のファーサイドを目がけた長距離のクロスを送り込むと、これに右サイドから詰めた瀬川がダイレクトで押し込み、1-2と逆転。ゴールを決めた瀬川にはもちろん、ピンポイントのクロスでアシストを決めた森村の元にも多くの選手が駆け寄って喜びを分かち合う。

逆転を許した徳島だが、このままあっさりと3連敗で大会を終わらせるわけにはいかない。DFリーダーの石川を中心に、最終ラインで横パスを回しながらじりじりとボールをミドルゾーンまで持ち運び、そこから中長距離のパスを使ってクリアソン陣内の隙を窺う。79分には右サイドの福島が中盤でボールを奪って攻め上がり、クロスをゴール正面の山口が足元で収めてシュートへ持ち込むが、難しい体勢だったこともあってシュートが弱くなり、GK・岩舘が身体を張って防ぎ、ビッグチャンスを生かせない。

その後も徳島の攻勢が続いたが、結局クリアソンの守備は崩れずにタイムアップ。逆転でクリアソンが最終戦を制し、大会2位以上が確定。JFL入替戦への進出が決定した。2位以内で自動昇格となっていた例年の大会ならば試合終了と同時に選手たちが喜びを爆発させるところだが、まだ入替戦への挑戦権を手にしただけということもあり、クリアソンの選手たちは静かに喜びを噛みしめているように見えた。

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impressions

先制される難しい展開ながら、慌てず騒がず、冷静に立て直したクリアソンのしたたかさが見て取れた試合だった。前半からボールを支配し、チャンスも作れていたが、ワンチャンスを決められて失点。こういう展開からリズムを崩して昇格を逃してしまう・・・というケースは「あるある」で、クリアソンもそのパターンに迷い込んでしまう懸念はあった。

しかし、HTを挟んでの森村の投入が効果てきめんだった。ボランチの位置からやや左サイド寄りにポジションをとり、中盤でボールを落ち着かせる役割とサイドからのクロスで、逆転への流れを作った。ロングボールを蹴り分けるテクニックは「さすが森村」で、逆転に成功した際に森村のところにも歓喜の輪ができていたのは、彼に対するチームの信頼を感じさせた。

逆転となる2点目を決めたのは右WBに入っていた瀬川だが、この試合のスタートのポジションは左WB。リードを許した前半のうちに、サイドを入れ替えていたのが布石となったようにも思える。いずれにせよ、クリアソンの打つ手が見事なまでに的中したことは明らかだ。目標であるJFL昇格のためにはまだ入替戦に勝たなければならないが、JFLに上がるだけの実力があることを示した一戦であったといえそうだ。

徳島は既に入替戦進出の可能性が絶たれた中での最終戦となり、どのようなモチベーションで試合に臨むのか気になっていたが、そんな懸念を払拭させる奮闘ぶりだった。終始押し込まれる展開にはなったものの、石川を中心とした3人のCBが集中してクロスボールを跳ね返し続けた。数少ないチャンスを決めた秋月のフィニッシュは、見事の一言に尽きる。

クリアソンが的確な手当てをしてきたこともあり、後半の徳島はさすがに圧力に耐えきれなくなった印象。強いていうならば、後半立ち上がりにロングフィード一本であっさり裏をとられて失点したのが痛かった。

しかし逆転を許して以降にボールを持てるようになってからは、DFラインで横パスを繋ぎながらじっくり前へ持ち運び、ミドルゾーンからチャンスを窺う縦のボールを使っていたように見えた。最終的にはギャンブル制の高いボールを使うにしても、ギリギリまでポゼッションにこだわる姿勢を見せ続けたことは評価できることなのではないか。

結果的に決勝ラウンド全敗に終わったとはいえ、徳島が1次ラウンドを突破してきたのを納得させるサッカーだった。四国リーグからJFLに昇格したのは2019年の高知ユナイテッドが直近になるが、あれからたったの2年でこういう面白いチームが出てくるところこそ、地域リーグの面白さだと思う。来季の地域CLにも再び徳島が出てくるのか、あるいは更なる新興勢力が四国から出てくるのか、楽しみになる一戦であった。

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