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(号外) ハードディスクが逝くとき

パソコン(PC)はそれほど壊れるものではありませんが、それでも故障することがあります。
故障の多くはハードディスクと呼ばれる部品で起きるのですが、今回はその原因について解説をします。


1. とある映画のワンシーンから

先日「エンドオブトンネル」という映画を見ていると、中古パソコン(PC)が小道具として活躍するシーンがいくつもありました。

だいたい、映画でコンピュータを使うシーンとなると派手なビジュアルで、いかにも作りもののウソ臭いものばかりです。
ですが、この映画での使われ方はとてもリアルで、筆者をうならせる興味深いシーンもいくつかありました。

そのうちの一つに、主人公がハードディスクをむき出しにして聴診器をあててその音を聞いているシーンがありました。
主人公はハードディスクの音を聞いて何をしようというのでしょう?

これ、ハードディスクの状態確認方法としてはかなり有効なのです。
ハードディスクの故障確認方法としては「音を聞く」ことはかなり有効です。
(筆者は聴診器までは経験ないですが)

とはいえ、あまりにマニアックな話で、いったい視聴者の何%がこのシーンの意味を理解できてるんだろうか?と思ってしまいました。

なお、映画ではこの聴診器は小道具として活用されます。


2. ハードディスクの音?

でも、ハードディスクの音なんて聞いたことありませんよね?

だってパソコン(PC)を開けて部品を取り出さない限り音なんて聞けません。それだけのためにコンピュータを開ける人もいません。

そもそも、コンピュータには音を出す部品はあまりありません。
電源を入れた時によく聞こえるのはファンによる風切り音くらいのものです。よく耳をすますと、コリコリコリという音が聞こえるかもしれませんがこれがハードディスクによる音です。


3. 音で何がわかるのか?

ハードディスクが健康な間は、上記のようなコリコリといった音がする程度のものです。(20年以上の昔のハードディスクはもっと機械っぽい音がしたものですが)

ハードディスクというのはかなり複雑な精密機械ですので、使っているうちに小さなトラブルがいろいろと起きます。

ハードディスクというのは、内部にプラッタと呼ばれる磁性体を塗布した円盤が入っています。そこに磁気ヘッドと呼ばれる部品を近付けて磁化させることで記録を行う装置です。
その記録密度は非常に高く、非常に高い精度で作成されている部品の一つです。

そのため、使用につれて経年変化や磨耗によって、ズレが発生して精度が保てなくなってきます。

精度が保てなくなると、目的のデータが保管された場所(トラック)に正確に磁気ヘッドを移動(トラッキング)できなくなるトラッキング不良というトラブルが発生します。

トラッキング不良は簡単に発生するトラブルですので、ハードディスクにはトラッキング不良時は、再試行する仕組みが用意されています。

この仕組みをリ=キャリブレーションと呼びます。
一度、磁気ヘッドを端っこに移動させ、改めて目的のトラックまで移動させるのです。
磁気ヘッドの動きのいわばリセットを行うのです。

これで目的のトラックに辿り着ければ良いのですが、ひずみが大きくなるとリキャリブレーションしても、目的のトラックに辿り着くことが難しくなってきます。

通常、ハードディスクは「コリコリ」という音がしていますが、これは磁気ヘッドを移動させる時のトラッキング音なのです。

ですが、リキャリブレーション時には全く違う音がします。
「キュイーン、カリカリカリ」といった具合に、いかにも磁気ヘッドを大きく移動させたような音が入ります。

何度もリキャリブレーションが起きると「キュイーン、カリカリ...、キュイーン、カリカリ...」と何度も同様の音が聞こえてきます。

この音が聞こえてくると、ハードディスクがかなりダメになっている印です。

また、磁気ヘッドではなく、プラッタ(円盤)を回す方のモータがダメになることもあります。この場合は回転音にムラが出てきます。通常に耳をすますくらいではモータ音のムラは聞き取れませんが、聴診器などを使えばきっと鮮明にその違いがわかるのではないかと思います。

きっと、映画の主人公は、この音を聞いて、ハードディスクのどこにトラブルが起きているかを確認していたのだろうと思います。

と、映画内の(本筋にほとんど関係ない)ワンシーンをここまで丁寧に作り込んでいる制作側のこだわりは大したものです。

同時にそのシーンをここまで解説できる筆者もかなりの変人なのだな、と自認した次第です。

次回もお楽しみに。

(本稿は 2022年5月に作成しました)

この文章はえがおIT研究所が主宰しているメルマガ「がんばりすぎないセキュリティ」からの転載です。
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