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緑色の彼女をさがして vol.33

夕方、
友達との待ち合わせに10分遅刻した。走って改札を出たけど、そこに友達はいなかった。

携帯には「今から電車に乗る」という友達からのメール。人を待つのはむしろ好きだから、むしろちょうど良かった。



駅の中は少し寒くて、駅前のコンビニ。

同い年のあの人が撮った写真が雑誌の表紙を飾っている。別に知り合いではないけれど、知り合いの知り合いくらいの。

学生の頃「天才だよね」と讃えていたあの人は、あれよあれよというまに売れっ子になった。そういえばさっき、再来週から始まるその人の展示会に行こうという誘いが、学生の頃「あの人は天才だよね」と、一緒に讃え合っていた友達から連絡がきた。

私はもちろん「行く」と返事をした。



冬限定のガーナチョコを買ってコンビニを出る。駅の改札口まで戻って、チョコレートを一つ食べた。

ガーナのチョコレートは父の好物だった。シンプルな赤い箱に入っているあの板チョコが、いつもダイニングテーブルの上にあった。お菓子が入っている戸棚の一番下のカゴにも、封を開けていないその赤い箱が、いつも一つは入っていた。だからなんとなく、チョコレートは赤い箱を手に取ってしまったりする。



到着した友達は、
数日前と髪型が変わっていて、
切りそろえられた襟足がいい感じだな、と思ってつい眺めてしまう。


それから私の悩みをセキララに話しながらカレーを食べた。久しぶりに食べたカレーの味は、なんだかとても安心感がある。

カウンターで、
私はべらべらと個人的すぎる話をしてしまった。誰かに聞かれていたとしたら、鼻で笑われていただろうなと思うれど。でも本当に悩んでいたから、そんなことは気にせずに話をしてしまった。



カレー屋を出て向かったのは、
いつもの不二家レストラン。
今日もノスタルジックな灯りが光ってた。


窓際の席で、
メロンクリームソーダを二つ。


緑色のソーダと、赤いチェリーと、あの美味しいバニラアイス。
でも何かが足りない気がしたけれど、それが何かはよく分からなかった。

恋の話をしながら飲むクリームソーダは、すぐに空っぽになってしまった。


あれこれ憶測で話たって、
本当のことは当人にしか分からないし、それを聞くのも聞かないのも、自分なんだと分かっていながら、私はまた憶測で話をしてしまう。そんなことをしている時点で答えは出ている気もした。


薄いミントグリーンになった空っぽのグラスを目の前に、来年の話をし始める。来年の事を話しているようで、
それは私たちがこれからどうやって生きていくのか、という話でもある。


「こうしなきゃいけない」とか、
「こうでなきゃいけない」とか、

もしかしたら、
そんなことを自ら決めようとしなくても、動いていたら自然に答えは出ていくんだろうなとも思う。

でも、
ちゃんと生きていくことを考えたら、
つい、「こうしなきゃいけない」という答えを出そうとしてしまう。


「一年で何が起こるか分からない」
本当にその通りだ。友達はそう言って、知り合いの話をした。

仕事にしろ、恋愛にしろ、
一年で何が起こるかは誰にも分からない。

自分のことを思い返してみても、この一年だって良い意味で想像と違っていたし、それは気づいたらそうなってたように、これからだって良くも悪くも、なるようになっていくのだなあと思う。

そもそも、
目の前にいる友達も、
もともと友達の友達だったのに、
最近はなんだかんだで週一ぐらいで会っている。来年の約束までしている。

そんなこと、
去年の私が想像しただろうか、
と思うと、やはり不思議だなぁと思う。


0時すぎの電車に乗って、部屋に帰る。突然に、今日飲んだクリームソーダの足りない部分を思い出した。


ホイップクリームだ。

今日のクリームソーダには、ホイップクリームが乗っていなかった。


どうでもいいけど、
なんかちょっと惜しい気持ちになった。



今回の緑色の彼女

不二家レストラン

メロンクリームソーダ 400円

バニラアイス、ここにしかない味。

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