ノンアルコールドリンクの道を切り拓け
お酒を飲めない食いしん坊のみなさん。率直に聞きます。お酒を飲めなくて悔しい思いをしたことはありますか。お酒を飲むシーンに憧れを抱いたことはありませんか。私はあります。すごくあります。
「締切から放たれた開放感で一杯はじめたい」「少しの背徳感を感じながらお酒でいい気分に浸りたい」
「え、お菓子とのペアリングはアルコールのみ……?」「ノンアルコールでも対応可能だけど候補がこれだけ……?」
「こんなん飲まなきゃやってらんね〜〜(飲めない)」「楽しみにしてたパフェが洋酒ふんだんに使う系だった〜」「物産展(地方のお土産)のドリンク枠ほとんどアルコール説……」
これはお酒を飲めない私が日頃感じている、お酒への憧れ故のかなしい呟きです。
私は体質的にお酒がほとんど飲めなくて、おそらく嗜む程度も本来ならば避けた方がいい部類の人間です。成人したての頃は、お酒を置いてある飲食店に入ると、時間をかけて付き合いで一杯を飲む程度のことはしていたのですが、体に合わないということを理解してからは飲むのをやめました。
ですが、過去のnoteの記事を見てもらえたらわかる通り、私の生活は食を主軸に動いており、とにかく食への興味関心があまりにも強いのです。ちなみに得意分野はおやつ(和菓子、洋菓子、チョコレート)とカフェ。
この数年でお菓子業界でも〝ペアリング〟という言葉をずいぶん聞くようになって、和菓子と日本酒や、アシェットデセールに洋酒など、お菓子とお酒のペアリングを提供しているお店を見ることも増えました。
私だってお酒特有の香りや風味の良さは好きなのに、いかんせん飲めない。頼めない。注文しようか検討することもできないのです。掛け合わせることで開く扉があるのはわかっているのに、開けられないのがもどかしい。
ご当地のクラフトビール、蒸溜所のイベント、日本のワイナリーのワイン、絶対に好きな味の組み合わせで作られた季節のカクテル。知らない味があるのに手を出せない歯がゆさ。
あいにく、仕事仲間との大勢の飲み会に参加したいとか、友達とお酒を飲みたいとかそういった〝人とお酒を飲みたい欲〟は持ち合わせていません。けれど〝この締め切りを乗り越えたら〟〝明日は休みだから〟と理由をつけ、自分のためにとっておきのお酒を用意して特別な時間を過ごしたいという欲は随分と燻らせている。
実はそんな自分が最近ハマっていることがありまして、それは〝ノンアルコールドリンク〟開拓です。
個人的にはひと昔前のノンアルコールドリンクのラインナップといえば、ビールやチューハイなど「普段お酒を飲んでいる人が何らかの事情で飲めないときに代替えとして飲むもの」のイメージが強くあります。
でも今やどうでしょう。スパイスをブレンドしたもの、ハーブを蒸留して香りを楽しむもの、中にはノンアルコール専門の工房を構えているブランドもまで。嗜好品としてのノンアルコールドリンクも着実に増えてきているのです。
ノンアルコール開拓記録と名付けて、ここからは私が見つけたノンアルコールドリンクをブランド、種類(名前)、購入場所、どんなシーンで飲んだか(または飲みたいか)を記していこうと思います。
アルコールを飲めない人も、飲める人も、よければ一杯片手にカウンター越しに話を聞くようにお付き合いください。
お酒を飲めない私が見つけた、とっておきのノンアルコールドリンク
◯ふらっと立ち寄り一杯、ノンアルコールのDrink Bar
ブランド名〈CAN-PANY〉頼んだもの〈ジンジャーソーダ、our tonic〉
お店の場所〈清澄白河〉どんなシーンで〈その場で一杯と、ビンタイプのものは持ち帰って作業明けの乾杯用に。持ち帰れるものもあるので、自宅にストックしておいてとっておきの時に飲みたい〉
ノンアルコール専門の工房併設型のお店。ジンジャーソーダは晴れた春の庭をイメージしたらしく、入っているのは生姜、オレンジフラワー、春ウコンなど。our tonicはアーユルヴェーダでも使われるスパイスが主に入っているそう。柑橘、ハーブ、スパイスの風味が複雑に混ざり合って、口に回る香りの良さを楽める。言葉にし難い複雑美味な味。これこそ特別なノンアルコールドリンクとして追い求めていた味です。
