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『新・三茶のポルターガイスト』公開目前インタビュー!「どうしようもなく否定できない禍々しい何かが映っちゃってる」。百戦錬磨の豊島圭介監督も打ちのめされた最恐心霊スポットの全貌をうかがい、さらには幼少時に観てしまった恐怖映像の原体験まで聞いた!

タイトル写真:豊島圭介監督
取材・文 後藤健児

 アメリカの幽霊屋敷ウェインチェスターハウスや、中世の死霊うごめくインドのバーンガル砦など、世界には名だたる心霊スポットがある。そして、日本にもそれらに比肩するオソレゾーンが存在する。東京は三軒茶屋、猥雑な歓楽街に建つ雑居ビルに居を構える俳優養成事務所ヨコザワ・プロダクションだ。ポルターガイスト現象や水が噴き出す鏡などの怪異が平然と起こり、極めつけは謎の白い手が異空間から現出する。テレビ番組では放送不可能とされた映像の解明に挑むのは映画だ。敏腕オカルト編集者・角由紀子を中心に各界のエキスパートたちが徹底検証した『三茶のポルターガイスト』は昨年3月に公開されるや大いに話題を呼ぶ。超常現象の多くを撮影することに成功するも、その謎を解き明かすまでには至らなかった雪辱を果たすべく、今回は物理学者や超心理学者も参戦し、降霊術にサーモグラフィなどあらゆる手段で怪異に迫る。それが6月21日より公開のエクストリーム配給最新作『新・三茶のポルターガイスト』だ!

『新・三茶のポルターガイスト』ポスタービジュアル

 すべてを見届ける者として、監督を担うのは前作の後藤剛から任を引き継いだ豊島圭介。かつて、『怪談新耳袋 殴り込み!』シリーズで数々の心霊スポットに体当たりでぶつかり、近年では『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』にて、荒々しい時代に生きたバケモノのような男の魂に迫った。映画監督人生で培った知力、気力、胆力を結集して、怪異の砦にカメラを向ける。
 今回、豊島にインタビューを行い、人生の価値観をも変える心霊体験や、幼少時に観た衝撃映像など、豊富なオカルト話をうかがった。

6月4日、池袋シネマ・ロサでの完成披露試写会にて。(左から)豊島圭介監督、三上丈晴(ムー編集長)、ひなたまる、森脇梨々夏、横澤丈二、角由紀子

――豊島監督は2022年に単行本『「東大怪談」 東大生が体験した本当に怖い話』を著しています。今回はそのつながりで監督を担当されることになったのでしょうか。
豊島 「東大怪談」を一緒に作った角由紀子さんから、三茶のヨコザワ・プロダクションのことは聞かされていました。昔、『怪談新耳袋 殴り込み!』シリーズをやりましたが、心霊スポットは疲弊するんですよ(笑)。当時は30代後半くらいですが、いまでは50代ですから心霊スポットに行くこと自体の体力的な心配や恐怖とかいろいろあり、三茶には行ってなかったんです。ただ、いわゆる廃墟や夜のトンネルに行く恐怖とは違うのかなと思い、一度行ってみようと。それで行ったのが作中でも描かれている、床から白い手が出てきて引っ込む、あれを目撃した日だったんです。不思議なことはあるんだろうなと信じることと、目撃してしまうことの間には大きな差があって、実際にあれを見てしまったときに腰が抜けるというか、開いた口が塞がらないような体験だったんです。床を調べたんだけど、穴が開いているわけでもなく、一体どういう風に出てきたんだろうと。現象を見た事実に打ちのめされました。大げさに言うと、アポロに乗った宇宙飛行士が月に行って帰ってきたら急に宗教家みたいになったりとか、あれのプチ状態になったんです。
――価値観が変わったと。
豊島 いま住んでいる世界は、本当に自分たちが信じている世界なんだろうかと。そういう強烈な体験があったことが引き受けようと思ったひとつ目ですね。もうひとつは、ただ行ったらお化けが出たっていうんじゃなくて、出くわすまでの一連の物語も面白かった。その二点で、これは映画になるぞと思いました。
――あくまで先に体験ありきだったんですね。
豊島 超低予算なので、生活のためにはならない(笑)。好きじゃなきゃやれないから、そういう意味では初めに体験ありきというのは、いい関わり方でした。

