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大和玉虫

大和玉虫 (ヤマトタマムシ)
コウチュウ目、タマムシ科の昆虫である。



この鮮やかで美しい色と、金属の様な光沢する姿を前にして私は我を忘れてしまう。この羽はタマムシが移動するだけでこの羽の虹色が変わって見える。


これゆえ、全ての鳥類はこのヤマトタマムシを一切襲わぬという利点を持つ。鳥類は色変化する光沢が苦手とする生き物なのである。


カラスは光り物が大好きな事は有名で、宝石や指輪などを勝手に巣に持ち帰りコレクションする習性があるのがこのヤマトタマムシだけは嫌がる。


山を越えて電気供給の為の高い鉄塔があるが、ここにカラスが巣を張られたりするとその除去の為に高所作業者を手配して、巣の除去作業が必要になる。勿論、危険作業なのでそれなりの費用が掛かる。


宇都宮大学のカラス生態研究チームがこの点に着目
し、タマムシの羽の質感を模したシールを作り出し
送電鉄塔や電柱につけたところ、カラスがそこには巣を作らなくなったという。


もっと簡易な方法はキラキラ光るCDをぶら下げる方法なのだが高所の強風には耐えられない、だからシール貼りの対応が一番合理的なのだろう。


ヤマトタマムシは奥深い山などに入らない限りには出会う事はできない。私が近年でこの虫を見かける事が出来た場所とは、兵庫県の能勢地域、伊丹市、そして伊勢神宮の中である。エノキやナツメなどの木のそれも恐ろしい程の高所に止まっているのだ。彼等が卵を産む樹種だからである。リンゴも対象となっているので農家さんからするとヤマトタマムシは害虫になる。


彼らが飛ぶ高さは地上からは10〜20mはあって
だからそう簡単にはお目にかかれない。そして実は
タマムシは飛ぶのが非常に下手な昆虫である。飛びながらお尻が重いせいなのかどんどん高度が落ちていく。私はそれを見ながら「こっちへ落ちてこい」
と祈るのだが何とか他の木に着地して届かぬ高さ。


他の鳥類はタマムシを捕まえぬが、昔の人はこれを
捕まえて仏具にも使った事例も多い。その中でも
教科書にも載った玉虫ノ厨子(タマムシノズシ)。
これの表面に象嵌加工(ゾウガンカコウ)と言って光り系の生き物(貝殻の裏側の綺麗なアワビ等)の部分を切取り仏具などのくり抜いた部分に嵌め込み仕上げる技法を指す。その当時にこれの為に殺生を
されたヤマトタマムシの数は4,800匹だそう。



貝殻系は長くその美は保たれるが、ヤマトタマムシ
の羽が使われたこの玉虫ノ厨子はその殆どが消失。
まあ、虫の羽がそんなに持つとは私は思えないから
当たり前かなと思う。他に黄金虫を30,000匹
も使ったという仏像もあったりで、殺生を嫌う宗教ゆえその行為には首を傾げてしまう。


ヤマトタマムシはその美しさゆえに人に捕獲され、今でも標本にされての販売が後を立たないのが現状である。美しくあるものを自身の欲望や金銭目当てで捕獲をするのは、人間としてのエゴでしかない。私はこの撮影の時に7匹ものヤマトタマムシを目撃できた。特定の樹種にしか現れないこの宝石の様な光り輝く美しき生き物たち。長く生きながらえる事と子孫をちゃんと残していくのを願って、その場を後にしたのだ。




ヤマトタマムシの写真は、能勢の山奥にて撮影。

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