◯シナモン専門店が作るスペシャルなシナモンドリンク
ブランド名〈しなもんや〉購入したもの〈町田シナモンエール〉
購入した場所〈豊洲のフードストアあおき。各地で取り扱いあり、または通販で購入可能〉どんなシーンで〈夜にいい気分になりたいときに〉
シナモン専門店が3年の歳月をかけて開発したと言われたら気になってしまうじゃないですか。入っているのは町田シナモンというシナモンドリンクとてんさい糖、生姜エキス、レモン果汁。風味の優しいものではなく、シナモンの旨味がブワッとくるスパイシーな味。シナモンのもつ力強くもアロマな香りがエキゾチックで夜に合います。
シナモンの木の皮を削ったものなのか生姜エキスなのかわからないけれど、光にかざすと花のように舞うのがロマンチックです。
◯アンテナショップで出会う、少し変わったトニックウォーター
ブランド名〈Bar Kuromoji〉購入したもの〈クロモジトニック〉
購入した場所〈日本橋とやま館〉どんなシーンで〈お風呂上がりや仕事終わりなどのさっぱりしたいときに〉
聞き馴染みのない方も多いと思いますが、クロモジは木の種類なのです。アロマのような香りの良さからか、最近クロモジのお茶や精油を使ったアロマミストなど見かけるようになりました。このクロモジトニックは柑橘の風味が少しと苦みが強め。富山のアンテナショップで購入したものなんですが、お土産のドリンクコーナーにこういうのが増えたら嬉しいなと思う今日この頃……。
◯植物園で採取された____を使ったボタニカルコーラ
ブランド名〈日本草木研究所〉購入したもの〈草木コーラ〉
購入した場所〈小石川植物祭〉どんなシーンで〈夜にうっとりしたい気分の時に〉
植物園で開催されたイベントに伴い、その植物園で採取されたショウブを使った草木コーラを製造、販売されたもの。
いろいろなスパイスがそのままの姿で入っている原液はなんだか秘密の薬のよう(気になる方は茶こしを使っても◯)市販のコーラと比べて爽やかでスパイスの風味が豊か。基本的には炭酸水で割ってコーラとして飲んだのですが、スタッフさんのオススメアレンジ法でホットミルクと割ったらチャイのような味わいに。濃ゆくてしっかり甘い。
私はよく日曜日夜にNHKで放送されているクラシック番組(クラシックの知識はないものの、なんとなくお気に入り)を見ながら飲んでいました。ノンアルコールでも晩酌感が出ておすすめです。
◯やすらぎたい時に飲みたい、お守りシロップ
ブランド名〈Calm〉購入したもの〈コーディアルシロップ〉購入した場所〈公式オンラインショップ。不定期で関東を拠点としたPOP UPでの販売もあり〉どんなシーンで〈心を穏やかにしたい時に〉
calmはハーブや果実を使ったコーディアルシロップを作る個人ブランド。愛用して数年経つ、無くてはならない存在です。calmのシロップは今まで紹介してきたノンアルコールドリンクとは少し系統が違い、生活に寄り添うようなドリンク。
ひとつひとつのシロップには詩のようなすてきな意味が込められていて、言葉に惹かれて選ぶも良し。自分に必要なハーブを調べて選ぶのも良し。なんとなく優れないなという時や、気分が落ち込む時に飲みたくなるお守りみたいなシロップです。
calmではいろんな種類を飲んできたけど、グレープフルーツが軽やかなSEA、いい夢を連れてきてくれそうなラベンダーのcalm starが好きです。炭酸割りが主流なのかな?と思いますが、私はティースプーン一杯のシロップを100ミリくらいのお湯に溶かして飲むのがお気に入りです。
◯ゴクゴク飲みたい、八百屋が作る新生姜シロップ
ブランド名〈京都八百一〉購入したもの〈新生姜シロップ〉購入した場所〈麻布台ヒルズ〉どんなシーンで〈いつでも。朝も昼も夜もどんなシーンでも合いそう〉
