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『映画秘宝』インタビュー傑作選・特別編   イーライ・ロス 『イングロリアス・バスターズ』とタランティーノ、トロマ、そしてデイヴィッド・リンチまで映画とハリウッドの裏側を大暴露!

取材:町山智浩
初出:別冊映画秘宝『イングロリアス・バスターズ』映画大作戦!

−−『映画秘宝』は知ってるよね?
「ああ、知ってるよ。三池崇史の映画をいっぱい載せてる雑誌だろ?」
−−ユダヤの熊、すごかったよ。アダム・サンドラーは悔しがるだろうね。彼はドノウィッツの役をやりたがったんでしょ?
「誰だってやりたかったと思うよ。だけど、ドノウィッツ軍曹のキャラクターのアイデアをクエンティンに与えたのは僕だしね。ボストンの悪ガキどもはみんな自動車の中に野球のバットを持っててケンカに使うんだって教えたことが始まりなんだ」
−−ドノウィッツ軍曹の英語はアルド・レインのテネシー訛り以上に聞き取れなかった。
「あれがボストン訛りさ。スタッフにひとり、ボストン出身者がいたんだけど、彼と僕がボストン訛りで話すのを横で聞いていたアメリカ人が『君たちは何を言ってるのかわからない』と言ってたからね」
−−そっか、アメリカ人ですらわからないのか。
「映画に出てくるボストン訛りはどれもインチキだから、僕はこの映画で本物のボストン訛りを聞かせたかったんだ。でも、『ディパーテッド』のマーク・ウォルバーグだけは良かったな。下町の連中は本当にあんなしゃべり方をするんだ。あのマーク・ウォルバーグは全然演技には見えなかったなあ」
−−ボストンで若い頃、マーク・ウォルバーグに会ったことある?
「ないよー。僕の親父は精神科医で、上品なユダヤ人コミュニティに住んでいて、ウォルバーグが住んでたのは下町のタフなアイリッシュ・コミュニティだから。ウォルバーグみたいな乱暴者が襲ってきたときの用心に僕らは車にバットを積んでいるんだよ」(笑)

●命がけだったクライマックスの炎上シーン

−−俳優じゃないのに、主役級の役をやることになったプレッシャーは?
「大変だよ。こんなに努力したのは僕の人生で初めてだよ。ウェイトリフティングのエクササイズを続けて、40ポンドもの筋肉をつけた。いくら筋肉をつけても迫力が足りないと思ったから、真剣に考えたよ。で、目だと思ったんだ。眼光から憤りや怒りが見て取れて、『こいつの目はマジで殺すだろう』と感じさせなければいけない。実際にクライマックスの撮影に臨んだときは、今までの人生で辛くて悲惨だった出来事をいろいろと思い出して自分を精神的に追い込んだ。肉体的にも辛かったたよ。クエンティンはリアルな映画が好きで、コンピュータで作るのは嫌いだから、本物の火を使った。セットの温度は華氏400度だったよ」
−−紙の発火温度じゃん!
「マジで危険な状態だった。ハーケンクロイツの旗は燃え落ちるはずじゃなかったけど、温度が上がりすぎて鉄の旗ポールが溶けてみんな燃えてしまった。ものすごい熱さだった。僕と相棒のオマー、それにクエンティンの周りを炎が囲んでいたよ!」
−−火傷した?
「もちろん。映画の中で僕が『アアー!』って叫んでるのは演技じゃないんだ」
−−クエンティンは満足したんですか?
「俺の頭を氷で冷やしながら、『グレート!』って言ってくれた。クエンティンが『カット!』と言うまでだいたい45秒か55秒くらいだったけど、消防隊が言うには、もしあと10〜15秒長かったらセットが焼け落ちるのに巻き込まれていただろうって。耐火スーツとマスクを着けたクエンティンだって燃えてしまうかもしれなかったんだよ」
−−きっと映画の神様に救われたんだね。
「映画の神様がショットを救い、本物の神様が俺たちを守ってくれたんだ。だけど本当にすごいシーンだったよ」
−−バルコニーからナチを撃ちまくるのは『暁の七人』を彷彿とさせるね。
「そうだね。でも、ジャック・カーディフ監督の『戦争プロフェッショナル』(1968年)も入ってるんだ。ロッド・テイラーとジム・ブラウンがバーの2階でマシンガンを撃ちまくるシーン。炎の中に群衆がいてさ」
−−それで今回はロッド・テイラーにチャーチルを演じさせて敬意を捧げてるわけだ。
「クライマックスにはいろんな映画の要素が入ってるんだ。たとえば『キャリー』でプロム会場が炎に包まれるシーンとかね」

