「本を手渡す」ということ

(2021年9月に書いたものです)

9月になりました。

先月末に、「絵本を手渡す」ということについて大きく心が動かされる出来事がありました。文具店の一角で小さく絵本を中心に置いている絵本日和の本棚@文光堂ですが、相変わらずそれほど本のお客様は多くなく、その日も「本のお客さん来ないなぁ」と少し気持ちが落ちていました。
そんな時に若い男性のお客様が見えて棚から何冊か出しては戻しされていたのでお声かけしたところ
『赤ちゃんに…』と仰られましたので、赤ちゃん向けの絵本を数冊ご案内したのですが、今ひとつ表情が芳しくなく…
もう少し絞っていこうかと
「何ヶ月くらいですか?」とお聞きしてみました。
すると、しばしの沈黙の後
「死産だったんです。
最後に読んであげようと…」
と最後は涙ぐみながらの返答で
私も思いもよらない言葉に少し涙ぐんでしまい
「お辛いですね」
と言うのが精一杯でした。
旅立ってしまう赤ちゃんに読んであげる絵本…という想いで棚を見渡した時に
楽しい気持ちで安心して眠りにつける内容の絵本に手が伸びました。
お伝えしたら
「この絵本をいただきます。」
とお買い上げいただいてお見送りいたしました。

本来は元気に明日を迎える絵本で、相応しかったのかわかりません。
でも、読んであげるのなら楽しく安心できる絵本を、と咄嗟に思ったのです。

こんな風に絵本を求める方が来てくださること、もっともっと勉強していかなくてはいけないし、大切に絵本を届けていきたいと改めて心から感じる出来事でした。

ただ思うのは、ひとつの生命の話でもあり、noteのような不特定多数の人が目にする可能性がある場に投稿するのは不謹慎ではないかということ。あのお客様にとって勝手に書かれるのは不本意ではないだろうかという気持ちもします。

私の中では、本はただの品物ではないことを改めて強く感じた出来事で、「本を届ける」ということに対して襟を正して向き合っていきたいと 誓いのような約束のような想いを抱くことができた忘れられない出来事でした。

これから店をしていく中で、記しておきたい大きなことだったので、ひとまず下書きに保存します。少し時間が経ってから公開するかどうか再考とします。

追記:公開することにしました。

自分だけの決意のような気持ちだけなら下書きのままで充分かと思いましたが、四十九日(仏教の場合ですが)もとうに過ぎ、亡くなった赤ちゃんのご供養と御家族への気持ち、ひとりでも多くの人が安らかであって欲しいと感じるのであれば、誰かに読んでもらうことは意味のないことではないと思うようになりました。

ちょうど直後に不思議なタイミングで、その絵本の出版社さんと作家さんとこのことをシェアする機会があり、共に冥福をお祈りした時に、心を寄せる人が多い方が良いと感じたので、そんな想いもあります。

読んでくださる方が、しばし気持ちを寄せてくださればと願います。

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