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物語拡張の誘惑に抗って完成した名作 『ルックバック』

6月28日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 小学4年生の藤野歩は、学年新聞で4コマ漫画の連載をしている。ある日彼女は、担任教師から次の新聞のマンガ掲載スペースを半分譲ってほしいと頼まれる。隣のクラスの京本という不登校児が、自分の作品を載せて欲しいと言ってきたのだ。

 京本の作品が掲載された学年新聞を見て、藤野はその画力に驚愕する。京本の絵に比べると、自分の絵はあまりにも幼稚に見えた。負けず嫌いの藤野は本格的に絵の練習を始める。上達するには描き続けるしかない。友達や家族から変わり者扱いされても、とにかく描くのだ!

 だが6年生の学年新聞に再び掲載された京本の絵を見て、藤本の心は折れてしまった。自分がいくら練習して絵が上達しても、京本はさらにその先にいる。追いつけない。藤野は漫画を描くのをやめた……。

 卒業式の日、教師から京本の家に卒業証書を届けるように言いつけられた藤野は、そこで初めて京本に会った。京本は藤野のマンガの熱心な読者だった。

■感想・レビュー

 集英社が運営するマンガ配信サービス「少年ジャンプ+」に掲載された藤本タツキの同名マンガを、テレビアニメ「フリップフラッパーズ」の押山清高監督が映画化した劇場用アニメーション映画。

 上映時間が1時間に満たない短編だが、これは原作マンガを必要以上に拡張せず、ほぼ原作のまま映像化しているからだ。拡張したのは、例えば劇中で主人公が描いている4コマ漫画をアニメーションにしたり、原作で数コマで表現されている場面を少し長めのシークエンスにまとめたたりといった具合。他は全体の流れもエピソードも、ほぼ原作のままと言ってよい。

 ただしこの映画、原作を大幅に拡張した部分が冒頭にある。原作は藤野のクラスで学年新聞が配布されるところから始まるのだが、映画はその前に、藤野がマンガを描く場面から始まる。遥か天空から地上を見下ろしていたカメラがぐんぐん下降して藤野の部屋に入り、作品作りで頭を悩ませている藤野の姿をとらえるのだ。

 こうすることで映画は主人公がマンガを描くシーンで始まり、主人公がマンガを各シーンで終わる構成になった。小学生の主人公が使っていた4コマ漫画用の原稿用紙は、映画の最後に主人公の仕事部屋の窓ガラスに貼られることになる。こうして物語は、描くことから描くことへ、4コマ漫画から4コマ漫画へと循環するのだ。

 この映画を58分の劇場映画として公開したことを、僕は勇気ある英断として評価したい。あと20分ぐらい足せば短めの短編映画として成立できたはずだし、じつは原作にはそうした拡張を許しそうな部分がたくさんある。

 例えばこの作品には藤野の家族は出てきても、京本の家族は出てこない。ここを拡張すれば京本のキャラクターも膨らむし、後半の展開もより感動的になったかもしれない。でも、原作はそこを描かない。描かないのは描かないなりの理由がおそらくあるわけだが、映画もそこは描かないことを踏襲した。これがすごい。

ユナイテッド・シネマ豊洲(4スクリーン)にて 
配給:エイベックス・ピクチャーズ 
2024年|58分|日本|カラー 
公式HP:https://lookback-anime.com/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt31711040/

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