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【公開直前インタビュー】UFOのまち、石川県羽咋市で発生したミステリーサークルとアブダクション事件の謎。インディーズ映画の登竜門、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で絶賛された『地球星人(エイリアン)は空想する』が一般公開開始! 松本佳樹監督と主演の田中祐吉に宇宙怪談映画の裏話を語ってもらった!

タイトル写真:『地球星人(エイリアン)は空想する』より
取材・文 後藤健児

 昨年、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023でSKIPシティアワード&優秀作品賞のW受賞を成し遂げた、製作費100万円、メインスタッフ3人の低予算インディーズ映画が『地球星人(エイリアン)は空想する』だ。地元、石川県で舞台俳優として活動を続ける田中祐吉の企画・主演として生まれた本作の監督を手掛けたのは、映像制作団体「世田谷センスマンズ」の松本佳樹。各地の映画祭上映などを経て、5月11日より東京・新宿ケイズシネマを皮切りに一般公開が開始される。これに伴い、田中と松本監督にインタビューを行い、地球星人奇譚のあれやこれやについてうかがった。

『地球星人(エイリアン)は空想する』ポスタービジュアル

 前のめりな正義感で時として周囲とぶつかってしまう雑誌記者の宇藤(演:田中祐吉)は、興味のないゴシップネタ仕事をやる気なくこなす日々を続けていた。彼のもとにある日、奇妙なネタが舞い込む。それはUFOのまちとして知られる石川県羽咋市で起きた、大学生エイリアンアブダクション事件。ウソを暴かんと東京から現地へ赴いた宇藤が向かったのは、宇宙科学博物館コスモアイル羽咋。グレイ型エイリアンマスクをかぶったマスコット職員のサンダー君に迎えられた彼は、この町が古くから”そうはちぼん伝説”と呼ばれる、未確認飛行物体の目撃例が多発する地であることを知る。そして、エイリアンに誘拐されたという大学生の男性から話を聞き、取材を進めるが、謎のミステリーサークルやUFO目撃例など、ウソを暴くどころか事件を裏付ける証拠が増えていくばかり。さらには、浮世離れした雰囲気をまとう少女・乃愛(演:山田なつき)が現れ、彼女が描いている絵がミステリーサークルと酷似していたことを宇藤は知る……。

宇宙科学博物館コスモアイル羽咋の全面協力のもと撮影された

 超常現象の謎を追う記者の目を通して描かれる宇宙奇譚。『事件記者コルチャック』や『X-ファイル』さながらの和製ミステリーSFがインディーズシーンから誕生した。はじめは眉唾物とタカをくくっていた理論武装の主人公・宇藤が、怪奇の渦巻く町をさまよううちに自身の固定観念もゆらいでいく。その様はデヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』や『ツイン・ピークス』のカイル・マクラクランを想起させる。手持ちカメラの不安定なブレが価値観の危うさをうまく表現しており、観客の認識にもゆさぶりをかけていく。もうひとりの主人公とも言える少女・乃愛は、過去のとある事件に巻き込まれた経験を持ち、孤独な思春期の心のゆれと宇宙への眼差しがリンクし、彼女もまたアイデンティティのゆらぎに葛藤する。まさに”ミステリアス”を体現した山田なつきの佇まいが、宇藤と我々観客を翻弄する。いち地方で起きた事件が情報化社会の波により瞬く間に拡散し、一面的なものの見方しかできない世間の処罰感情や正義の暴走に宇藤や乃愛を含めた人々がのみ込まれていく。その先に待つ驚愕の真実とは。”普通”と”変”の違いとはなんなのか。マジョリティとマイノリティを区別する境とは? このテーマに挑んだ松本佳樹が手掛けた本作のキャッチコピーはこうである――「我々は、地球人である前に宇宙人だ」

少女・乃愛(演:山田なつき)が構える光線銃らしきものは何を狙うのか

 そして、松本監督と石川県在住の田中を交え、作品への思いなどを語ってもらった。(2024年5月、オンラインにて)

