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落とし物を届けた話

さかのぼること3ヶ月前、ちょいとATMへ現ナマを引き出しに行ったんですよ。キャッシュレス全盛期とはいえ現ナマが必要な機会はまだまだあるもんで、何かと入り用なご時世、生活資金としてまとめて20万ばかり引き出しとくかとマイカーをドライビンさせて最寄りのATMへと行ったのです。

駐車場に車を停めてATMへとテクテク歩いていく途中、地面に何かが落っこちてることに気づいたのです。

その昔、上を向いて歩こうと坂本の九ちゃんは歌っとりましたが貧乏性な僕は下をよく見て歩いておるんですわ。そうするとたまに小銭を拾ったりするんです。と言っても1円玉とか5円玉とかですけどね。まぁいい大人がすることじゃないけどな。そんないつもの調子で下を見て歩いてたら何やら白いものが目についたのです。

んで、近づいて落っこちてるものを拾いあげてみるとそれは何やら白い四角い物体。ケース状のものでパカッと開けるとそこには白いイヤホンが2つ仲良く鎮座しておるんです。

おや、これはもしかして、今流行りのワイヤレスイヤホンってやつなのでは?


数秒間の沈黙。


おい誰だ、ネコババしたと思ったやつは。

あのね、拾った小銭は当たり前のようにネコババする手グセの悪い僕だけどさ、この時ばかりは違ったよ。ちゃんとまっすぐ交番へ届けましたよ。まったく俺を何だと思ってんのよ。

というのもですね、拾ったものがAirPodsだったんです。AirPodsって知ってます?よく耳からうどんみたいなの垂らして歩いてるスカした若者がいるじゃないですか、あれですよ。

Appleが売ってるワイヤレスイヤホン、それがあの耳うどん、もといAirPods。買うと2万円以上もしやがる代物なんです。僕が普段使ってるワイヤレスイヤホンなんてダイソーで買った1,000円のやつなのに。ぼったくりやがってアメ公がよぉ。

しかしAirPodsってのは高いだけのことはあるもんで、無くしても位置情報を調べることが出来るらしいのです。ってことはですよ、仮にこのAirPodsをその場でもーらった、と懐に入れてしまうと後々持ち主が位置情報を頼りに僕のもとへとやってきてしまう可能性があるのです。

もし持ち主が背中に綺麗な錦鯉が入ったブレイキングダウンな感じの人だった場合、事と次第によっては僕が東京湾に浮かぶこともありえるのです。まぁ東京湾に浮かばないにしても何かしらの怪我を負わされる可能性が大アリなのです。

ここで僕の名誉のため言っておきたいのは今回拾ったのがAirPodsだからパクっちゃダメってわけじゃありませんよ。拾ったものがダイソーのイヤホンであっても、泥棒、ダメ、絶対。落とし物はちゃんと警察へ届けましょう。拾った小銭をネコババしてるやつが何言ってんだって話だけどさ。

ということで、ATMで現ナマを引き出した後に交番へと行ってきましたよ。受け付けてくれたお巡りさんに拾った場所や時間など詳細を伝えて書類に名前や住所や電話番号を書いてきましたよ。

あらかた書類を書き終わると「落とし主が現れた場合、お礼の電話はどうされますか?」とポリスマンが聞くわけです。

落とし主が新垣結衣さんだったらいいけど、万が一クロちゃんだったらどうしよう。あのソプラノボイスで「ありがとうだしん!」なんて言われてもなぁ、と少し逡巡した結果

「いや、別に大丈夫っす。名乗るほどの者じゃありやせんので。」

と、キッパリお断り。カッコ良すぎんだろ俺。自分で自分に惚れたね。

するとポリスマンが続けざまにこう言うのです。

「このイヤホン、警察で預かっていられる3ヶ月の保管期間がありまして。その間に落とし主が現れなかった場合、所有権が速瀬さんに移るんですね。その場合このイヤホンはどうされますか?」

「…えっ?あ、コレもらえるんですか?」

「はい、3ヶ月以内に落とし主が現れなかった場合」

「あー、そうですね、うーん…」


「まぁ、もらえるのなら、もらっちゃってもいいスか?^ ^」

おい!もらうんかい!!と総ブーイングが飛んできそう。

あのな、そりゃ当然でしょうよ。こちとらちゃんと踏むべきプロセスを踏まえた上でもらうんだから。当然の権利でしょうよ。何も悪いことはしちゃいねえはずだ。文句があるなら言ってみやがれい。もらえるもんもらって何が悪いんでい。なんとでも言いやがれい。

そんなわけで3ヶ月、待ちましたよ。桜が咲いて、桜が散って、新緑が芽吹いて、梅雨が来て。短いようで長い3ヶ月だったさ。

そして先日、警察署の会計課に件のAirPodsについて問い合わせてみたところ、落とし主は現れませんでした、とのこと。軽くガッツポーズしちゃったよ。

これで俺もAirPodsデビューや!ダイソーの千円イヤホンを長らく愛用してた俺が!まさか2万円以上するイヤホンをつける日が来るとは!貴族の仲間入りや!上級国民のお通りじゃー!!!

高まるテンションを隠しきれずスキップで警察署へ突入。署員一同やべえヤツが来たと思ったに違いない。会計課で身分証と落とし物の受理番号が書かれた書類を提出し、そしてついに、ついに、AirPodsが僕の手に入ったのです!

AirPods(第3世代)

いやー俺もついに耳うどんデビューか。なんか気恥ずかしいな。どうしよう、これつけて街歩いてたら気取ってんじゃねぇ!って石投げられたりしないかしら?

耳にセットし手持ちのiPhoneと同期させてみると、これがなんと!ちゃんと使えるではないですか!壊れてるオチを予想してた人、残念でした。キチンと使えたよーん。

おお、思った以上にクリアな音質。といってもダイソーのイヤホンとの違いは全然わからんけど。何にしろ、とにもかくにもAirPodsデビューを果たしたぞ!フー!カッチョイー!


…しかし、コレ外れやすいなぁ。ちょっとした頭の揺れですぐに耳からポロンと外れる。俺の耳穴がデカすぎるのか?外で歩きながら使うとなると落とすのが怖いな。よく駅のホームから線路に落としてる人がいるみたいだしな。タダで手に入ったとはいえ2万円もする物だしなぁ…。

ということで、まだしばらくダイソーの千円イヤホンを使っていきます。言ったでしょ。俺、貧乏性なのよ。

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