No217 異体字を伝える方法

前回は異体字を伝える前提として、異体字を入力する方法について
解説をしました。

今回は、様々なシーンで異体字を伝える方法について解説します。


1. 異体字を使いたいシーン(再録)

異体字は、様々なシーンで必要となります。
 1. 自組織のホームページで、経営者の氏名を正確に表わしたい。
 2. サービス申し込みの時に氏名を正しく入力したい。
 3. Excelなどのオフィスソフトでお客様のお名前を正しく入力したい。
 4. 案内状(紙で郵送)を作る際、来賓のお名前を正しく書きたい。
 5. 案内状(PDFで公開)を作る際、来賓のお名前を正しく書きたい。
 6. メールの送付先のお名前を正しく書きたい。

どれも、異体字を使いたいという意味では同じです。
ですが、そのための対応はかなり違います。

例えば、「1.ホームページ公開」では不特定多数のパソコンで正しく
表示させる工夫がいります。
「2.サービス申し込み」ならWeb(インターネット)で先方の担当者
に伝えること、「3.Excel表の入力」はOfficeソフトでの異体字の
扱いを知ること、「4. (紙の)案内状」は印刷の方法といった具合。

項目によって必要な知識や対応がまるで違います。

今回は、以下の視点での対応方法を解説します。

 1. メールで異体字を使う方法
 2. ホームページ(Webページ)から異体字を伝える方法
 3. ホームページ(Webページ)に異体字を表示する方法
 4. officeソフトで異体字を使う方法
 5. PDFや印刷物に異体字を使う方法


2. メールで異体字を使う

意外な話ですが、異体字の扱いが一番難しいのがメールです。
通常の方法ではメールに異体字を含むことはできません。

これには、例によって歴史的ないきさつがあります。

電子メールというのはコンピュータ間で広くデータをため、最初期
に確立された通信手段です。メールの送受信のルールにはあちこち
に古臭い定義が残ってしまっています。

その一つが文字コードの定義です。

ここまで、UNICODEという文字コードが主に利用されていることを
何度も書いてきましたが、メールではそれよりもずっと古いJISを
使うことになっています。

技術的な話になりますが、メールには本文(ボディ部)の他に
細かい設定や状態を伝えるヘッダ部があり、必ず「どんな文字
コードで書かれているか?」を示す情報(charset)が含まれて
います。(ヘッダ部は通常は画面上に表示されません。)

この定義が1990年代に規定されたのですが、その当時はUNICODEの
初期バージョンすらなかった時代でしたので、当然のように当時
使用実績のあるJISコードが選択されました。
残念なことにこの規定は2021年現在も変更されていません。

そのため、多くのメールアプリではJISで規定された文字だけを送
受信できるように制限しています。
JISコードには異体字セレクタのような考え方はなく、異体字を
扱うことができません。

そのため、メールでは標準的な設定としている限り異体字を送る
ことが難しいのです。

もっとも、方法がないわけではありません。

上述の「どんな文字コードで書かれているか?」にUNICODEだ!と
宣言すれば良いのです。
メーラの設定項目として「送付時の文字コード」や「エンコード
方法」といった項目があるはずです。
通常はここが「JIS」だとか「ISO-2022-JP」といった定義になって
いるはずですが、これを「UTF-8」や「UTF-16」にすれば異体字
であっても送付できるようになります。

ですが、このような文字コードの変更は一般的にトラブルのもと
です。いわゆる「文字化け」の原因になります。

先方の名前を正しく伝えたいという想いは良いのですがが、それに
よって先方でメール全体が文字化けしてしまっては本末転倒です。
筆者としては文字コードの変更はあまりオススメしません。

どうしても気になるという方はメールの文末に以下のような文を
追記されてはいかがでしょうか。
「お名前を正しく表記しますと、メールが文字化けするおそれが
 ございます。一般的な字体を使っていますことをお赦しください」


3. ホームページ(Webページ)から異体字を伝える方法

次はホームページ上で、異体字を入力したい場合を考えます。

いろんなサービスの申込み画面などで、氏名や住所の入力を求め
られますが、そこで異体字を入力したい場合の話です。

前回、異体字の入力方法については解説していますから、「入力
できてしまえば、後は先方の問題でしょ?」と思いたくなりますが、
そうもいかない事情があります。

こういった、いわゆる入力フォームで入力したものがどのように
処理されるかは裏側のシステム構成に大きく依存します。

これが異体字を考慮したシステムとなっている場合は何も問題ない
のですが、世の中そんな新しいシステムばかりではありません。
例えば、昔から使われている方法で入力内容を担当者宛にメール
するという方法があります。

そう。裏側でメールが使われるケースがあるのです。
この場合、異体字を使うと受信した担当者には文字化けしたり、
正しくない(標準字体の)文字がメールとして届くかもしれません。

また、メールを使っていなくてもシステム側が異体字に未対応で、
標準字体にされてしまったり、文字化けするケースもあります。

結局、これまた否定的な話になってしまいますが、氏名などは標準
的な文字にしておき、通信欄や特記事項欄で「私の氏名は「はしご
高」です」などと記入しておくのが無難です。