霊との交信に定番のこっくりさん

——『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(2020年)を経た上での今回の心霊ドキュメントですが、『三島〜』を手掛けたことでの本作への影響はございますか?
豊島 『三島〜』の企画を引き受けたとき、ドキュメンタリーの経験はあまりなくて、果たしてできるのかと思ったんです。振り返ったとき、『怪談新耳袋 殴り込み!』は霊を撮りに行くっていうミッションでしたが、霊のようなものが撮れたり撮れなかったりする中で素材は溜まっていく。で、ある程度の素材があれば、それらを組み合わせて物語にすることはできるという確信をあの時代に得ていました。フィクションとあまり変わらないなと。『三島〜』のときも、『怪談新耳袋 殴り込み!』をやれた自分ならできると(笑)。今回、引き受けるにあたって構成を考える際、『三島〜』のスタイルをもう一回踏襲したら面白いかなと思ったんです。
——なるほど、ある概念をめぐる両者の意見を聞いていくという。
豊島 三島が元全共闘に話を聞きに行く一方、盾の会にも話を聞く。今回もヨコザワ・プロダクションという霊側の人たちと、それに対立する科学者、双方の話を聞くという意味では一緒。『三島〜』のときはテーマになったのが天皇という抽象概念をめぐる話になっていたのが、今回は幽霊という超常現象をめぐる話。これは同じ構図でできるなと。なんならダメを押したいなと思いまして、(『三島〜』でナレーションを担当した)東出昌大くんに連絡を取りました。心霊のドキュメンタリーを撮ったので、ナレーションをやってくれませんかと。
——どのような反応でしたか?
豊島 「それ、ガチなやつですか? それとも『水曜スペシャル』の川口浩探検隊的な?」と言うので、これガチだよと言ったら、じゃあやりますと。でも、川口浩探検隊的なやつだと言っても彼はやると言ってくれた気がしますけどね。
——東出さんの声はオカルトと合うなと思いました。山中で猟師生活を送ったりする彼自身の存在も含めて、フェイクと真実の境界を感じさせるというか。
豊島 猪を狩っているとか虚構みたいな話ですから。彼はタクシーから乗りてくるとケモノの匂いがしましたよ(笑)。あの人の声って不思議で、『三島〜』のとき、ああいう体温の熱い映像だから、アジテーション的なナレーションを想像していたら彼がすごい穏やかな感じで淡々と。
——中立っぽくもあり、彼自身のいかがわしさもあり。
豊島 禍々しいレイヤーがありますね。
——東出さんが寄せたコメントで「昨今、コンプライアンスの問題もあり、心霊現象を扱うといったテーマの作品を作ることは難しいのですが」とあります。具体的にはどういったところでの作りづらさや制約があるんでしょうか。
豊島 叶井俊太郎プロデューサーがテレビにこの映像を持っていこうとしたら「本物は流せない」と言われたそうです。また、角さんがとあるニュースメディアに載せてほしいと頼んだところ、フェイクドキュメンタリーだと認めるなら載せますと。要するに、超常現象などの非科学的なものをまんまごろっと存在するという文脈では載せられないってことだと思うんです。
——なるほど……。断言しちゃいけないってことなんですかね。
豊島 ”信じるか、信じないかはあなた次第です”というエクスキューズが欲しいんでしょうね。東出くんの発言はそのことを言っているのかな。
——矢追純一のUFOスペシャルとかでは、普通に存在すると言い切ってたと思うんですが(笑)。
豊島 それか、ニセモノだと思われたのかもしれない。売名行為なんじゃないかと。それを言い方として本物は載せられないんですよ、と言ったのかもしれないですし。その線のほうがなんとなく腑に落ちません?