●メイキング・オブ・『国民の誇り』

−−劇中でゲッベルスが作るナチのプロパガンダ映画『国民の誇り』は、実際はイーライ・ロス監督作なんでしょ?
「クエンティンに任されちゃったからさ」

−−どこで撮影したの?
「ベルリンから2時間半離れたガーリッツという街。『愛を読むひと』のロケ地だよ。本編の撮影が伸びてしまって、2日間しか撮影できなかった。僕の弟のガブリエルが本編のセカンド・ユニットの監督をしてるんだけど、彼にセカンド・カメラをやってもらった。スタントマンは5人、そのほか20人の俳優を使った」
−−みんなドイツ人?
「ドイツ人だけどアメリカ兵を演じてもらった。あっちに走り、こっちに走りで人数が沢山いるように見せてね。ハリケーンみたいな撮影だったよ。でも、すごく楽しかった。2日間で140カットも撮影した。クエンティンは多くて10から15カットだろうと思っていたから、びっくりしてたよ。しかも、出来が良かったから! この『国民の誇り』はゲッベルスがヒットラーを感激させようとして作る映画だけど、僕はクエンティンを感激させようとして頑張ったのさ」
−−塔の上からライフルで延々と狙撃するって、チャールズ・ホイットマンのテキサスタワー乱射事件だよね?
「もちろんさ。それ以外にもキューブリックの『突撃』の塹壕のトラッキング・ショットや、『戦艦ポチョムキン』の乳母車のシーンも参考にしたよ。いちばん面白いのは、クエンティンがナチのプロパガンダ映画である『国民の誇り』をユダヤ人である僕に撮らせたってことだよ」

●ユダヤ人のステレオ・タイプを脱構築!