八百屋さんのつくるシロップってだけで面白くって手に取りたくなる。春夏の季節に飲みたくなる爽やかな新生姜シロップは、炭酸水で割るとジンジャーエールになり、お湯で割るとほっとレモン的な味わいに。喉にピリッとくる刺激が癖になるのです。体に良いものを飲んでいると思うとなお気分良し。
季節によって変動があるかと思いますが、初夏に訪れた時のラインナップはパイン、赤紫蘇、梅あたりだった気がします。
一般的なノンアルコールドリンクの定義としては、アルコールが入っていなくとも、お酒の代わりとなるような風味が味わえるドリンクのこと。取り扱うお店が少なく、身近なお店では手に入りにくいのが現状です。よって私たちの日常に近いアルコールが入っていない飲料はお茶やジュースなどになります。
最近はスーパーに並ぶようなジュースやお茶の類でも大手の飲料メーカーがユニークな商品を開発していたりと(直近だとライチ風味の紅茶スパークリングにスパイスを加えたものが面白かったです)身近なものでも充分に楽しむことができます。手頃さや商品数、出先での買いやすさをとってもアルコールが入っていない飲料の方が優位に立つでしょう。
それに、お酒という嗜好品の飲み物に並ぶような、一杯千円前後するような紅茶やコーヒーの専門店もあるし、お茶の飲み比べが出来るようなお店も増えている。私もその類のお店には日頃から楽しませてもらっています。
けれど、そうじゃない。
そうじゃないというか、求めているものの方向性が違うのです。
アルコールドリンクの対岸の存在として、私がノンアルコールドリンクに求めるのはアルコールドリンクと遜色のない特別感。普段飲む飲料では得られないような独特の風味、香りの良さ、飲む時間の特別感と少しの背徳感がほしいのです。
今回私が選んでお話ししたものも、スーパーなどにはあまり並ぶことがないであろう、ハーブやスパイスが効いたもの、香りや風味に重きを置いたモクテルなど、少し癖がある嗜好品としての側面が強い飲み物たちばかりです。
数年前に一時期ノンアルコール専門のバーや新規のノンアルコールドリンクスタンドなどの出店が続きましたが、その後は特に盛り上がることなく隠れてしまった印象があります。
まだまだアルコールドリンクのように大衆的ではなく、そこに目を向ける作り手さんも多くはない。そして私のように興味をもって買う人ばかりというわけでもないでしょう。紅茶やコーヒーにこだわる人がいても、私が指すようなノンアルコールドリンクにわざわざ目を向けるという層は少ない気がします。
これは決してノンアルコールに目を向けている自分を特別視したい訳ではなく、単純に食の催事やメディアでも話題になっているのをあまり見かけないのです。
確かにアルコールが飲める人からしたら、わざわざノンアルコールドリンクを選ぶ理由はないし、飲めない人からしたら、私のように食への興味がよほど強くないと外でならまだしも、わざわざお金を出してまで家で飲みたいという理由にはならないかもしれません。
でも、普段お酒を飲む人だって今日はアルコールを入れたくないな、でもなにか飲みたいなという日があるかもしれない。アルコールが飲めない人にだって自分を解けさせる一杯を飲みたい日もあるし、乾杯したい日だってある。
お酒を飲む人のように、仕事終わりの帰宅前に軽く一杯飲める場所がほしい。グラスの中の香りや複雑な味に魅せられる時間の心地よさに耽ったりしたい。飲めなくたって一杯のグラスに向ける期待値は同じなのです。
以前、気になっていた飲食店がうちの店にはお酒が飲めない人は来ないでください。◯杯以上飲める方のみどうぞ。と話していて、とても悲しかったのを覚えている。
確かにそのお店はお酒と料理を楽しむためのお店で、どちらかが無くては正しく魅力を伝えられないと考えているのでしょう。店に関しては店主がルールですし、自分もお酒が飲める人間でお酒を愛していれば、もしかしたらそういうお店を作る可能性だってあるかもしれません。
