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2023アートワークを振り返る

こんにちは。ミヤオウです。
今日は2023年に制作させていただいたアートワークを振り返ります。

2023年は主に5つ(6つ)のアートワークを制作しました。


TOMC / MORAL (Original Soundtrack)

2023.1.18 Released
ビートメイカー・TOMCによる、公演「MORAL」のためのオリジナル・サウンドトラック。この演劇「MORAL」は、1980年代に劇作家・如月小春(きさらぎ こはる)によって発表された「MORAL」を円盤に乗る派がリブートしたもの。80年代の消費社会や、都市に生きる家族の関係などをモチーフにしている。
「MORAL」に収録されている4つの曲はそれぞれ 'Family' 'Private' 'Sinking' 'Moral'と付けられていて、すべてビートは無く、アンビエントになっている。空気のように漂いきらめく音。しかし、その音には不穏な重さを含んでいる。3曲目の 'Sinking'では、まさに、黒く深い海に落ち込んでいくようなピッチベンドされた音と、その奥の暗闇から何かの啼き声が聞こえる・・・。
物事を考えるときに、感情が否応なしに入り込んできて、いつの間にか占領されることがある。Thinkingの過程でのSinkingだとも思った。核家族化によって、すれ違い、心を内に閉じているそれぞれが居る、都市の狭間のダイニング・ルームに漂う沈黙の時間。用意された清潔な皿の上には、何も無い。消費が血肉となり得ないところの虚しさ。その辺りを表現した。この虚しさは今もなお加速し、広がっていることなのではないか?SNSではいつだって自分の見たいものが見れるし、そこに居なくてもどこかや誰かの状況が分かるような気がする。でもやっぱり、見えない。なにか繋がりきれない。ついに見えなさを恐れて、そしてまた見る。でも見えない・・・。この距離感ってとても難しい。ある程度のゆるやかな距離、それと同時に限りなく近くに居たい心。ただ、本来は見えないことがデフォルトだということを見えすぎる(と思い込んでいる)世界に於いて改めて認識していきたいと思う。




Till Yawuh / To-ri

2023.10.11 Released
音楽家・Till Yawuh(ティル・ヤウ)による、4曲収録のEP 'To-ri' がカクバリズムから10/11にリリース。のちに7inchレコード(2曲収録)も発売された。デジタルアートワークとレコードデザイン、ティザー映像を制作させていただいた。
ベッドルーム・ポップの中でしっとりとしたブルースを感じるが、かといって哀愁に寄るという感じでもない、良い意味での絶妙に浮遊する軽さがTill Yawuhさんの持ち味だと思う(声も浮遊感がある)。ピアノやドラム、ギターなど全体的に音はアナログ感があって、バンドとしても聴くことができる。実際、この先でバンドセットとして聴きたいかもしれない。
実はもともと作っていた部屋のCG空間を使用していただいた。廊下を進んでも進んでも、同じ夕暮れのリビングを漂うという作品だった。それは怖いというよりも、記憶を辿っている感じを表現したものだった。それから'To-ri'というタイトルを聞いて廊下のイメージが合致した。秋ごろのリリースということもあって、部屋に差す夕方のくすんだオレンジに、秋の寒くなっていく日々を感じるようなイメージとなった。
表題曲 'To-ri' はもちろんおすすめなのだが、個人的にはこのEPの中で一番哀愁を感じられる 'Wonder'が好き。たとえば渋谷の人混みのなかで、ふと無音に生活を感じる、そんなシーンとなるような曲。




kingsrhyme / Brain Machine Interface

2023.11.27 Released
エレクトロニックトラックメイカー・kingsrhymeのLP「Brain Machine Interface」が11.27にリリースした。この仕事ではLPの全体デザイン、ティザーを担当させていただいた。
中枢神経を駆け巡るようなスリリングなトラックが11曲収録されていて、それぞれにゲームミュージックやIDMなどを彷彿とさせるバラエティ豊かなアルバムとなっている。アートワークは画家のRina Gotohさん。メインアートワークでは、スフィアの周りに回路が集結し、怪しくも美しく佇む様子が神秘的に感じる。もうひとつのアートワークでは、初期の四角いPCの画面の中に白い人影が見える。きっと目まぐるしい電子世界に取り込まれてしまったのだ・・・。
アートワークがアナログで描かれていることやその内容、アルバムの音楽性から、初期のAppleが連想された。Macintoshなどのポスターに使われているフォントを連想し、その電子的だがエレガントでもある風合いを、今回のアートワークに採用した。文字を大きくして詰め、その旨味をひとつの抽象的なイメージにできないかと思った。ちいさめのPCのアートワークは説明の画像として分かり易く上に配置してみた。