−−ドノウィッツがナチを殴り殺すバットにはいっぱい字が書いてあるね。
「バットに関するエピソードは撮影したけどカットされちゃったんだ。ドノウィッツはボストンの下町で親父さんと一緒に床屋をやってる。でも軍に徴集されてナチと戦うことになる。それで近所のユダヤ人たちが彼のバットに寄せ書きをするんだ。アメリカのユダヤ移民たちはみんな親戚をヨーロッパに置いてきている。僕の祖父母もポーランドとオーストリア、キエフからアメリカに移民してきて、ニューヨークシティで出会って結婚した。ユダヤ系アメリカ人はたいてい誰でもひとりは親戚をナチに殺されている。だからドノウィッツのバットで仇を討ってくれと願いを込めて名前をバットに書き込むんだ」
−−ユダヤ系の怒りと悲しみが込められたバットなんだ。しかし、チェロキー・インディアンとイタリア系のタランティーノがどうしてこんなにユダヤ系の怒りが憑依したみたいな話を書けたんだろう。
「クエンティンは『イングロ』の脚本を書き始めた頃はユダヤ人について、通り一遍のことしか知らなかった。だから僕にいろいろ質問してきたんだ。ユダヤ人の内面、ものの考え方がわからないと脚本を進めることができないからって。それで僕はユダヤ人の考え方を形成したユダヤ人の歴史を教えてあげた。エジプトで奴隷にされたこと、ローマ帝国に国を滅ぼされて世界中で弾圧されたこと、ホロコーストのこと、ナチがユダヤ人を地上から絶滅させようとしたことを教えた。そして、『クエンティンにパスオーバー(過ぎ越しの祭り)知ってる?』と尋ねたら、『聞いたことも見たこともない』って言うんで、連れて行ってあげたんだ。そこでクエンティンはうちの家族をはじめ、多くのユダヤ人に会って、彼らの気持ちを直接聞くことができた。クエンティンは『ユダヤ人はホロコーストを許すことがあるのか?』と尋ねた。僕らは『絶対に忘れるわけがない。利子を取りたいくらいだ』って答えた。彼に僕の父がユダヤ人収容所で生き残った人たちの手紙を読んで聞かせた。生き残った人たちは死んでいった人たちにずっと罪の意識を感じて生き続けなければならなかった。クエンティンはそういう話をいっぱい聞いて、最後に『ありがとう。おかげで脚本を仕上げることができるよ』と言って帰った。そして出来上がったのが、あの結末なんだ」
−−さぞかし両親も感激したでしょう。「ヒットラーを倒した! それもうちの息子が!」って。
「パパとママはそのシーンの撮影を見るためにベルリンまで訪ねてきたんだ。ドイツに足を踏み入れたことなんかないユダヤ人がね」
−−ヒットラーを殺した男として映画史に残ったね。トム・クルーズも『ワルキューレ』でヒットラーを暗殺しようとしたけどダメだった。イーライ・ロスはトム・クルーズよりすごい!
「それって誉めてるの?(笑)まあ、ブラッド・ピッドに言っておくよ。トム・クルーズがヒットラーを殺せなかったのはユダヤ人じゃないからだと思う。復讐に燃えてなかったからさ」
−−ドイツでドイツ人キャストとスタッフに囲まれてナチを滅ぼすのって、どんな気分だった?