ーー各地の映画祭やイベント上映を経て、いよいよの一般公開です。東京から始まり、大阪や金沢など他の地域へと広がっていきます。
松本 映画祭だと映画好きの方が多くいらっしゃいますが、一般公開では普段映画を観ない方たちにも届いてほしいですね。多数派、少数派をテーマに意識した作品です。そういうことへの引っかかりを持つ方に観に来ていただいて、せま苦しい気持ちから解放してもらえればと思います。
田中 たくさんの人が関わってきた作品が評価を受けてきて、うれしく思っています。僕としては、この作品の余韻をスルメを噛むように長く味わいたいです。

松本佳樹監督

――元々、UFOや宇宙人についての興味は?
田中 小学生の頃から宇宙の図鑑を読んだりしていましたね。UFOを目撃したことも過去に2回あります。
松本 UFOへの強いこだわりというわけではないんですけど、日常的なものの中に、不思議なものがプラスαされているのが好きですね。
――本作の参考になった宇宙人映画はありますか?
松本 UFOや宇宙人ものではないんですが、不思議なものを描くという意味で、堤幸彦さんの『トリック』や『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿』には影響を受けました。
――なるほど、目まぐるしいカット割りやスピーディな展開は堤幸彦演出を想起しますね。本作は、石川県在住の田中さん主演にて、石川県で映画を撮るという企画から始まったそうですが、そこからどのように羽咋市の宇宙科学博物館コスモアイル羽咋(かつてカナザワ映画祭2017「宇宙怪談大会」が開催された場所)に行き着いたのでしょうか。
松本 元々、コスモアイル羽咋のことは知りませんでした。僕が所属する「世田谷センスマンズ」のメンバー・北林佑基の奥さん(林真子。彼女もメンバー)が石川県出身で、教えてもらったんです。自然の風景の中に佇む近代的なあの建物の印象は強かったですね。職員が宇藤にアブダクション事件のことを説明する場面の部屋など、一般の方は立ち入りできない場所でも撮影を許可していただきました。

宇宙科学博物館コスモアイル羽咋の全面協力のもと撮影された
館内には宇宙人の解剖遺体など貴重な展示物の数々がある(2017年、筆者撮影)

――シナリオを開発していく上で、UFOや宇宙人に関してのリサーチは行いましたか?
松本 主にインターネットでの情報収集ですが、いろいろ調べました。作品には盛り込めなかったけれど、アレシボ・メッセージや、シュメール人の古代文明、日本人の祖先などの要素も考えていましたね。
――タイトルの『地球星人(エイリアン)は空想する』はどのように着想を? バックミンスター・フラーが提唱した概念”宇宙船地球号”を思わせました。
松本 地球に住む皆を指すことでもあるし、僕自身でもあるなと。『サピエンス全史』という人類史をまとめた本があるんです。その中で、人類の進化とはひとつの種類が進化したのではなく、派生した複数の種が他の種を淘汰していって、いまにたどり着いたと。なぜ、他を淘汰できたのか、それは物語を共有できたからだと言うんです。”我々は山の神様に守られている”ということで団結したり。そういった空想の力で生き残ったと。本から感じ取ったものをタイトルに込めました。
――本作はミステリー調のハードSFとも言えます。ファンタジックな要素もあり、サンダー君の登場などユーモラスな面もありますが、全体としてハードボイルドな印象を受けます。
松本 探偵ものを作りたいという憧れがあって、そこから頑固でクールな宇藤のキャラクターが出来上がりました。あと『仮面ライダー』が好きで、ヒューマンドラマというよりは展開メインのものが好きですね。
――ライダー好きなところは、マスク姿のサンダー君にも投影されているように思えました。
松本 (笑)。
――人物が動かない場面でも手持ちカメラのブレ感があったり、画面の四隅が黒く縁どられていたりと、覗き見感があるというか。それが宇宙人かはわかりませんが、何者かが見ているような違和感が印象的でした。
松本 ”ドグマ95”(デンマークで提唱された映画運動。カメラは必ず手持ちにするなどの”純潔の誓い”が立てられている)の撮り方をスタッフから提案してもらい、部分的に意識しました。それに、いろんな人の目撃談だったり、複数の目線があるということを表現したかった。

