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フクロウとカラス


それは、ある風が強い日のこと。
「寒さと暖かさが仕事を交代するとき、いつも嵐が仲裁しにくる。二人は仲が悪いのだな。」

「今年は一段と派手にやってやがるな。」
私が留まっている枝より一つ上に、カラスがやってきた。

「人間が静かだから、そう感じるのかもなあ。どうした、カラスがこんな田舎に、珍しいじゃないか。」
「やあ、フクロウのじいさん。あんまり街が静かだからな。いったい、なんだってんだ?太陽が沈んじまうと同時に、誰もいなくなるんだぜ。」
「何日か前、帰ってきたオオルリに聞いたが、なんでも新たな流行病に悩まされておるらしい。」
「病を治すのは人間の得意技じゃないのか?」
「薬を作るにも時間がかかるんだそうだ。」
「クスリってなんだ?」
「病を治すための食べ物だよ。」
「ふーん。」
カラスのやつ、話しに興味があるのか、ないのか。

「薬を作る人間が、必死に仕事をしているから、人間は長生きできるんだろうな。」
「巣にこもってるやつばっかりじゃないわけか。ま、おかげで、俺は仕事しやすいけどな。」
「人間のそれは家と呼ぶんだよ。しかしお前、人間たちのゴミを漁るのはどうなんだ。」
「あいつら結構いいもん食ってんだぜ、狙い目は大きくMって書いてある袋さ。知ってるか?」
「ああ。いつでも赤髪の男がいる店だろう。私には少し怖い。」
「そうそう、最近、多いんだよ。誰も見てないから、戴き放題ってもんだ。」

「お月さんが見てるだろうよ。」
「お月さんも、こう人間が隠れちまっては寂しいだろうから、俺が相手してやってんだよ。」
「お月さんには我々がいる。お前の心配には及ばんさ。」
「連れないなあ。今日は顔出してくれないしよ。」

「明日は結構降りそうだな。」
私はカラスと同じ枝に飛び移った。
「ああ。外に出る人間がさらに減っちまうぜ。」
カラスは一つ下の枝に移ってしまった。

「なにか都合が悪いような言い方だな。」
「まあな。人間を眺めてるのって、いい暇つぶしなんだぜ。」
「お前が暇なのは、飯を人間から拝借してるからだろう。」
「山を飛び回るより手っ取り早いんだよ。人間もそうだろ?仕事はちゃちゃっと終わらせて、楽しいことに精を出す。」

「ふぉっふぉ。」
「何がおかしい。」
「お前、ただの世間知らずと思っていたが、なかなか賢いことを言う。」
カラスは少し大きい羽音をたてて、私と同じ枝に戻ってきた。
「世間知らずとは言ってくれるなあ。あいつらがちょっと羨ましいだけさ。」

「ないものねだりだろう。猫になりたいと望む人間だっているんだ。」
「ずるいよなあ。俺よりいい暮らししてんだから。あの動く箱も、吸い込む人間が減って、つまんなそうだしよ。」
「ふぉっふぉ。あれは電車と言ってな、人間が動かしているんだ。」
「デンシャね、そのデンシャとやらが絶対に停まる場所で、俺は人間を観察するんだ。けど、今はそこに集まる人間も少ない。おかげで、俺も退屈してんだ。」
「しばらくすれば活気を取り戻すだろうよ。」
「しばらくねえ…。」
そう言いながら、カラスは見えない月を探している。

「焦ることないさ、生きてさえいれば。生きて、その時を迎えるのさ。」
「それが、いちばん難しいんじゃないか。」
「いちばん難しいが、いちばん知らず知らずのうちにやっていることさ。」

「…。」
カラスはまだ月を探している。
「どうした、急に黙って。」
「…俺は、待ってやるさ、その時を。」

「その時は、またこうして、他愛もない話でもしようじゃないか。」
「その時は、あんたじゃなくて、お月さんに相手してもらうさ。」
「ふぉっふぉ。連れないなあ。」
「じゃあ、達者でな。」
カラスは街の方へ飛んで行った。

それからすぐ、お月さんが少しだけ雲の間から顔を出した。
「お月さんは、いじらしいひとだ。」


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*2020.7.6追記

【劇団Noi!朗読劇】ver.

https://youtu.be/fDZEW11CG9c

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