「ドイツ人はみんな嬉しそうだったよ。ユダヤ人だけじゃないんだよ。彼らはみんな第二次世界大戦の後で生まれたから、何もできなかったんだから。ナチの悪行は彼らの親やその上の世代の出来事で、今のドイツ人のせいじゃない。だからドイツ人の評判を落としたナチのことを恥じていて、『あのマザーファッカーを殺せるなんて最高じゃないか!』と思っているんだ。だから僕だけじゃなくて、撮影に関わった者が全員で力を合わせてナチを滅ぼしたような気分なんだ。最高だよ」
−−面白いなと思ったのは、バスターズのメンバーはみんなやせっぽちで、気弱そうなイジメられっ子タイプだってこと。つまりユダヤ系のステレオ・タイプ。
「ほんと、ヘブライ語学校のクラスメートみたいなのばかり(註:ユダヤ系の子どもはヘブライ語学校に通わされる)。そこがいいんだよな。クエンティンのキャスティングのセンスだね。デカくもないしマッチョでもないガキばかり。でも、それがリアルなんだ。実際はそこらの高校生がたった3週間訓練しただけで戦場に行かされたんだから」
−−そんなヘナチョコに見えるユダヤ人がとんでもないことをやってのける。これはユダヤ系のステレオ・タイプへのアンチテーゼじゃない?
「そうだ。僕は昔からずっとユダヤ系のステレオ・タイプを破壊したかった。ユダヤはヘナチョコってステレオ・タイプはハリウッドが作ったんだ。ハリウッド映画を作ったのはユダヤ系だから、弱虫というステレオ・タイプを作ったのもユダヤ系自身なんだよ」
−−なんのために?
「笑わせるためだね。ユダヤ人は自分たちを笑い者にするんだ。ウディ・アレンはたくさん映画を作って、ユダヤ人映画作家のシンボルになった。そのほか、ユダヤ人であることを表面に出しているのは、アダム・サンドラーやベン・スティラーやジェリー・サインフェルドなんかのコメディアンばかりだ」
−−ジェームズ・カーンはユダヤ人ですが、タフガイですよね。
「だけど彼は映画ではユダヤ系を演じない。イタリア系のヤクザ役ばかりだ」
−−ポール・ニューマンは? ユダヤ系だけどいつもヒーローですよ!
「だけど彼は『栄光への脱出』以外ではユダヤ人の役は演じてない」
−−カーク・ダグラスも?
「ユダヤ系は演じない。彼は名前までWASP風にさせられた。かつてハリウッドやブロードウェイではユダヤ人俳優は芸名の名前を変えてユダヤ系であることを隠さなければならなかった。ショービジネスを仕切っているのはユダヤ系なのに、彼ら自身が、アメリカ人はユダヤの俳優もユダヤのヒーローも見たくないと考えたんだ」
−−長い間差別されてきたから身についた考えだろうね。身を守るためにはヒーローよりも道化を演じようと。
「でも、僕はずっとそんな卑屈な考えにいつも腹を立てて、腑に落ちなかったんだ。この映画はユダヤ人のステレオ・タイプを変えた男として覚えてもらえるチャンスだ。全てのシーンで、僕は全人生を賭けて役作りの努力をした。ドノウィッツはタランティーノ映画における金字塔のような古典的キャラクターにしようとして」
−−そして君は映画史上最もバッドアスなユダヤ人になった。
「ああ! 観客はこれを観た後は……」
−−ユダヤ人を見たら怖がるようになる!
「そうさ」(笑)

