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SHE CAME TO ME / ブルックリンでオペラを(2024年4月5日劇場公開)

今の時代、ロマコメ作りも大変です。ダイバーシティの旗の下に映画製作には様々な制約が課せられています。逆に言うと今までの映画が社会をある一方向の視点からだけステレオタイプ化してきたことへの大いなる反省を促されている時代と言えるでしょう。加えてより多くの多様化している観客の意に沿うような映画にしなければヒットしないわけですから大変です。

本作のキーヴィジュアル(映画を宣伝するときに必ず使用しなければならない画像のこと)もはっきりと身長差を意識させる構図になっています。映画界は本作で現代オペラ作曲家のスティーブンを演じたピーター・ディンクレイジに感謝するべきでしょう。そのスティーブンの妻パトリシア役のアン・ハサウェイは内面に大きな矛盾を抱える役として複雑な現代人を繊細に演じています。

物語はカトリーナ(マリサ・トメイ)とスティーブンのふとした出逢いから大きく予想外の方向へ転がります。船長というカトリーナの職業は今までの映画ならほとんど男性俳優が演じていたと思います。配役を決める段階で既に製作者のバランス感覚がわかります。ちなみにアン・ハサウェイも本作のプロデューサーに名を連ねています。

Z世代を代表させてスティーブンとパトリシアの息子ジュリアン(エヴァン・エリソン、残念ながら薬物のオーバードーズにより2023年11月に亡くなっています)とその恋人マグダレナ(ヨアンナ・クーリク)が環境問題解決の研究に勤しむ様子を盛り込んでいるのも今の時代ならではの配慮でしょう。若い二人の物語にアメリカが合衆国であることの特徴が盛り込まれているのも新しい描き方です。

本作では、ニューヨークも大きな役割を果たしています。ブルックリンの観光名所の一つである港町のレッドフック、高級住宅街のブルックリン・ハイツに建ち並ぶレンガ造りのアパートメント、マンハッタン北部に位置しトニー賞の授賞式なども行われるユナイテッド・パレスから、クイーンズにある南北戦争で実際に使われたフォート・トッテン・パークの砲台跡まで見どころが一杯です。実際のロケーションで映画撮影を行うのは天候などに左右されるため大変な困難がつきものですが実際に芸術家、ブルーワーカー、心を病んだ人々が生きている大都会ニューヨークの特色を最大限に活かしたプロダクションには好感を持ちました。

映画のテーマとして登場人物のマインドフルネスが最重要課題として位置付けられているのがわかります。その過程で恋愛成就がゴールになることばかりを描いてきたハリウッド映画にも、恋愛によらないマインドフルネスも実現し得るという選択肢を与えた映画として新しいロマコメという評価を与えたいと思います。


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