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No318 EUCのススメ

先日、仕事で使うお客さんデータを管理できるExcel表を作ってあげたらとても感謝された、という話を聞きました。
作った方はExcelがある程度使えるものの、プログラマやSEではなく一般の事務職の方。

このように利用者が自ら必要な道具を作ったりすることをEUC(End User Computing)と呼びます。
EUCを上手に活用すると、非常にローコストでありながら使い易い満足度の高いコンピュータ利用が行えます。

今回は、そんなEUCについてお話をします。


EUCとは

上述の通り、EUCはEnd User Computingの略で、エンドユーザがコンピュータを積極的に利用することを指します。

ここで言う積極的な利用というのは、従来の不便なところなどを自らの工夫や機器の有効活用で改善していくことを言います。

誤解されがちですが、EUC=システム開発ではありません。
データの整理や統合も立派なEUCです。

経理担当者が売掛金の回収照合のためのExcel表を作ることはもちろんEUCです。

一方、永年の利用でデータが増えて複雑になったExcel表を目的別に2つ、3つに分割するのもEUCですし、逆に各所に散らばっていたデータを1つにまとめることもEUCです。

また、保管に困る紙のデータを検索しやすいように電子化(スキャンするなど)するのもEUCと言えます。

要は業務で使うデータを活用しやすくする(=自分たちの業務をラクにする)ことですから、日常業務の一環として取り組む方も多いと思います。

なぜEUCが良いのか?

上記のような改善作業はもちろんプロに依頼することもできます。

実際、業務システムの構築となるとプロに依頼するのが一般的です。

ですが、プロに頼まなくても自分たちで取り組んだ方が良いケースもたくさんあります。

まずは自分達でやってみる。それで無理ならプロに依頼する、という手順が妥当でしょう。

例えば、上述のデータ統廃合などは実際にデータを利用する人がやった方がずっとスピーディーに行えます。
もっとも、データが大量で対処できないなら、データ変換作業をプロにお願いすることも可能です。

また、Excel表を使った簡易システムであれば、EUCで作成することは価値があります。

その最大のメリットは現場が望むものを作れることです。

そりゃそうです。
自分達が欲しいものは自分達が一番わかってますから。

第二のメリットはローコストに作れることです。
というか、プロにシステム構築をお願いするとやたらと高価になります。

システム屋に頼むと高くなる理由

システム屋に作ってもらうとなると、自分達が何を欲しているかを正確に伝えなければなりません。

システム屋はシステムの作り方はプロですが、皆さんの業務については素人同然です。ですから、システム屋にシステムを作ってもらうには、この業務の目的は何で、今は何ができなくて困っていて、だからどうしたいのか?ということを正確に伝えないといけません。

このヒアリングを通して業務を理解し、それを文書化(要件定義書)するのですが、これが実に大変な作業なのです。
業務に慣れた方には常識でも、業務を知らないシステム屋にとっては未知の話が山盛りだからです。

ですので、要件定義書の作成にはかなりの費用がかかります。
費用だけではありません。要件定義には利用者側もかなりの時間を割く必要があります。

さらに要件定義書の内容を精査するのは利用者側の責任です。ここに書いてないことは実現されません。誤りを見過ごすと使いものにならないシステムが納品されます。

システム屋に頼むと、カネも手間もかかる上にリスクまであるわけです。

もちろん、それでも自分達でできそうにないことはプロに頼まざるを得ません。

だからこそ、できることは自分達でやる、というEUCの考え方は実に正しいと思うわけです。

EUCの落とし穴

メリットの多いEUCですが、いくつか注意すべき点があります。

1) 始めるのは簡単だけどやめられなくなる

Aさんは自分の作業用にちょっと便利なExcel表を作りました。
自分だけで利用するのはもったいないので、同じ部署のメンバに使ってもらったら、とても評判が良く、アッという間に全社に広がりました。
Aさんは鼻高々です。
さらに、Aさんには次々と改善要望があがってきます。
最初は喜々として対応していたAさんですが、その作業量が増えすぎて自分の作業が滞りがちとなり、上司からもやんわりと注意されてしまいます。
今やAさんは「こんなことならひっそり自分だけで使っていた方が良かった」と後悔しています。

2) トラブル時の責任が付いて回る

Bさんは本社の顧客管理システム(業者に導入してもらったもの)のデータベースからデータ抽出を行うExcel表を作りました。

Bさんはデータベースの知識があり、顧客管理システムから必要なデータだけを抜き出すExcel表を作りました。
Aさんの事例を知っていたBさんは最初から「これの改善とかバージョンアップは受け付けないよ」と宣言をした上で、他メンバにも公開して皆で便利に使っていました。