●『ホステル』に始まり、次回作は怪獣映画!

−−ちょっとイーライ・ロス監督の作品の話をしよう。『ホステル』には三池崇史監督が拷問クラブの客の役で出演してるね。
「『ホステル』に最も大きな影響を与えたのは、『オーディション』と『復讐者に哀れみを』だからさ。ちょっとだけ『失踪』が入っているけど、やっぱり三池崇史とパク・チャヌクに『俺もやらなきゃいけない!』という気にさせられた。アメリカのホラー映画も日本や韓国のようにやらなきゃ!って」
−−『ホステル2』はイタリアっぽいね。ルジェロ・デオダートやエドウィジュ・フィネシュとか出演しているし。
「うん。フィネシュが出た『美女連続殺人魔』(1972年)とかセルジオ・ソリーマの『影なき淫獣』とかの70年代のジャッロ(猟奇犯罪映画)を楽しんでいたからね」
−−70年代にイタリアが作っていたナチ収容所映画の影響もあるんじゃない? ああいうホロコースト・ポルノはもう許されないジャンルだよね。
「当時の人々は今のようなポリティカリー・コレクトネスを持ち合わせていなかったからね。今はホロコーストでエクスプロイテーション映画を作るなんて許されないけど、その代わりハリウッドはアラブのテロリストをさんざん悪者にして娯楽映画を作っている。でもね、ヨーロッパのナチ収容所ポルノのほうがハリウッドの真面目な戦争映画よりマシだって思うこともあるんだ。だってナチはドイツ人が演じてドイツ語をしゃべってるからね。ハリウッド映画だとイギリス人俳優がナチを演じて、ドイツ語訛りの英語を話したりするだろう?」
−−『マラソンマン』のローレンス・オリヴィエとかね。
「あんなにバカバカしいことはないよ。だからクエンティンは『イングロ』で、ドイツ人はドイツ語を話し、フランス人はフランス語を話すことを求めたんだ。ガス室で殺されたユダヤ人も殺したドイツ人も英語なんか話してないんだからね」
−−『グラインドハウス』のために作った架空の映画の予告編『サンクスギビング』を長編映画にするという計画は動いてる?
「これから2人で脚本に取りかかる予定さ。あの予告編で殺人鬼ピルグリムを演じたジェフと。彼はこのホテルに来ていて、今はプールで泳いでるよ」
−−それはよかった! 待ちどおしいですね。それと、SF映画も企画してるんでしょ?
「うん。『Endangered Species』っていうんだ」
−−『絶滅の危機に瀕した種族』? どういう内容?
「まだ秘密なんだけど、大怪獣映画みたいにしたいんだ」
−−怪獣映画!
「そう。『ジュラシック・パーク』とか『クローバーフィールド』、『トランスフォーマー』みたいな。僕はゴジラが大好きだから。いちばん好きなのは『キングコング対ゴジラ』だな。キングコングがゴジラのしっぽをつかんで振り回すシーンとか。ガキの頃からずっとああいう映画を作ってみたかったんだ。ああいう映画を観るのも大好きだ。ビルがガンガン壊れて崩れ落ちるような大破壊が」
−−すると『宇宙戦争』みたいな?
「うーん、そこまで規模が大きくなくって、もっと地に足がついた話にしたい。楽しそうだろ?」

