砂丘を越えて

やがて私は砂丘へとたどり着いた。絵で見た砂浜のように美しいものを思い描いていたが、それとは似て非なるものだった。あちこちに折れた枝、枯れ葉、黒く変色した何かの漂流物がちらばっている。そして、見たこともないグロテスクな植物たち。びっしりと細かな毛を持ち、触手のような細く肉厚な葉を持つもの。ひょろ長い茎に一切の葉をもたず、鋭く尖った種だけを持つもの。どれもがほとんどは枯れ萎びている。それらが風に虚しく揺れているだけで、他に動いているものは見つけることができなかった。

まっすぐ目的地に向かうには、この砂丘を登らねばならなかったが、前に進むたびに足を取られて滑り落ちてしまう。しかたなく丘の腹を斜めに登るが、それでも姿勢を保ちながら歩くのに注意を払わねばならなかった。一歩前に進むたび、足の甲に覆い被さる砂々を押しのける。もどかしいほど少しずつしか前に進めない上に、どんどん体力を奪われた。風が吹く。砂粒が顔にぶつかって、前を向くのが難しい。呼吸が浅くなる。心臓が酸素を求めている。だが、砂丘で休むことはできない。照り返しが強烈で、木陰もない。腰を下ろせばきっと立ち上がれなくなるだろう。拭っても拭っても汗は止めどなく流れる。この丘を登りさえすれば。

ようやく視界がひらけた。しかし目的の村は見えないし、他に目印となるものも見つからなかった。ただ無味乾燥な砂丘と、緑褐色の気のない植物が散在しているだけだ。私は絶望を覚えた。汗がとめどなく流れる。これ以上登坂する気力はない。もはや闘志は失われ、惰性で足を進めることしかできなかった。砂丘を越えても次の砂丘が現れる。水の消費も激しい。

日が落ちようとしている。どうにか古い樹を見つけて野営することにした。木片はそこら中にあるため、焚き火をするのは簡単だ。荷物を枕にして、硬い砂の上に体を横たえた。火の揺らめきを無感情に眺めながら眠りについた。

朝が来る。再び歩みをすすめると、大量の生物の足跡が見られた。目的はわからないが人為的なものだろう。希望の火が灯るのを感じた。一歩一歩に力がこもる気がした。そして次の丘を登った時、とうとう目的の村が見えた。思っていたよりもずっとずっと、素朴なものだった。ほんとうに小さな、ただ木材で組んだだけの家が、ぽつりぽつりと建っているだけだ。泣きたいほどに救いを感じた。かけがえのないものがある。ただそこに存在しているということが暖かな価値を持っているのだ。

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