ところが、ある日になって突然このExcel表が動かなくなります。
既にこのExcel表ありきで業務を進めている多くのメンバはパニック状態です。
当然Bさんに「どうなってるんだ?」と質問がきます。
Bさんも首をかしげながら調べてみると、この週末に顧客管理システムがバージョンアップされ、その時にデータベース構造が大巾に変更されていることがわかりました。

改善やバージョンアップはしないと言っていたものの、動作しないとなると対応をしないわけにいきません。ただでさえ忙しいBさんは皆に頭を下げながら、残業時間を使って数日で対応をする羽目に陥りました。
「なんで俺が頭下げんとイカンのだよ。俺の責任じゃないのに」と思いながら。

3)  評価されにくい

Cさんは好きでいろんなツールを作っては皆に使ってもらっています。
Aさんと違って作ること自体が好きなので、多少の残業が増えてもあまり気になりません。むしろ皆の役に立っていることが嬉しいくらいです。

ですが、最近はツール作成をしていると上司が渋い表情でこちらを見ています。
理由を聞くと「ツール作成もいいけど、もう少し業務に力を入れて欲しい」とのこと。Cさんとしては会社全体の作業効率化に貢献できていると思っていただけに、上司の言葉はかなりショックでした。

EUCを成功させるには?

三点ほどあげましたが、これらの落とし穴はいずれも組織の関わり方によるものです。

こういったEUCは効果があるものですが、その評価体制を整えておかないと頑張る人がバカを見ることになりかねません。

特に以下の三点が必要だと筆者は考えています。

1) EUCを推進する人を賛える文化

当人からすれば「好きでやってること」でも、業務改善は組織にとっても大きなメリットです。
ですから、EUCを自ら進めようとする人をいろんな場で賛えたり、取り組む機会を与えたり、トラブル時に優先的に作業させるといった文化を育てることが大切です。
また、管理職の方々にもそれを浸透させ協力していただくことが必要です。

2) EUCを積極的に評価する制度

EUCに限らず業務改善を進める姿勢に対する評価制度を整えるべきです。
金銭的な評価にとどまらず、創立記年式典などでEUC推進賞を授与する、新ツールやバージョンアップを毎月メールやポスターで告知する、など盛り上げる方法はいくらでもあります。

3) 他人に引き継げる仕組み

特にツール類では、当人でないとメンテナンスできないというケースが発生します。
それを避ける(属人化を防ぐ)方法を考えるべきです。
ここでは、その方法としてドキュメント化とツインヘッド体制を紹介しておきます。

ドキュメント化は、Excel表などのツールについて、作成の経緯や技術的なポイント、変更時の留意点といった情報を資料化しておくことです。
これは当人が退職や長期休暇などで不在の時に必要となります。

また、ツインヘッド体制というのは、そのツールの内容を理解している人(対応できる人)を二人以上作っておく方式です。ドキュメント化と同様に担当者が不在でも何とかなるようにしておくわけです。

まとめ

EUC(End User Computing)という考え方があります。
特別なことではなく、コンピュータをうまく活用できるように自分達でできる工夫を重ねていきましょう、というものです。

パソコンが得意な方が少ない組織では、紙の帳票をExcelに転記し検索機能を覚えるという取り組みもアリです。
これで作業効率が上がれば実に立派なEUCです。

また、メンバの中にパソコンオタクがいれば、いろんなツール類を作ってくれるかもしれません。その方は貴重な存在ですから、他の人にもその技術を引き継げるようにしましょう。ドキュメント化や弟子となるサブメンバを作って知識を習得して、できる方を増やしましょう。

EUCはゲリラ的な各メンバの活動で始まるものです。
ですが、それを各人の余裕時間に行う活動に留めておくと、組織としての有効活用とまではなりません。
有効活用には、組織としての評価体制も必要ですし、何よりも経営層の理解と推進が必要です。

EUCはメンバにとってはラクをするための手法、組織にとっては智恵の共有手法です。
皆さんの組識でもEUCに是非取り組んでみてください。

今回はEUCについてのお話でした。
次回もお楽しみに

(本稿は 2023年7月に作成しました)

このNoteは筆者が主宰するメルマガ「がんばりすぎないセキュリティ」からの転載です。
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