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『オッペンハイマー』日本公開まだ未定だが、本を読んでおいた方が良い

町山智浩のアメリカ特電でも報じられたクリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』。

聴く映画秘宝・町山智浩のアメリカ特電19『オッペンハイマー』を観る前に

現時点でいろいろと取材をしているが、日本での公開はまだ決まっていない。『オッペンハイマー』の配給権を持つ東宝東和と同じく東宝の関連会社にいるA氏は、「今の東宝は抗議団体が出てくるような問題作をやるのを嫌がっている。やるとしても、どこか別会社に配給権を売り渡すのでは?」と不吉なコメントを残した。
町山氏は2024年のアカデミー賞で『オッペンハイマー』は幾つもの賞にノミネートされえるだろう、それゆえ映画会社も無視はできないだろうと語っている。
実際のところ、まだ『オッペンハイマー』公開予定が見えないので、その間にこの相当難解とされる物理学者の人生とその評価を知っておいた方が良さそうだ。
ピューリッツァー賞を取った評伝『オッペンハイマー 原爆の父と呼ばれた男の栄光と悲劇』上下巻(カイ・ハード著)はそれぞれ15000円のプレ値が付けられているので、無理して購入する必要はないと思う。海外での映画のフィーバーが落ち着いてきて、オッペンハイマー関連の本も徐々に入手しやすくなりつつある。

『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』
藤永茂著 ちくま学芸文庫

『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』

2021年刊行で、まだ大型書店やネット書店であまり苦労せずに購入可能。
著者はまえがきで『ジュラシック・パーク』のコントロール・ルームにオッペンハイマーのポスターが貼ってあったというネタから切り込んでくる。この著者は九州育ちで戦時中は兄が長崎で被爆している。そこからアメリカ留学を経て原爆を作った科学者の生涯を調べ、オッペンハイマーの生涯と、その正当な評価「物理学は教えるにたる学問である」を目指す。文章も著者の年齢から考えるとノリノリで読みやすい。まずは必読の1冊。

『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』
中沢志保著 中公新書

『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』

95年刊行の新書なので、コンパクトにオッペンハイマーの人生と業績、そして彼を追い詰めることになる水爆反対論争などをコンパクトにまとめられている。一時的に古書市場から消え高値がついたが、いまは価格も落ちついてきている。見かけたら是非ご一読を。

『原爆の父オッペンハイマーと水爆の父テラー 悲劇の物理学者たち』
足立壽美著 現代企画室

『原爆の父オッペンハイマーと水爆の父テラー』

映画『オッペンハイマー』に登場する3人の敵のひとりにして、水爆を愛するドクター・ストレンジラブのモデルとなったエドワード・テラーだ。広島、長崎の凄まじい惨禍、そして放射能の後遺症に衝撃を受け、罪悪感に駆られたオッペンハイマーは核兵器開発反対に回るが、ソ連の原子力スパイの脅威に晒されたアメリカ。1949年にソ連が原爆の実験に成功する。オッペンハイマーは「バタバタしないことだ」とテラーに語るが、水爆は原爆を遥かに凌ぐ破壊力を持っていると信じるテラーはオッペンハイマーを追求しアメリカの科学界から追い出す。他の科学者たちから白い目で見られるようになったテラーは右翼化し、遂には「スター・ウォーズ計画」にまで手を出す。この本の出版は1987年で、刊行時にテラーはまだ在命だったところもポイントが高い。古書価格も比較的安定している。

『原爆の父オッペンハイマーはなぜ死んだか 長崎に原爆が落とされた謎を解く』
西岡昌紀著 飛鳥新社

『原爆の父オッペンハイマーはなぜ死んだか』

かなりフィルターが入った視点から見たオッペンハイマー論。やはり映画ネタで巻頭でつかみにかかる。本書では『レッド・オクトーバーを追え』だ。映画冒頭でショーン・コネリーたちがオッペンハイマーについて語る部分を抜き出し、原爆実験が成功した時、オッペンハイマーの脳裏に浮かんだ『バガヴァッド・ギーダー』の一節「我は死なり、世界を滅ぼす」について話すのだ。
本書はオッペンハイマーが原爆の医学的影響を隠蔽したと強く批判する。補論では「アメリカ人はなぜ日本人の原爆に対する感情を理解できないのか」と詰め寄る。2021年の本だが、視点が固いのが気になる。

『新しきプロメテウスたち 現代科学の創造力と破壊力』
ロバート・S・デロップ著、八杉竜一・八杉貞雄訳 番町書房

今回取り上げる本では最も古く、1972年に出されたものになる。全7章の最初の第1章「原子をこわす人々」で、核研究の歴史を手際よくまとめ、その中にオッペンハイマーが出てくる。本書ではオッペンハイマーはノーベル賞を獲ってもおかしくない才能を持ちながら無冠であったことが核兵器開発への引き金になったのではないかと記されている。アインシュタインとの関係についても手際よく記されている。
いかんせん、昭和47年の本なので、古書市場を相当こまめに探す必要があるかもしれない。

『オッペンハイマー』は膨大な情報を得たうえでないと、一発では理解できない作りになっているそうだ。ネタバレなど気にしないで、事前に知識を仕入れておいて間違いはないだろう。無事に日本公開されますように。

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