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vol.8 0歳にも渡せる、安心の絵具の選び方〈1〉ー知って欲しい、画材の安全

 世の中に数多ある、絵具商品。水彩絵の具、固形水彩絵具、ポスターカラー、ガッシュ.... 学童用だけでも、多種多様な絵具が売られています。

 保育園でアトリエスタをはじめて、3年。翌年オープンしたこども園でも同じ職に就いて、そろそろ2年。保育士さん達との連携が、徐々に、徐々に取れて来たかなと思えることも増えました。
 働き始めて間もなかった頃は、自分の経験ベースで保育士さん達にアプローチしてしまって、現場のニーズに合っていない提案をしていたこともあったように思います。
 そもそも、アトリエスタという職の歴史が日本においては浅く、保育士さんでさえ戸惑ったことと思います。この専門職とどう関わり、活用し、日々の保育に取り入れたら良いのか、わからないでいる保育士がいることは仕方のないことと思い、日々の先生方の保育活動から、不安や抵抗感の正体が何であるかを、私も探り続けました。

 保育士が持つ”思想”のその向こうには、保護者さんの園に寄せる”願い”もあります。絵具遊びをさせることで、洗濯の手間を心配する保護者さんは一定数います。

「明日は絵具遊びをしますので、汚れても良い服の用意をお願いします。」
 …えー、、、…… 上の子の体操着もあるのに…。
 それよりもアルファベットを教えてあげて欲しいな...

 開園して間もない、志は高いけれど、表向きは普通の園です。そう思っていらっしゃる保護者さんも、きっといます。そしてその言葉を伝えるのは、私ではなく、担任の保育士でした。彼・彼女らの柔らかい笑顔の裏に、これがなかなか勇気のいる連絡です。しかし、そうした点へのフォローが、アトリエスタとしては非常に大事であることに、すぐには気がつけませんでした。物づくりや工作、お絵かきに習い事のお習字で、手が汚れたり小さな怪我が幼い頃から絶えなかったりした私には、その不安を感じ取ることができなかったのです。

 衣服に付着しても洗える画材は、優秀なものが増えています。発色や使い心地からすれば難点もありますが、保育園のような、様々な事情と願いをもって人が集まるところにおいて、みんながみんな「どうぞ!汚れていいです!」というわけにはいきません。使い所によっては非常に助けとなる画材です。
 まだまだメジャーではない、乳幼児の日常的な造形遊びに理解を求めるためには、こうした気遣いの積み重ねが大切だということが、少しずつ私もわかってきました。

 また誤った知識から、誤飲の危険性を心配されていたことも、乳幼児の造形遊びに抵抗感を持つ理由のひとつでした。もちろん、絵具を食べさせないようにする危機感は必要ですし、食べてはいけないもの、と教えなくてはなりません。しかし絵具は毒ではありません。
 この誤解については職員ミーティングで、機会あるごとに繰り返し、繰り返し、何度も説明しました。そうしてようやく〈保育者と0歳さんが、楽しんで絵具遊びのできる園〉が実現するようになってきました。大人たちが楽しむことができなければ、子どもは安心して楽しめません。”保育者が楽しんで”取り組むことが、とても大事なのです。
 これは園長先生をはじめ、コミュニティーコーディネーター、保育士の先生方のご理解とご協力があったからに他なりません。

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 今回のnoteでは、私がこれまで0歳〜5歳までの子どもたちと使ったことのある絵の具と、最終的に現場で愛用している商品についてご紹介したいと思って書き始めたのですが、それは次の機会に回して、先に、保育士の先生方に絵具についての正しい知識を持ってもらうために説明した「学童用品で使われる、絵具の安全性」について、まとめたいと思います。

 日本で売られている画材や文具用品の多くには、「APマーク」がついていることを、ご存知でしょうか?