店は客を選べるし客だって店を選べるのだから、互いの不一致があれば他のお店へ行くしかない。でも単純にかなしかったのです。バーならともかく、そこのお店の料理が食べたくても、お酒を飲めないと入る権利もないお店が存在するのが。
ごく稀に感じるお酒を飲めない人間の居場所のなさ。ごく稀に、と書いた通り普段はほとんど感じることはありませんが、現実問題、お酒が飲めないと選択肢が狭まれてしまうし、シーンによっては疎外感を感じたりすることもある。
だからこそ飲めない人間も同じように、料理とのペアリングを楽しんだり、バーのように目の前の一杯と向き合える場所が欲しいと思ったのです。
たとえばホテルでの過ごし方で。今はおひとりさま用の宿泊プランを備えているホテルも多くあります。その中のプランの一つに、滞在中にノンアルコールドリンクを満喫できるプランがあったら。
ウェルカムドリンクにはじまり食事中のペアリング、食後のドリンク、眠る前の一杯。時間帯に合わせてノンアルコールドリンク(またはモクテル)をたのしめるコースがあれば。
ノンアルコールだからこそ、時間帯や身体のことを意識したドリンクを作ることもできるとしたら、いつもよりもゆったり過ごすための手立てにもなり得るのではないでしょうか。
自分の時間をより意識するための特別な一杯。内省したり、気を抜いてぼうっとしたり、お休み前に心を沈めたり、そんな時間に寄り添うようなドリンクがあれば、ホテルステイでよりいい時間を過ごせそうです。
いい時間を過ごせそうな場所に注目してみると、都市や観光地にある公園などでモクテル(ノンアルコールのカクテル)などを提供できたら。最近は都市型の公園も増えてきており、中にはコーヒーショップや体験型施設などが園内に常設されることも。そこにノンアルコードリンクスタンドができたら、園内で育てたハーブを使ったり、その公園をイメージしたモクテルが飲めたり……。
小鳥のさえずりを耳で聞き、風に吹かれドリンクを飲む。森林浴がより捗りそうないい相乗効果が生まれそうです。
リラックスすることに重きをおくとすると、スパ施設などとの相性も良さそう。お風呂やサウナで体をほぐしたあとにリラックスを促すような一杯が飲めたら、きっといい一日の締めくくりになるはず。
想像しながら書いていたら、もうすでに体感したい気持ちがムクムクと湧いてきてしまいました。日々の張りつめられた緊張をほぐすために、ノンアルコールドリンクのある時間を過ごせたら。ささいなことだけど、きっと心と体の栄養になるでしょう。
途中で紹介したようなcan-panyのように気軽に一杯飲める場所も増えてほしいところです。実際、訪れたcan-panyでは同行者がいたというのもありますが、滞在時間は15分前後でした。
簡易的な椅子はありますが、基本的にはスタンドタイプの店なので立っていただくことになります。そうすると、ゆっくり出来るカフェだとつい携帯を触ったり書き物を始めてしまいますが、ここでは目の前の一杯に神経を集中させることができる。ドリンクの色 香り、味を脳内で分解したりして、滞在したのは僅かな時間でもいいリフレッシュになりました。
こういうふらっと入って出てこれるような気軽なノンアルコールドリンクのスタンドが増えたら。
例えば、ドリンクの種類によっては難しいかもしれませんが、その日の体調や気分に合わせてハーブやスパイスが選べたり、コーディアルシロップの掛け合わせができたりしたら、きっと現代社会の強い味方になるし、通いたくなるお店になる。
アルコールドリンクの楽しみ方や、楽しめる場所が広く普及されて生活に馴染んでいるように、ノンアルコールドリンクにも豊かな楽しみ方が増えたら。飲みたいけど飲めない人に今よりも選択肢が増えたら。きっとまた新たな食の世界が広がるでしょう。
場所に合わせて、料理に合わせて。時には心と体のために。柔軟に変化できるノンアルコールドリンクには私の想像を超えるような可能性が秘められているはず。
これからのそう遠くない未来に、今よりもノンアルコールドリンクに光が当たることを心から願って。そのためにも、引き続きノンアルコールドリンク開拓を進めていきます。