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EMPIRE OF LIGHT / エンパイア・オブ・ライト(2023年2月23日劇場公開)

実に豊な映画。映画、詩を触媒に登場人物の人生が鮮やかに浮かび上がります。

舞台となる海沿いの映画館”エンパイア”。ブリテン島東端、マーゲイトに現存する1923年に建てられたドリームランド(建物は現存)を使って撮影されました。

1981年という時代設定が絶妙で、いまだに続く社会的な諸問題を違和感なく体現させているキャラクターの造形が見事。

ヒラリー(オリビア・コールマン)の孤独。スティーヴン(マイケル・ウォード)の被差別。どちらも今なお切実な問題です。

でも、職場には仲間がいるし、セーフティネットで社会がなんとか弱者を救済しようとしている様子も描かれていてインクルーシブの大切さを感じます。

T .S.エリオットが映画のロケ地マーゲートで読んだ『荒地』の詩が紹介されます。その他フィリップ・ラーキンの『The Tree』が大切な場面で出てきます。映画と詩の相乗効果で実に豊な時間が流れます。

The Tree 

The trees are coming into leaf 
Like something almost being said; 
The recent buds relax and spread, 
Their greenness is a kind of grief. 

Is it that they are born again 
And we grow old? No, they die too, 
Their yearly trick of looking new 
Is written down in rings of grain. 

Yet still the unresting castles thresh 
In fullgrown thickness every May. 
Last year is dead, they seem to say, 
Begin afresh, afresh, afresh.  




樹が葉を着けようとしている。 
そして、まるで、この様に言っているかの様だ。 
「新しい芽が和らぎ開く、 
葉々の緑は、ある意味、悲しみだ。」 

「葉々はまた新しく生まれる。
だが、私たち樹は、老いるだけなのか?」 いや、葉々も死ぬのだ。 
葉々が新しく見える妙技は、
種に印された環に書かれているのだ。 

それで、こうして今でも、毎年五月には、 
目一杯に生い茂った樹冠は、絶え間なくそよぐのだ。 
葉々はこう言っているかの様だ。「去年のは死んだ、 
新しくなるのだ、新しくなるのだ、新しくなる。」  

そして映画。2本の映画が物語に大切な意味合いをもたらしています。

この映画が撮影されたマーゲイトは次に訪れたい場所の候補に躍り出ました。それくらいこの場所の魅力も映画の魅力に直結しています。映画と人生をほぼ同価値と思っている人々にとっては間違いなく心の琴線に触れてくる映画だと思います。決して甘ったるい感傷とらわれず、この映画が終わっても登場人物たちがあの場所で生き続けていると思わせてくれる、そんな映画。



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