脳に直接電極を刺した直後、現実世界が歪み、眩しいセルの中に吸い込まれる感覚は、kingsrhymeさんのこのアルバムを聴くことで体感できる。




Live Event ’KLEIN.’ Flyer Design

2023.12.17 at sakuradai pool
12/17に東京・桜台poolで開催されたライブ・イベント「KLEIN.」のフライヤーを担当させていただいた。主催はDysfreesiaとして活動する平野さん。
「KLEIN.」はクラインの壺という、特殊な形状の壺から連想された企画である。アートワークにも置かれているその壺には表裏がない。というか、連続している。この一見矛盾を含んだようなものを比喩として、自分と影響のある関係について考える。そういったことが軸としてあるそう。基本ツーマンというところも、その表裏の関係を表している。実際に見させていただいたが、Pretty Threeさんの音楽性は、ポストパンク、ポストハードコアを感じるものが大いにあった。桜台poolは古い低層ビル地下にあって、そのアンダーグラウンドさと完全に合致していた。一方で主催であるDysfreesia+mihauさんは、ポストロック、ジャズ、ソフトさと静謐さのある楽曲だった。この2つのバンドはジャンルの面では違うが、なにか見えないところに通ずるものがあるような気がした。もしくは、実際何も関係が無くても、同じ空間に居るということはすでに共通することだと思った。

Pretty Three
Dysfreesia
+mihau


アートワークではクラインの壺が窓際で、月の光に照らされて淡く光っている。その奥には他の家の屋根が見える。この窓が、内と外、そして表と裏を繋ぐ一つの場所であることを表現している。
「KLEIN.」はこのあとも開催されるそう。とても楽しみにしてしている。




CHAN4 / Phrase (thalor Remix)

2023.12.22 Released
ラッパー・CHAN4によるトラック「Phrase」のthalorリミックス。
移ろいゆく空の色に澄んだ自覚を認め、生活のなかでの意思や葛藤を持ち、静かに燃える自己の心の灯りを感じる曲。CHAN4さんの声、歌詞にはっきりと前を向く意思が感じられ、聴くたびに純粋に勇気づけられ、この世界を見ることができる気がする。thalorさんのビートは、しっとりとしたピアノの揺らぎと、重厚なキックとベースが鼓動に近い。距離を歌う曲をサンプリングしているのも素敵だと思う。
アートワークは以前作っていた空間を使用していただいた。水平線のうえに大きな雲が見える通路。ここは或るマンションの通路かもしれないが、外に広がる風景は実際かもしれないし、何か目指すその先の風景かもしれない。変化し続ける世界を見続けること、それを感じるようなイメージとなった。



そして年末から今年1月にかけては、バーチャルシンガー・長瀬有花さんのリミックス・アルバム「ユカリウム」の全体デザインを手掛けています。

長瀬有花 / ユカリウム

2024.1.11 release
バーチャルシンガー・長瀬有花の楽曲を新鋭のトラックメイカーがリミックスしたアルバム。DJ WILDPARTYさよひめぼうMON/KUなどがリミックスを手掛けるほか、長瀬有花本人によるセルフ・リミックスも。7曲収録。
今月11日にタワーレコード一部店舗およびオンラインで販売される。ティザーも公開しているのでぜひご覧いただけたら!


以上、2023年のアートワークを振り返りました。
ひとつひとつ素晴らしい作品のそのイメージを担当することがとても楽しく、また意義深く感じた年でした。最近は今が転機であるような感じがしています。関わってくださるみなさま、本当にありがとうございます。
技術面に於いてはまだまだ改善の余地がある状態ですが、これからも自分のできること、してみたいことに意欲をもって取り組んでいきたいと思います。

長くなりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。


ミヤオウ

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