●ゲテモノ映画からデイヴィッド・リンチへ

−−映画界に入ったいきさつを聞かせてくれる?
「映画界に入りたくて、18歳の頃、映画の現場で家具や衣装ボックスを動かしたりする手伝いをし始めた。そのとき、スタッフのひとりにフランク・ヘネンロッターの『バスケットケース2』のスタッフだったってヤツがいた。それだけで僕にとってはスターに会ったみたいな衝撃だった。その彼は『こいつは何を興奮してるんだ?』って不思議がってたけどね」(笑)
−−ゲテモノ映画が大好きなんだ。
「ガキの頃からね。トロマ映画の『悪魔の毒毒モンスター』とかさ。そしたら1996年頃かな、トロマで働いていた友達から連絡があったんだ。『悪魔のしたたり/ブラッドサッキング・フリークス』のDVDの副音声解説をやらないかって」
−−最低の映画だよ! サルドゥーとかいう男が女をさらってきて舞台で惨殺する見世物をやってるという話で、女性の頭を万力でつぶしたり、脳みそをストローで吸ったり。しかもそれをコメディとして撮ってる! あれを監督したのはジョエル・M・リードだよね。
「彼は、これは自分の映画じゃないから副音声解説なんかやらないって言うんだ。サルドゥー役の男は実際に残酷芝居をやっていて、彼に現場の主導権を乗っ取られたって。それでイーライに解説をやらせようってことになった」
−−その頃、何してたの?
「何もしてなかったね。大学出たばかりで。だから解説の肩書きは『血とはらわたの専門家』というわけのわからないものだった。でもね、僕は『悪魔のしたたり/ブラッドサッキング・フリークス』を愛してるから頑張ったよ」
−−あんなクズ映画を!
「僕は少ない情報を徹底的にリサーチして、あの映画のすべてを知ろうとした。俳優や監督にインタビューした。その研究結果を副音声で語ったんだ。このコメンタリーはトロマのDVDの中でも有名なコメンタリーになった。ギャラは30ドル(約3千円)だったよ。しかもいきなり現金でくれた」
−−Imdbによると、トロマの『悪魔の毒毒モンスター新世紀絶叫バトル』や『テラー・ファーマー』にも出演していることになってるけど……。
「たまたま連中が映画を撮ってる現場を車で通りかかっただけさ。ロサンジェルスでロケしてたから『よう、元気?』って言ったら、『イーライ、車を降りてこっちこいよ、そこで立って』と言われて撮影された。しかも『イーライ・ロス:ビューティフル・ヤング・ボーイ』ってクレジットされた! あんな映画に!?  ふざけんな! たった1秒のことなのに」
−−『悪魔のしたたり』の副音声解説の次はもう『キャビン・フィーバー』で監督デビュー?
「いや、その前に『クイズショウ』や『ザ・ペーパー』を作ったプロデューサーのオフィスで働いてたんだ。そこでデイヴィッド・リンチがブロードウェイで舞台劇をやるプロジェクトに雇われた。科学者のニコラ・テスラが主役の芝居だ。ニコラ・テスラについての資料集めをさせられて、それをリンチに送り続けた。一年以上もね。結局その芝居は実現しなかったけど……。リンチは『よく頑張ってくれたのに悪いことをした』と謝ってくれて、『もし君が映画界で何かをするなら喜んで力になるよ』と言ってくれた。それで僕が『キャビン・フィーバー』を作るとき、名前を貸してくれたんだ」
−−リンチは「スペシャル・サンクス」としてクレジットされてるね。
「最初は『デイヴィッド・リンチ・プレゼンツ』だったんだ。僕のような未経験の新人が製作資金を集めるには役に立つだろうって。でも、完成した『キャビン・フィーバー』から彼の名前を外したけど、『キャビン・フィーバー』は成功したから、リンチにも分け前をあげることができた。とても光栄なことだったよ」
−−いい話だねえ。
「僕はデイヴィッド・リンチと本当に深く関わってるんだ。インターネットを教えてあげたからね。ネット・ポルノの見方を教えてあげたんだ。ポルノといってもまだビデオじゃなくて、写真だけの時代だけどね。リンチは見たことなかったんだ」
−−機械に弱そうだもんね。
「彼はDVDのチャプターの使い方も知らなかったよ。で、ネット・ポルノを見て『わお! なんだ! これは便利だ! ビューティフル!』って大喜びさ。で、どんなポルノが見たいの? って聞いたら『レズビアン。演技じゃなくて本物の。素人のレズビアン』だって(笑)。で、検索して集めてたくさん送ってあげた。あんなにうれしそうな人の顔は見たことがなかったよ」(笑)
−−変態だけど無邪気(笑)。
「しばらくしてから、リンチが電話して来て『(声を真似て)イーライ、かね? インターネットでdavidlynch.comを見ろ。ビューティフルだぞ』って(笑)。ネットで短編を公開するようになったんだ」
−−リンチがネットにハマったのは君のせいだったのか!