先方のシステムが異体字に対応できていれば、きっと正しい文字で
登録していただけることでしょう。


4. ホームページ(Webページ)に異体字を表示する方法

業者にホームページ作成を依頼している場合は、話はカンタンです。
「ウチの社長は「はしご高」だから、それが出るようにしてね」と
お願いするだけです。

それに該当する方、ホームページ作成なんて関係ない方は次章まで
読み飛ばしてください。

さて、ホームページを自分達で作っている場合はいくつか気にしな
ければいけない点があります。
(この節の内容はある程度ホームページ作成の知識がある人向けと
 しています。)

1)文字コードはUNICODE
  HTMLファイル(ホームページの内容を記述するファイル)は
  必ずUNICODEで作成します。
  異体字セレクタはUNICODEという文字コードの仕組みですので、
  文字コードがUNICODE以外(JIS、SHIFT_JIS、EUCなど)だと
  正しく表示できないためです。
2)フォントは指定しない
  例え、手元のパソコンにカッコいいフォントが入っていても、
  それを使うのは避けるのが無難です。
  ホームページを見る人全てにそれが入っていると限らないため
  です。
  フォント指定をしなければ、誰でも持っている標準フォント
  で画面表示してくれますから、異体字が表示できるはずです。
  (その人のパソコンがあんまり古いとそれでも異体字は出ない
  可能性があります)
3)文字の画像化はオススメしない
  そんなに異体字というものの表示が面倒であれば、いっその
  こと名前の字形を絵(画像)として表示してはどうだろうと
  考える方もおられるでしょう。
  より多くの方に見てもらう方法としては「アリ」なんですが、
  視覚障害者などが使う音声ブラウザへの対応が難しく、積極
  的にオススメしづらい点があります。

異体字を多くの方に見てもらうためにも、「見る方の環境が様々
だ」というのを意識する必要があります。


5. officeソフトで異体字を使う方法

ここまで否定的な話が多かったのですが、Microsoft Officeを使う
場合はカンタンです。

異体字を使ってファイル保存するだけでOKです。
そのファイルを他の方に渡してもメールで送付しても文字化けには
なりません。

ただし、注意すべきはOffice互換ソフトと、超古いMicrosoftOffice
です。

多くのOffice互換ソフトでは異体字対応ができていないようです
ので、表示がおかしくなる可能性が高いです。
また、MicrosoftOffice であっても、2007だとか2010といった既に
サポート切れのものは異体字に対応できていません。

逆に言えば、2013以降のOfficeであれば、異体字対応できています
ので、ほとんどの場合は安心できると言えます。


6. PDFや印刷物に異体字を使う方法

PDFというのは文書形式の一つです。どこで誰が印刷しても同じ
結果が得られることを目的としたもので、昔からマニュアルなどに
広く使われてきました。

このPDFでの異体字の扱いは完璧です。そりゃそうです。現在のIVS
と呼ばれる異体字セレクタの日本語版はAdobe社が管理しているの
です。だから、PDFやその印刷物については基本的には問題ありま
せん。

敢えて注意するとすれば、Adobe製以外のPDF生成ソフトです。
AdobeのPDF作成ソフトはAdobe Acrobatで有償です。
世間にある無償のPDF作成ソフトは他社製品です。これらの製品の
異体字対応の状況はソフトにより異なります。

プロの印刷屋さんに依頼する場合、IlustratorなどのAdobe製品で
作成したデータで入稿する限りは問題は起きません。
しかし、素人向けのWord文書やPDFでの入稿を行う場合には、念の
ため、異体字を使っている箇所を伝えておく方が無難です。
先方で確認した上で処理を行ってくださいます。


7. まとめ

2021年現在、「誰もが異体字を使えるとは限らない」と考える必要
があります。異体字はオプションに過ぎないのですから、実際に使う
場合には、いろんなことを注意しなければいけません。

現状ではWindowsについては異体字の入力は完全な形でサポート
されています。(多少の設定変更は必要です。詳しくは本メルマガ
のNo 216をご覧ください)

ただ、入力ができたかたといって、それが先方に意図通りに伝わる
とは限りません。特にメールでのやりとりを行う場合には注意が
必要です。

メールでは、過去の経緯により通常はJISコードを用いる都合上、
異体字の扱いができません。UNICODEを使ったメールも作れますが、
受信側の状況によって文字化けの可能性があるため、あまり積極的
にはオススメできません。

Web上での表記については、多少の注意は必要なものの、たいてい
は正しく表記されます。それでも、これも見る方の状態に依存して
いる点は意識しておきましょう。

一方、Web上で入力した異体字が先方に意図通り伝わるかどうかは
何とも言えません。そのシステムが異体字を考慮しているかどうか
は利用者側からは判断できないからです。

一般的なofficeソフトで文書を作る場合、よほど古いソフトでなけ
れば、おおむね問題はありません。ただし、MicrosoftOfficeの
互換ソフトについては異体字対応できていないものも多いため注意
が必要です。

PDFについてはほぼ心配はありませんが、無料ソフトを使っている
場合は正しく変換できているかどうかを確認するようにして下さい。

今回の異体字の話題はかなり複雑な事情もあり、4回に渡る連載と
なりましたが、いかがでしたでしょうか?

文字コードについては、異体字以外にもいくつか解説しておきたい
点がありますので、もう少しだけおつきあいください。

次回もお楽しみに。

このNoteは私が主宰するメルマガ「がんばりすぎないセキュリティ」からの転載です。
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