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りんごとうま

 「時計はそろそろ13時を指す」は"もうすぐ九つ半、9枚目のアルバムが中盤に差し掛かってるよ"という意味だろう。というのに7日くらい前気がついた。気がついた次の日に書き始めたのに、終わらないから毎日日付を修正してる。たぶん九つ半で合ってると思う。違ってたらすごい偶然だね!って言っておく。
 ユニゾンのアルバムはどっかの曲で枚数を宣言するのが続いていた。『3 minutes replay』も3枚目にかけた名前に見える。そういうふうに来てたんだけど、今回の『Ninth Peel』には明確に宣言してる曲も無いし、わかりやすい9を表す曲も無い。無いと思う。私が気づいていないんじゃなければ。なんとなくいつも通りの9枚目であって、わざわざわかりやすいアルバムコンセプトを作るほどでも無いアルバム、というのが今回のコンセプトだと思っていた。
 だからこそ自分たちへの対立構造とか伏線回収みたいなものが多い。これはいつも多いんだけど。でもでもアルバムコンセプトの代わりに曲がわかりやすいんだと思う。「一聴ではわからないなら それこそが贅沢な暇つぶし」が「けどそろそろいいよな」に変わっている。この前の文章で叫ばなくなった、という書き方をした。「痛いの?違うよ」と言うだけあって、痛みよりも哀しみが滲み出て切なさを感じる。暴れ散らかしてる『カオスが極まる』が入っているのに。全体の印象は静かな哀しみと、たおやかな灯り。大型ビジョンの煌々とした明かりではなくて、路地裏のちょっとしたネオンとか、少し雲がかかった月明かりとか、郊外から見上げた星みたいな。
 わかってほしいけどわかりやすくしたくない。だってわかりやすくした言葉では表現しきれないし、わかった気になった人ばっかりになってもちょっとね。それにしてもわかってもらえなさすぎじゃないか。なんでそろそろちょっとくらいなら良いかな。まあでも、大事な答えは剥いてみないと見えないようにしておいたよ。
 という雰囲気を感じる。妄想だけど。もう一つ妄想を重ねる。わかりやすさ、見つかってしまった感というのを、たぶん林檎で表しているんだと思う。『オーケストラを観に行こう』で登場した「書いてある果物とは違う甘い香りだけが横切った」で始まった果物。今回『Numbness like a ginger』で「熟れすぎた果実」が出てきた。そもそも『君の瞳に恋してない』と『Catch up, latency』のMVの時点で林檎自体は投げられたり追いかけられたりしている。アルバムのジャケットも込みで、まあ林檎が順当なんじゃないか。
 じゃあなんで林檎がそういう意味を担えるのか。これも順当に禁断の果実イメージで良いはず。タイアップとかわかりやすさに対しての諸刃の剣感。それと、オーケストラでは自分の気持ちに気がついたことで恥ずかしさが生まれた感情の動き。この辺が入っている気がする。
 どうも『Ninth Peel』では「リンゴかオレンジかレモン」みたいなオーダーをしていたらしい。レモンには悪貨は良貨を駆逐する的な意味もあるし、オレンジはママレード味があってどちらでも形になりそう。特にレモンの方は、オーケストラにぴったり。「書いてあるもの」=ピーチ(高品質なもの)、「とは違う」=レモン(質の悪いもの)でレモン市場そのままに見える。悪貨は良貨を、を拾うなら"一体感が嫌でライブに来なくなる"ことを憂うユニゾンらしい意味に取れる。一概に一体感=悪貨かと言えばそんなことはないと思うけど。
 あと「熟れすぎた果実」=売れすぎた果実も推したい。ぱっと取ったら制御が利かないところまで来てしまった。良い感じの規模でライブをやるのも難しくなっちゃうし。東京ガーデンシアターとか、ぴあアリーナMMとか、1万人規模にしてはとっても観やすい。観やすいけど、人が多すぎてふらっと感があんまりない。どうしても"1万人規模にしては"というのが付いてきてしまう。「僕と君とで遊んで」やるには、目が見えにくい距離だ。前半ホール、後半ライブハウスで2つにわけちゃうよツアーはそれ対策の風味も含まれていると思う。
 いろいろひっくるめて、面倒事は尽きないけど楽しめるとこで楽しもう、といういつものところに帰って来る気がする。『スペースシャトル・ララバイ』がアルバムの最後の曲に感じるのも良いよなあ。「13時を指す」含めて、さらっとユニゾンの一皮剥けたアルバム感が出てくる。
 忘れ物は全部ユニゾンが持ってってくれるらしいから、秋にはまた頭空っぽにして会いに行く。それまで「解析でもなんでも」して待とう。人生を24時間に例えるなら、半分ほどに差し掛かったであろう彼ら。歌える時間ならきっと半分を超えている。叫ばなくなった彼らと、走り出さなくなった私で、もう一皮剥けた答えを持って待ち合わせ。そんでまたグッバイしよう。何度も繰り返してその度に私は大人になる。ねえ、
 

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