見出し画像

無数のシャッターを切る代わりに

 インターネットで鳥の写真を見た。カヤクグリという名の小さな鳥。一見スズメに似ているがもっと地味で、かわいらしい顔をしている。

 こんな写真を撮れるなんて羨ましいな、と一瞬思うが、すぐさま自分にはその気がないと知る。写真とは、結局は誰かに見せるためのものだ。それがたとえ未来の自分一人だけだったとしても。私は誰かに、良い瞬間を見せたいとは思っていない。

 よく晴れた早春の午前、私は双眼鏡を手に外へ出る。よく見ることはできても、あとには何も残せない道具。川沿いに歩くと、たった一羽、水面にカワアイサが浮いている。レンズ越しに覗くと、黒と思っていた顔の色は濃い緑だった。その鳥が川面を滑り出し、ついには連続的に羽ばたいて飛び上がった。私がカメラマンであったのなら無数のシャッターを切ったであろう。

 私は護岸に腰掛け、水筒の熱いお茶を飲んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?