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ちょっと古風なスクリューボール・コメディ 『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』

7月19日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 1969年。生き馬の目を抜くニューヨークの広告業界で、PRのプロフェッショナルとして注目されているケリー・ジョーンズ。ある日彼女は、大統領側近だというモー・ブルクスに厄介な大仕事を押し付けられる。アメリカの月面探査ミッション「アポロ計画」を、国民と全世界にアピールしてほしいというのだ。

 ほとんど身ひとつでNASAに乗り込んだケリーは、そこでアポロ11号の打ち上げ責任者コール・デイヴィスと知り合い互いに好感を持つ。しかしなり振り構わずあの手この手のPR作戦を実施するケリーに、軍人上がりの真面目で頑固なコールは、そのやり方に反発することも多い。

 マスコミ取材への対応、企業タイアップ、政治家対策など、八面六臂の活躍をするケリーだったが、そこにモーがとんでもない提案をしてくる。月面着陸ミッションは万が一にも失敗は許されない。だがその万が一に備えて、生中継に使う別映像を用意しておけというのだ……。

■感想・レビュー

 アポロ11号の月面着陸は捏造だった……という「アポロ計画陰謀論」に着想を得たとおぼしき、1960年代のNASAを舞台にしたラブ・コメディ。スカーレット・ヨハンソンがやり手のPR専門家ケリー・ジョーンズを演じ、チャニング・テイタムがNASAの打ち上げ責任者コール・デイヴィスを演じている。

 ケリーを計画に引き込む謎の人物モー・ブルクスを演じるのはウディ・ハレルソンだが、怪しげで危険な暴力の匂いをプンプンさせつつ、どこかチャーミングで憎めない感じがいい。このキャスティングは、映画全体のいいスパイスになっている。

 物語のアイデアはアポロ計画陰謀論がベースだが、NASAの宇宙計画にケチを付けるものではない。映画前半はテンポ良くケリーのPR大作戦を描き、それまでアポロ計画に冷淡だった世論が、どんどん盛り上がっていく様子を軽快に描写していく。主人公ケリーやPR作戦はもちろんフィクションだろうが、似たような仕事を請け負った人たちはいたはずだ。

 陰謀論めいてくるのは映画の後半。ケリーのPRが成功してアポロ計画への注目が集まれば集まるほど、計画の失敗は決して許されないものになっていく。特に人類の月面着陸は、テレビ時代に「映像がない」では済まされない。そこで、月から中継されてくる音声データに合わせて、スタジオで同時収録されている月着陸映像を流そう……というくだりは、少々無理筋っぽく感じたのだが、これなしには物語が成立しないからこうなっている。

 ラブコメディは1930年代や40年代に流行したスクリューボール・コメディの子孫なのだが、本作は女性詐欺師が堅物の男と恋に落ちるという点で、プレストン・スタージェスの傑作コメディ『レディ・イヴ』(1941)の直系子孫みたいな作品かも。そう考えると、ウディ・ハレルソンの役柄がチャーミングな理由もわかってくる。彼は『レディ・イヴ』のチャールズ・コバーンなのだ。

(原題:Fly Me to the Moon)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン10)にて 
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 
2024年|2時間12分|アメリカ|カラー 
公式HP:https://www.flymetothemoon.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt1896747/

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