サーモグラフィ等、最新機器を駆使して怪異の解明に迫る

――そういう時代の変化もあり、フェイクドキュメンタリーがまた盛り上がってきているのかもしれませんね。フェイクだと言ってしまえば受け入れられる。
豊島 テレビ東京のあれ、ご覧になりました?
――『イシナガキクエを探しています』ですね。ゾクゾクしました。
豊島 バラエティ番組の映像(劇中で登場する、80年代に放送されたとされる架空の番組)、よくできてましたね。
――仕掛け人の大森時生プロデューサーはまだ20代後半ですから、80年代当時をリアルタイムには知らないのに、非常に高い再現度です。
豊島 『ストレンジャー・ザ・シングス』も若手が作ってるじゃないですか。あれも80年代への憧れみたいな。(当時を体験していない)若い人がよく作れるなと。
――対して『新・三茶のポルターガイスト』では、あの映像自体は作り込みではなく、実際にそれが撮れてしまった。その上で、それをどう受け止めるのかという内容です。また、前作では超常現象の再現ドラマ映像が流れましたが、今回はありません。
豊島 あの物議をかもした再現シーン(笑)。あれはやっぱりお金の無駄遣いですよ(笑)。今回は撮れたものとインタビューでやれると思いました。ヨコザワ・プロダクションでは、仕掛けが見当たらず、どうしても信じざるを得ないようなことが起きている一方で、あの集団に愛嬌のような隙がある。(プロダクション代表の)横澤丈二さんが「こんなに科学者が来て検証するなら、今までよりもっと凄いモノを見せてやらなきゃいけない。あ、僕じゃなくて霊がですよ!」みたいなことをポロっと言ってしまう(笑)。やらせって聞こえてもおかしくないようなことを言っちゃってんなみたいな愛嬌がある。あと、オカルトセブン7★というアイドル集団を立ち上げたり、うさんくささみたいなものがあるわけですよ。それもヨコザワ・プロダクションの魅力であるわけで。やっぱりドキュメンタリーの面白さって誰を撮影するのかということに尽きる。今回は超常現象という核はありますが、それをめぐるヨコザワ・プロダクションの人たちも被写体として面白い。

アイドル集団オカルトセブン★

――手の霊のことを「てっちゃん」と呼称したり、異形の存在を恐れながらも親しみを込めて接している感じが印象的でした。
豊島 彼らはいわゆる幽霊なのかという話があって。幽霊というのは残留思念的な話もあるでしょうし、オーソドックスに言えば、うらめしや的な恨みがそこに残った存在であったり。『三体』は遠い銀河の向こうにいる生物と交信する話ですけど、そういう宇宙人がですよ、ヨコザワ・プロダクションにやってくると。何かトンネルを通って。
――ワームホールのような(笑)。
豊島 君たちの姿を真似してみようか、みたいないたずら心で白い手が出てきたりとか。最後に出てくるアレも、人間に似ているけど細部が違う。あんな風に関節は動かないし。あれをCGであったり特殊造型で作ろうと思ったら、ものすごい才能がいる。あのデザインを思いつく人は天才ですよ。だとすると、やはり何者かが人というものはこういうものでしょ、と真似てみて失敗しているのではないか。そのようにいまは優しいけど、いつひっくり返るかわからない。『インデペンデンス・デイ』で、UFO信奉者が喜んでるところにビームがチュドーン!とくるように(笑)。

恐怖の体験に震え上がる新たな犠牲者たち(ひなたまる、森脇梨々夏)

――今回、”やらせ”という言葉が作中に何度も出てきます。それは単純に物理的な検証をする上でのウソか真かを定義する言葉だけではなく、”やらせ”とはどういうことなのか、何をもって”やらせ”とするのかという概念にまで踏み込んでいた気がします。
豊島 僕も作中で”やらせ”という言葉を安易に使ってたんですけど、明治大学の小久保秀之先生が「”やらせ”はあなたが主語で、何か演出をもって表現していることを意味しているから、”やらせ”とは言わないほうがいいんじゃないか」と。言われてみれば、送り手の僕がすることが”やらせ”ということなんだなと指摘を受けて思いましたね。あと、”やらせ”はショーということだと思うので、ヨコザワ・プロダクションはショーを演出しているんだということでの”やらせ”っていうのが作中で使っている意味なのかな。
――その場にいた人と、撮った人と、見ている観客、それぞれで立ち位置は違いますし、同じ映像を見ても立ち位置が違ければ当然、感想も異なります。実際にその場でそれを見た人が発する”やらせ”の意味と、映画を鑑賞したお客さんが口にする”やらせ”もまた違う意味ですし。
豊島 お客さんが”やらせ”って言葉を使うときは僕のことも疑うわけですよね。知ってるんでしょ、みたいな。(廃墟のような)心霊スポットに行って何かを調べる話じゃなくて、人が運営している場所でそこにいる人に関わる現象を調べる話なので、お客さんからすると我々を含めた二重の演出の可能性があるということなんでしょうね。
――この構造は映画として形づくることで初めて立ち上がる気づきというか。ネットの心霊動画とはまた違う、映画ならではのものだと思います。
豊島 体当たりというレベルではないですから。面白いですけどね、心霊系ユーチューバーの方の番組も。
――叶井俊太郎さんが最後にプロデュースした作品ということで、本作は彼に捧げられています。
豊島 あの方は余命宣告を受けてから長かったので、彼に捧ぐ作品は実はひとつじゃないんです(笑)。彼はお化けをあんまり信じていない感じがありましたね。もし”向こう”に行ったら、ヨコザワ・プロダクションに我々が行くので、そのときはこっくりさんなりで儀式をしたら降りてきてねという約束をしました。

