“映人仲間”第十一回『瀧井孝作役 髙橋雄祐さん』
映画『初めての女』の原作『俳人仲間』(新潮社)になぞらえて、本作の監督・小平哲兵が撮影当時のキャスト陣とスタッフ陣を振り返ります。
"ムカつく人"
17回目は主演の髙橋くんの事を振り返っていきたいと思います。
この作品を振り返れば私は一番印象に残っている時間は、やはり原作の瀧井孝作、老年期孝作の石原さん、そして何よりも青年期孝作の髙橋くん、三人の孝作との濃密なままに今も心に残る時間たちです。
髙橋くんと今作での初めての印象は"ムカつく人"です。
オーディション時に私が質問しているにも関わらず逆に聞き返してきたりで、なんだか反抗期の中学生を相手しているようでした。
しかしそれは、彼がなによりも本気だったからです。
その時に私が感じたのはムカつくが嫌いになれないなぁーと感じました。
そして同時に、この本気くんが孝作になれなかったら全てが私の責任だと思えました。
だから、彼が三人目の孝作です。
孝作ハラスメント
それから昼夜も寝る間も食事の時も、全ての時間を孝作に捧げてくれました。
いわば孝作ハラスメントに付き合って頂きました。
…しかし彼は本気くんなので実際は私が孝作ハラスメントの被害者だったのかもしれません。
きっと一人目の孝作もウンザリしていたのかもしれません。
あと、この頃も恐ろしい数の質疑応答を日々お互いにやり合っていたので本当にムカつく毎日でした(笑)。幸せでした。
そして、一週間の合宿所での前のりが始まり、稽古場は勿論のこと一緒に風呂に入ってる時にも「孝作は風呂に浸かってると女の事を思うって書いてあってさ…」など、ご飯を一緒に食べている時も孝作の好物の話しや、たまに顔を出してくれる二人目の孝作を交えての孝作談義などなど、ずーっと孝作三昧でした。
そうやって自身の解釈を見つけながら自分を知り、彼は少しずつ着実に一人目の孝作に近づいていったのだろうと思います。
私はこの頃から目の前の本撮影を意識し、彼との孝作ハラスメントの日々が終わるのを少々寂しく思っていました。
孝作抗争 勃発!
そして遂に、本撮影が始まりました。
一日目からです!
一日目の撮影が押している中で彼と私の孝作抗争が勃発しました。
まぁまぁ揉めましたが私の内心はなんだか嬉しかったのを憶えています。
きっと実はこんな時間を与えてくれるから、あのオーディションで彼に決めたのかもしれません。
しかし…ほぼ毎日こんな状況は続くのですが、私はやっぱり、嬉しくて、そして毎日を孝作に別れを告げる想いで臨めました。
きっとそれら全てを髙橋くんは感じてくれていたのだと思います。
故郷に別れを告げる始まりの物語
それから瞬く間に時は過ぎ、約一ヶ月の本撮影期間も残すシーンは孝作の丁稚奉公先の部屋でのラストシーン、色々ありましたが無事撮り終えることができ、ロケ現場の片付けも終えたのですが、僕はその場所から動くことが出来ませんでした。
そんな所に髙橋君が一人やって来て、正座をし両手をついて「ありがとうございました」と頭を下げにきました。
小平「どしたんや?」
髙橋「なんだか、この場所に有難うと伝えたくて」
その時に僕は同じ気持ちになってくれたんだなぁと感じて涙が出ました。
映画「初めての女」は瀧井孝作が様々な別れを経験し、故郷に別れを告げる始まりの物語りなのです。
あの時、そんなことを再認識させて貰いました。
最近、公開で髙橋くんがチラシ配りをよく手伝ってくれます。
その合間にこんな言葉をかけてくれました。
「哲兵さん、おれこの作品で半世紀は寿命縮みました……いや、半世紀は言い過ぎました(笑)でも寿命縮まっても幸せです。そんな風に思えるからです」
全く泣かせてくる(笑)
髙橋雄祐くんと孝作を通して過ごした時間は、揉めた時も喜んだ時も迷いの時も幸せな時間も、どんな時も全ての時間が恋しい時間だったなと思えます。
彼はそんな風に接した人に思わせてくれるそんな人です。
ありがとう。
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