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6歳の少女の一夏の大冒険 『クレオの夏休み』

7月12日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国ロードショー

■あらすじ

 パリで父親と暮らすクレオは6歳の女の子。母がいないシングル家庭で、赤ん坊の頃から彼女を育て世話をしているのは乳母のグロリアだった。クレオもグロリアが大好き。だが故郷に残してきた母が亡くなったという知らせが届き、グロリアは故郷アフリカの島国カーボベルデに帰国することになる。

 「必ず遊びに来てね」というグロリアとの約束を果たすため、クレオは夏休みをカーボベルデで過ごすことになる。空港に迎えに来たグロリアとの再会。車の窓から観る、見慣れない街並み。グロリアの家には彼女の子供たちがいるが、長女のフェルナンダは出産を控え、長男のセザールは反抗期真っ盛りの少年だった。

 グロリアは稼いだ金で観光客用のホテルを建てようとしているが、工事はなかなかはかどらない。クレオは言葉が通じないながら、セザールたち地元の子供たちに混じって遊ぶようになる。だがセザールは最初から、母と親しくするクレオのことが嫌いだった。

■感想・レビュー

 パリで生まれ育った6歳の少女が体験する、一夏の冒険を描いた作品。なぜ少女が父親の手を離れ、たった一人でアフリカの乳母の実家に行くことになったのか、または、行かねばならなかったのかは、映画ではあまり深刻に描かれない。この旅はすべて少女クレオの視点から描かれていて、彼女が乳母のグロリアとの約束を果たす旅という体裁になっている。

 この映画はすべてがクレオの一人称視点なのだ。クレオの心象風景を、ペイント風のアニメーションで描いているのも面白い。これは彼女の遠い日の記憶であったり、かすかな意識の中で見た風景だったりする。大人の観客を6歳の女の子に同化させる仕掛けとして、このアニメーションはなかなか効果的だったと思う。

 言葉が未発達で狭い視野しかない子供視点の映画なので、わかりにくくなっている面や説明不足になっている部分もある。グロリアの故郷であるカーボベルデがどこにあるのかもよくわからない。グロリアが出稼ぎに出たことも、故郷に子供がいることもわかるが、彼女の夫がどこにいるのかはわからない。娘のフェルナンダは出産間近だが、子供の父親が誰なのかもわからない。

 おそらく子供は世界地図を見ながら旅をするわけではないし、シングル家庭で育ったクレオは、グロリアの家に父親がいなくても不思議だとは思わないのだろう。フェルナンダの出産についても同じだ。子供はその場にある現実を、そのまますんなりと受け入れる。背景を考えたり、不思議だとか奇妙だと感じることもない。

 あるベテランの手品師が言っていたことだが、客の中で一番困るのは小さな子供なのだという。子供は理屈でものを考えずに、目の前にあって目に見えた現実をそのまま受け入れる。だから帽子からハトが出ようと、手の中でコインやカードが出たり消えたりしようと、それを不思議なことが起きているとは思わないらしい。クレオの物の見方も、おそらくそれと同じなのだと思う。

(原題:Àma Gloria)

ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター1)にて 
配給:トランスフォーマー 
2023年|1時間23分|フランス|カラー|1.42:1 
公式HP:https://transformer.co.jp/m/cleo/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt26255358/

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