なつぞら俳句 7月
7/1
五月晴れ似合わぬ庭で打ち合わせ
夏山を目指して行けば牧場あり
夏の庭大きな寝間着吊るし干す
夏野から驚き握る黒電話
7/2
電話へと急いで帰る薄暑かな
夏野原家をめがけてペダルふむ
妹の声想い出あふれ夏来る
十年も声は変わらじ風五月
7/3
似た声が春の十勝に聞こえたり
十勝の朝指で数えて乳搾る
夏至の日に夜行列車十勝へと
朝焼けを赤い屋根待ちにけり
7/4
夏始め白いトラックが行く野原
夏の蝦夷耳の記憶が蘇る
鶯や覗く牛舎光りあり
夏の原赤い自転車走り去り
7/5
夏来れど手紙に涙今いずこ
畳すりお稽古続く夏初月
花残り月記憶は続く声聞きて
夏夕べ鼻摺り寄せて妹の服
7/6
夏来る写真残し妹去りぬ
啄木鳥や届く牧場へ太き幹
夏きざす森のアトリエ馬を描く
輸送缶白いお布巾秋を待つ
7/8
五月の夜黄色いガラス灯ぬけ
絵を描いて印を残す夏の道
夏の朝吊るした服の輝きぬ
草萌ゆる十勝の夏に別れ告げ
7/9
新宿の我が家へむかう夏の朝
ひと揃う企画会議も夏に入る
夏始バターカリーに舌鼓
あらすじをだしにして来る夏の宵
7/10
妹も描く兄と私を夏休み
アイスコーヒー企画会議が溶かしけり
窓の横回らぬ黒い扇風機
夏の空目指して上る蔦の塔
7/11
湯気上るおでん屋暖簾揺れもせず
赤暖簾のけて親分軋む椅子
冬の夕森の精霊身を縮め
雪解光森にも子ら入り込み
7/12
風青し原画が揺れるスタジオへ
スポットライト台本片手夏に吹き
浅き夏話し込んでは氷溶け
笛使いスタジオ響く時鳥
7/13
秋の宵ノートの記憶探し当て
赤暖簾北の女の吠える秋
秋近し具がない鍋屋決起する
道塞ぎ手を取り踊る秋あつし
7/15
駆落ちと胸張り叫ぶうそ寒し
秋深し古希の姉妹が添い寝して
秋湿り灯りが消えぬ作画台
下冷えるセピア色濃い会議室
7/16
赤提灯五月の雨を照らし出し
樟落葉中庭の池埋め尽くし
みどりのブラウス中庭で受く柏落葉
睡蓮咲く一生伴にと打明し
7/17
秋麗や中庭でするプロポーズ
コーヒーや回はぬレコード秋の声
夜半の秋ピンクの電話回したし
秋寂ぶやたばこが煙いジャズ喫茶
7/18
秋高し描き直し指示苛立ちし
秋の風暖簾仕舞いて電話鳴る
秋の夜裸電球に想い馳せ
秋の風二人の仲へ溝が出来
7/19
秋初めこころうち開け破綻する
距離を知る恋の終わりの冬の朝
秋浅しちんちん電車埃揚げ
パフェを召し秋立つ北へ旅立ちぬ
7/20
秋半ばアフレコ室の熱たかし
一仕事心ひとつのピクニック
山遊び座るシートが心地よく
夏来る倒木映す森の色
7/22
作画室拭けどもいずる玉の汗
インタビュー汗ばむ抑え光り受け
Vアンテナぐらぐら揺らす扇風機
暑き日やポスターに名いでしども
7/23
夏衣テレビアニメをひらひらと
サンドレス螺旋階段まわり見せ
汗拭ひ稽古場で説く芝居感
恋の噂夏の飲み屋が熱こもる
7/24
秋暑し稽古は進む仮衣装
秋めくや原画アイデア山となり
秋されて演劇語る彼のこと
秋半ば着飾り揃い初日なり
7/25
花束を千秋楽が友にへと
友送る秋の色するネオン街
秋の夜恋人の肌ネオン色
秋の宵勘違いでも告白す
7/26
秋さりし別れのワイン涙色
互いの秋冷や酒ワインひとり飲み
朝冷えの新宿の街犬吠える
秋惜しむ明かりが消えぬ作画室
7/27
リビングへ揃ひてマンガ聖夜かな
クリスマスピンクの電話雪想ふ
雪が舞う我かポスター捨てて北
雪つもる森のアトリエ筆進む
7/29
お年賀へ帯締めあげて内股で
新年会傘で風船かくし芸
喫茶店正月なのにジュース飲む
お正月しめ縄だけの赤暖簾
7/30
正月やレコードに針唄いだす
冬めく宵ボストンバッグを抱え出て
朝東風や作画監督辞令受く
風光る踊り場で聞きプロポーズ
7/31なつぞら俳句
踊り場で結婚約束玉の汗
サンドレス襟元飾るトルコ石
汗拭い消し屑積もる作画室
夏至の日や紙屑の山描き直し
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