本作は叶井俊太郎のラストプロデュース作となった

――豊島監督がこれまでにテレビなどで目にしてきた超常現象で最も恐ろしい、あるいは印象深いものはどれでしょうか。
豊島 BBCが作った『第3の選択/米ソ宇宙開発の陰謀~火星移住計画の謎』ですね。当時(1977年)、「木曜スペシャル」でフェイクドキュメンタリーだと言わずに流したんですよ。最後、米軍の無人探査機が火星の表面で虫らしき何かを見つけたという映像で、ガサガサ!って砂が動いて終わるんですけど、それを小学生のときに観て、むちゃくちゃ怖くて。その日の夜に初めて金縛りに遭い、窓の外に『未知との遭遇』のマザーシップみたいなデカい宇宙船が来て、ビカビカビカ!と部屋を照らした気がしたんです。『第3の選択』と同じように、自分は優秀だから連れていかれるんだ(笑)と思った体験があります。テレビ的映像体験の恐怖の原点は『第3の選択』です。

豊島少年の心に恐怖を植えつけた『第3の選択』。Jホラーの父、鶴田法男もこの番組に強い影響を受け、自ら日本版DVDをリリースした

――最良の映像体験ですね。あの作品も、いまだとあらかじめフェイクだと明言しないと放送NGなんでしょうね。
豊島 アメリカに留学していたときも友達に面白いビデオがあるから観てみなと言われて、VHSで渡されたのが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』。事前にあの映画のことを知らなくて、何これ、怖い怖い!って(笑)。しかも観終わったあとの深夜に電話が鳴ったんですよ、『リング』みたいに(笑)。
――最高です(笑)。自分の場合は『別冊映画秘宝 恐怖! 幽霊のいる映画 』にも書きましたが、90年代にテレビで紹介された心霊動画が忘れられません。少年2人が部屋でホームビデオ撮影をしていて、ひとりの少年がジャンプした瞬間にパッと消えるトリック撮影をしているんですけど、ジャンプして消えた直後、リビングの窓の外の上部に巨大な顔がにゅーっと出現するんです。
豊島 それは怖い。『恐怖!幽霊のいる映画 』は田野辺尚人さんが編集された本ですよね。御本は以前、頂きました。

筆者が忘れられない心霊動画。右上にご注目いただきたい

――最後にメッセージがありましたら。

豊島 心霊現象なんかあるはずがないと思っている人が観ても面白い映画です。どちらの意見も受け入れられるような映画だと思うんですけど、どうしようもなく否定できない禍々しい何かが映っちゃってることも事実。僕はまだスクリーンで観てないんですが(※本インタビューは完成披露試写の前に収録)、スクリーンでラストカットを観たら、ちょっと本当に怖いんじゃないかなという気がしていて、何か起きてしまうのではないかと恐怖を感じています。【本文敬称略】

『新・三茶のポルターガイスト』
2024年6月21日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ他、全国公開
監督:豊島圭介/出演:角由紀子、横澤丈二、小久保秀之、山崎詩郎、児玉和俊、ひなたまる、森脇梨々夏、三上丈晴、小野佳菜恵、大久保浩、オカルトセブン7★/ナレーション:東出昌大/配給:エクストリーム ©2024 REMOW

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