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クリスマス映画の新しい古典 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

ホールドオーバーズ
6月21日(金)公開 TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

■あらすじ

 1970年12月。ボストン近郊にある全寮制の名門男子校バートン校は、クリスマス休暇を前に生徒たちが浮き足立っていた。誰もが楽しみにしている2週間の休暇だが、さまざまな事情で毎年何人かの生徒が寮に居残る。その生活を見守る監督教員として白羽の矢が立ったのが、嫌われ者の歴史教師ポール・ハナムだった。

 いよいよ休暇がスタート。最初は数人の生徒が居残っていたが、途中で居残り生徒の大半が別生徒のスキー旅行に合流して姿を消す。学校に残ったのはハナムと食事世話係のメアリー・ラム、そして生徒の中でも時に反抗的な問題児アンガス・タリーの3人だけだった。

 居残りの人数が減ったこともあり、当初敵対的だったアンガスの態度も少しずつ打ち解けたものに変わっていく。そしてクリスマス当日、アンガスは「ボストンに行きたい。都会で本物のクリスマスを味わいたい!」と言い出す。ポールは校外授業の名目で、これを許可するのだが……。

■感想・レビュー

 『アバウト・シュミット』(2002)や『サイドウェイ』(2004)のアレクサンダー・ペイン監督が、ポール・ジアマッティ主演で描くヒューマンドラマ。アカデミー賞では作品賞・脚本賞など5部門にノミネートされ、メアリー役のダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した。

 受賞を逃したとはいえ、主演のポール・ジアマッティは見事な芝居で全体をまとめ上げているし、本作がデビュー作だというアンガス役のドミニク・セッサも素晴らしかった。セッサは今後、若手の実力派として引っ張りだこになるような気がする。先物買いをしたい人は要注目だ。

 映画は導入部から1970年代の映画を模倣したスタイルになっている。画面サイズも1.66:1のヨーロッパビスタ。会社のロゴやタイトルの出し方も、半世紀前の映画風だ。これだけで映画の内容が変わるわけではないが、映画導入部のムード作りとしては悪くない演出だ。

 アメリカ映画には「クリスマス映画」とでも呼ぶべきジャンルがある。クリスマスの日に何らかの事件があり、それによって物事が何か良い方向に変わる。古くは『素晴らしき哉、人生』(1946)がある。『ダイ・ハード』(1988)や『ホーム・アローン』(1990)、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)なども、このジャンルの古典と言っていいかもしれない。

 本作もそうしたクリスマス映画の1本であり、このジャンルの他の例に漏れず、クリスマスに起きた事件によって、登場人物たちの抱えていた問題が良い方向に変わっていくことになる。

 主人公ポールの人生にとってこれが良いことかどうかは微妙かもしれないが、大学卒業からずっと立ち止まっていた彼の歩みが、クリスマス休暇中の出来事によって再び大きく動き出すのは、決して悪いことではないだろう。

 観客にそう信じさせるだけの不思議な力が、クリスマス映画というジャンルには存在している。

(原題:The Holdovers)

TOHOシネマズ シャンテ(Screen 1)にて 
配給:ビターズ・エンド 
2023年|2時間13分|アメリカ|カラー 
公式HP:https://www.holdovers.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt14849194/


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