”見る”行為は本作を理解する上で重要なキーとなる

――主人公の宇藤は独自の正義感を持つ、クセのある人物です。このキャラクターを田中さんは、松本監督以上に理解されていたということですが。
田中 自分もあまり周囲に手伝ってと言えない人間で、そこが宇藤とリンクするなと。僕はもうちょっとうまくやれていますが、宇藤はそれができないからひとりで突っ走ってしまう。先輩の記者・立岡と話すシーンで「立岡さんはいつも正しいです」と皮肉を込めて言うシーン、あそこで宇藤のキャラクターが立ち上がってきた感じをつかめました。それと、職場に通う、特に知的障害の人の特性(たとえば物の配置や数字などへの強い関心)も役に反映させたところがあります。自分の世界を一途に守ろうとする人物像を宇藤に見ていました。

宇藤の暴走が日本社会すら巻き込んでいく

――田中さんは地元の石川県で主に舞台での俳優活動を続けられています。石川の舞台シーンは、東京とは違った特色があるんでしょうか。
田中 僕が多く出演している、劇団アンゲルスは世界の地方演劇と交流していこうというテーマがあるんです。過去にはロシア、今度はフィリピンの国際演劇祭に俳優として参加します。

田中祐吉

――地方から世界の地方へ、面白いですね。松本監督も北林佑基さん、林真子さんと3人で「世田谷センスマンズ」というユニットを結成しています。誰かが中心ではなく、それぞれが監督をやっていこうという方針と聞きます。
松本 誰かひとりが引っ張るのではなく、それぞれが監督を交代していけば、他の二人はサポートに回ったり、別のことをやれます。ゆくゆくは「世田谷センスマンズ」として団体にファンがついていき、メインストリームじゃなくともサブカルの中のひとつのジャンルになれればいいですね。
――A24のように、そこの作品だから観よう、みたいな。
松本 まさしく、そうです。

「世田谷センスマンズ」のメンバー(林真子、松本佳樹、北林佑基)

――今年の1月に能登半島地震が発生し、石川県の各地で大きな被害が出ました。まだ復興が進んでいない地域も多くあります。
田中 東日本大震災があったとき、僕も何かしなきゃという気持ちがありましたし、僕の周囲でも落ち込んでた人がいました。今回、ちょっと離れた他県にいたりとか、そういう人たちに対して思うのは、気落ちしなくてもいい、ということ。いまを生きているだけですごいことです。
――最後にメッセージがありましたら。
田中 SF映画に食指が動かない人にも届いてほしいです。そして、観て癒されてほしいなと。
松本 多数派、少数派ということで悩んでいる人に届いてほしいですね。作品を観て何か空想して、それを他人と共有することでそこから新たな空想が生まれる。その連鎖によって地球自体が瑞々しくなっていければと思います。

『地球星人(エイリアン)は空想する』は5月11日より東京・新宿ケイズシネマで上映。6月22日からは大阪・シアターセブン、7月20日からは石川県金沢市・シネモンドで上映予定。【本文敬称略】
©世田谷センスマンズ

【作品情報】 監督・脚本・編集:松本佳樹 2023 / 99 分/シネマスコープ/カラー/英題:Alien’s Daydream
【キャスト】 田中祐吉、山田なつき、アライジン、中村更紗、村松和輝、星能豊、ひろえるか、小夏いっこ、町田英太朗、大城規彦、西村優太朗、西よしお、八野田秀平、濱田良男、藤えりか、藤澤克己
【スタッフ】撮影監督:常川千秋/撮影:北林佑基・松本佳樹/監督補佐:北林佑基/劇中絵画: 松本佳樹、山田なつき/撮影応援:冨永悠奏/美術応援:佐々木かな、林真子/車輌:田中祐吉、星能豊、大沼賢太


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