●『マルホランド・ドライブ』制作秘話!

「そうだよ。で、彼の家でビデオを撮るから来いというんだ。僕を使ってリンチが奇妙なパペット・ショーを撮影するって。それが僕にとって初めての役者仕事だった。リンチの家に行ったらナオミ・ワッツとローラ・ヘリングがいて、彼女たちと共演させられた」

−−それって『マルホランド・ドライブ』よりも前の話だよね?
「『マルホランド・ドライブ』公開前だから、ナオミ・ワッツはまったく無名の新人だったよ。『マルホランド・ドライブ』はTVドラマ・シリーズとしてのパイロット版を撮っただけで頓挫していた。どうしたの? って聞いたらリンチは怒って『(声真似して)ポシャった! ポシャったんだ! ポシャったんだよ!』」(笑)
−−TV局がパイロットを観てボツにしたんだよね。でも、その後、フランスのカナル・プリュスが劇場用映画にしないかと言ってきたでしょう?
「でも、リンチは困ってた。『私はこれをテレビのパイロット用に書いた。だから結末を考えてなかった。どんな結末にしたらいいのかわからない』って悩んでたんだ」
−−『マルホランド・ドライブ』の公開時にマルホランド・ドライブにあるリンチの自宅に行ってインタビューしたら、どうやって結末を思いついたのか言ってたよ。
「知ってるよ! 彼はこう言ったんだろ? 『瞑想をしたら浮かんできた』」
−−そうそう。
「たしかに瞑想はしてるけど、本当はね……。さっきレズビアンのポルノの話をしたけど、リンチがもっとレズビアンを観たがるから、ウォシャウスキー兄弟が『マトリックス』の前に撮った『バウンド』をDVDで見せたんだ」
−−メグ・ティリーとジーナ・ガーションがレズる映画だ。
「彼はDVDも嫌いなんだ。『チャプターで勝手にシーンを飛ばしてほしくない』とかグチってる。だから『でも、あなたも見たいシーンだけ見たいと思わないんですか?』って言ってやった。『たとえば、チャプターを使えば、この『バウンド』のレズ・シーンだけいきなり見られるんですよ』って、やって見せた。するとリンチは『そうだったのか!』って目を輝かせてさ、『イーライ、このDVD貸してくれたまえ。プリーズ』だって」(笑)
−−そのリンチの声真似、似すぎだよ!(笑)
「その後に電話して『バウンド』はどうだった? って聞いたら、ちょっとムッとしてんの。『レズ・シーンが短すぎる!』って(笑)。ところがそのさらに一週間後だよ。『マルホランド・ドライブ』の結末をどうすればいいのか思いついた! って電話してきた。で、できあがった映画を観たらアレだよ」
−−実はナオミ・ワッツとローラ・ヘリングはレズビアンだった! そしてレズ・シーンをじっくり見せる……。それも君が『バウンド』を見せたせいだったのか……。この話、映画界では有名な話なの?
「ナオミ・ワッツなんかは知ってるだろうけど、デイヴィッド・リンチの周りにいない人たちは知らないんじゃないかな。ウォシャウスキー兄弟は自分たちがリンチに影響を与えたなんて全然知らないだろうね」
−−ところで、その取材でリンチの家を訪ねたとき、コーヒーテーブルの上に女性の裸の尻や局部を撮影したポラロイド者写真が沢山散らばってたんだけど、あれは何だか知ってる?
「ああ、たぶん僕の友達の女の子だよ。ネット・ポルノで興奮したリンチが自分でもエロ写真を撮りたいって言うから、同じアパートの隣に住んでいた女の子を彼に紹介したんだ。エミリー・ストーフルというんだけどね。僕はリンチの家の倉庫を整理していて、埃にまみれた『ツイン・ピークス』の写真があったから、リンチに『この写真を僕の自宅に保管させてもらってもいいかな?』ってお願いした。『必要なときはすぐに返すから』って。で、僕の部屋にエミリーを入れたら、彼女がその写真を見つけて、『この写真どうしたのよ?』って。『これ、ローラ・パーマーの写真じゃない!』(笑)。そして彼女は『あなた、リンチと知り合いなら、私を彼に紹介してくれない?』って頼んだ。『私は女優になりたいの。デイヴィッド・リンチと仕事がしてみたいの』って。そこで、リンチに『あなたと会いたがってる女の子がいるんだ』と言った。『彼女はきっと裸の写真撮らせてくれるよ』って(笑)。でも、リンチはレズの写真を撮りたがった。するとエミリーが『私には姉妹がいるの』って。そしたらリンチは『今すぐ来い!』って。いつもは誰かを紹介しようとしても『私は忙しい』って断ってたくせに」(笑)
−−それがあの写真だったのか!
「エミリーはその後『インランド・エンパイア』に出て、リンチと結婚してしまった。人生、何が起きるかなんてわからないもんだよ!」
−−マジ? てことは、君はキューピッドってやつ?
「まあね。リンチには『君は私の人生を変えた』って言われるよ」
−−で、タランティーノにもインスピレーションを与えた。
「そこまでは言わないよ。でも、彼らのような偉大なアーティストのクリエイティヴィティに少しでも影響を与えられるのは素晴らしいことだよ。2人とも本当に面倒をみてもらったから、恩返しをすることができて本当によかった。面白いことにデイヴィッド・リンチとクエンティンは同じハリウッド・ヒルズの、2分しか離れてないところに住んでるんだけど、一度も会ったことがないんだ。僕は2人の間を行ったり来たりしてるのに」
−−そんなこと言って、実は君がタランティーノとリンチを裏から操ってるんじゃないの?
「(笑)でも、ブラピにはポルノサイト教えてないよ(笑)。こんなことあんまり話してるとリンチに怒られちゃうな。『(声真似で)イーライ! 君はしゃべりすぎだ! イーライ、私の真似をするのもやめろ』って」(笑)

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