【燃えよ大陸横断族!】 プロローグ

抜けるような青空。
海岸沿いの一本道。
誰もが思わずかっ飛ばしたくなるシチュエーション。
しかしのんびりとした速度で走る一台の車。

少年「ねえ父さん。もっとスピードでないの?」

父「ん、どうして? 用事でもあるのか? ああ、ステアちゃんとデートか」

少年「違うよ! そうじゃないけど……だってこんなにすいてるんだよ?」

父「ああ、そうだな」

笑って取り合わない父に苛立つ少年。
場面は一転、下校中の少年。
後ろからイジメっ子グループが走ってきて、少年を突き飛ばして転がす。

子供1「うぇーい!」

子供2「ノロマ~」

子供3「トンマ~」

子供4「ぼーっとすんな~」

黙って立ち上がり、無視して歩き出す少年。
さらにあおり立てるイジメっ子達。

子供1「(クラクション鳴らす真似)パッパー!」

子供2「トロトロ歩いてンじゃねーよ」

子供3「邪魔なんだよ」

子供4「こいつこれ以上スピード出ないんだぜ。『セーフティ』だからなー」

笑いながら走り去るイジメっ子達。
シーンは変わって夕暮れ時。
少年は岸壁の草原で独り座り込んでいる。
少年の祖父が彼を探してやってきた。

祖父「もうすぐ晩メシだぞ」

少年「…………」

返事はなく動こうともしない少年。
祖父はやれやれといった感じで少年の隣に腰を降ろす。

祖父「よっこらせ。おお、綺麗だなあ」

少年「…………」

祖父「ここの景色が好きか? ずいぶんとロマンチストじゃないか。じいちゃんがお前ぐらいの時はプラモに夢中だったぞ。誰に似たんだろうなあ、お前は」

少年「父さんは」

祖父「ん?」

少年「父さんは一番速いんだよね?」

祖父「…………」

少年「一番速く走れるから族長なんだよね?」

祖父「ああそうだ。お前の父さんは誰よりも速い」

少年「でも僕、父さんが速く走ってるとこ見た事ない」

祖父「必要な時は速く走るさ」

少年「必要な時っていつさ!」

祖父「……ブレイク」

少年「みんな父さんの事『セーフティ、セーフティ』ってバカにする。悔しくないのかな?」

祖父「速いってのはなあ、ブレイク。むやみに飛ばすって事じゃあないんだ」

少年「父さんもそう言ってた。それでここに連れて来られたんだ。答えはここにあるから探してみろって」

祖父「なるほど。そうだったのか」

少年「でもどこにもみつかんない。じいちゃんは答え知ってるの?」

祖父「うーん・・・そうだな。しかし口で説明する事は難しい。それにやはりお前自身が見つけなくては意味がないんだろうな」

少年「ええ~どういうこと? 全然わかんないよ」

祖父「まあ大変かも知れんが、頑張って探す事だ。代わりに秘密のすごい話を聞かせてやろう」

少年「なあに? またばあちゃんに内緒でプラモ買ったの?」

祖父「ああ、こないだのはでか過ぎた。組み立てたらお前より大きかったからなあのザク……」

祖父、思い出してブルーになる。
少年、祖父の肩をぽんぽんと優しく叩く。

少年「ばあちゃんてば、何も爆破しなくっても……ね? 」

祖父「だろ? 無茶苦茶だよな。そこまでするか普通。楽しんでんだよあいつ。笑ってたろ? あいつ……ちょっと、こう……ほくそ笑んでたろ? そういうやつなんだよ昔っから」

少年「……じいちゃん大丈夫?」

祖父「ん? あ、ああ何の話だったかな」

少年「秘密のすごい話の話」

祖父「おお!そうだった。プラモの話じゃあない、もっとすごい話だ」

少年「なになに? あ! ひょっとしてラジコンのザク?」

祖父「あれはすごい! すごいよなあ、動かせるんだぞ自分で! 弾とか撃てるんだぞザクマシンガン。こう……狙って……まあBB弾だけど、あとモノアイの映像がプロポでモニターできて——ああっ! そうだ、あの画面って外部出力出来ないかなあ? そしたらほら、こういうあのメガネみたいにかけるタイプのディスプレイで見れるじゃん。まさにコクピットに乗って操縦してるって気分に……10万かー、おもちゃの値段じゃないよなあ……頑張れば買えなくもないんだけどな……10万……」

少年「じいちゃん大丈夫?」

祖父「ん? ああ、ええっと」

少年「秘密のすごい話の話!」

祖父「そうだそうだ。残念ながらラジコンでもない。同じぐらい……いやもっとすごいぞ。ディーゼルの秘宝にまつわる話だニャアーニャア」

少年「 (ビクっとして)な、なに?」

祖父「むかーしむかしダバァーン! ニャアーニャアニャア」

少年「ちょっとじいちゃんマジで大丈夫?」

祖父「ディーゼルの聖地メルセデスでダバァーン! ペッペッ」

祖父、いきなり少年に唾を吐きかける。

少年「うわっ! 何すんだよ! ちょっとじいちゃ……うわあっ!」

場面は変わり、同じ岸壁の草原だが時間は明け方。
ウミネコが鳴いている。
岸壁に打ち寄せる波が飛沫をあげ、眠っているブレイクの顔に降り掛かる。

目を覚ますブレイク。
上半身を起こし顔をこする。
再び降り注ぐ波飛沫に顔を背け袖で拭うとくしゃみが出る。
瞬間、頭痛に見舞われ頭を押さえるブレイク。
昨夜の事を思い出す。
漂泊の民、ディーゼル族のオペル移住20周年記念式典のパーティ後、父親と口論になり、車に乗らず歩いてここまで来て、酒を呑んで眠ってしまったのだ。

傍らにある酒瓶を見つけ、口に運ぼうとするが思いとどまり、海へ投げ捨てる。
今日は実家の板金工場の仕事は遅番で午後からだ。
これが自宅なら二度寝というところだが、此処からだと結構距離があるし、おまけに歩きだ。直接行かなくては間に合わないかも知れない。

ブレイクは思いっきり伸びをし、億劫そうに立ち上がると、昇り始めた朝日に目を細めた。

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