 これは、The Art and Creative Materials Institute, Inc. (通称ACMI)という国際的な協会が作っている認定プログラムで認証された証で、毒性のない、安全基準を満たしていることを示します。反対に、同協会ではCLマークというシンボルも設けていますが、こちらは日常的な場面で見かけることは滅多にないように思います。

 この他にも、画材につけられているマークは、安全性と正しい使用方法を伝えるために、重要な情報にはシンボルマークを用いて記されています。国際ルールとして定められたものなので、海外製品でも見ることができます。お手元に画材がありましたら、成分表示のところを見ながら読んでいただけると面白いかと思います。意外と身近なところでも見ることができますよ。


安全を示すシンボルマーク

◎ APマーク

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人体に無害で安全だと認めるマーク
アメリカ合衆国のACMI(アメリカ画材・工芸材料協会)が行う、きびしい評価基準ASTMをクリアした画材、工芸材料だけに与えられる。
100%の安全性というより、急性または慢性的な健康被害を引き起こすのに十分な量は含まれていないことを示している。
ASTMの発祥の地であるアメリカのメーカーはもちろん、海外に製品輸出を行っているヨーロッパ、ロシアや日本の画材メーカーも、このAPマークを取得していることが多い。

 専門家用描画材料に関しては、表現において必要とする判断から、有害物質を使用した画材も販売されています。具体的な例で言うと、油絵具や日本画では、カドミウムや水銀、鉛などを、顔料(色の粉)に使用することがあります。これらの材料は学童用品では使わないよう、規制されています。したがって学童用画材には大抵APマークがついています。

(※ただし、APマークの認証は義務ではありません。各メーカーがブランドの信頼を保つために、自主的に取得しています。100円均一などのオリジナル画材には、承認取得のコストから取得されていないこともあります。基本的に口に含むようなものではない、という考えで、アナウンスしているようです。)

 そして、昨今の科学技術の発展をうけて、有害・有毒性物質を含む画材を使用せず、別の原材料で色を再現することも、安価に叶うようになってきました
 "最も新しい画材”と言われる「アクリル絵の具」では、ほとんどの絵具チューブにAPマークが着いている印象です。

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 一方で、有毒性を含む画材には、先ほど紹介したCLマークをはじめ、以下のような警告マークが記されています。日常の場面では滅多にお目にはかからないと思いますが、専門性の高い画材を扱う大人は、知っておくべき知識です。

注意喚起を示すマークたち

⚠️ CLマーク

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CLマークは、有害性のある材料が用いられているが、適切な情報のとおりに適切な扱いをすれば安全に使用することができる材料に与えられる。
その場合、適切な使用に関する情報の表示が行われる。
APマーク同様、アメリカ合衆国のACMI(アメリカ画材・工芸材料協会)が行う、きびしい評価基準ASTMをクリアした画材、工芸材料だけに与えられる。アメリカのみならず、ヨーロッパ、ロシア、日本の画材メーカーも取得していることが多い。

⚠️ 有毒性マーク(日本)

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一般的に有害性があり、使用にあたってリスクを伴う可能性がある成分を含む製品につけられている。有機溶剤を含む画用液類に多く見られる。
日本製品では、日本の絵具メーカーの連絡会である「全国画材協会」が取り決めた統一表示基準による。
アメリカ、ヨーロッパの表示基準に倣って作られたもので、日本の『毒物劇物取締法』や『特化物規則』をベースに各国の表示を重ね合わせている。健康に有害に作用する可能性があるものに付けられる。

⚠️ 可燃性マーク(日本)

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可燃性を示す炎のシンボルは、この製品を取り扱う際の火気の使用に注意を促すもので、喫煙などはしないようにすることを示す。一般的に可燃性か、非常に可燃性である製品に付けられていて、その区別はない。主に、油絵具等の画用液に付けられている。また、スプレー系などのエアゾール製品でも同じ印が見られる。
日本製品では、日本の絵具メーカーの連絡会である「全国画材協会」が取り決めた統一表示基準による。『消防法』がベースになっており、危険物の分類もマークの近くに表示するよう定められている。

画材屋さんで見かける頻度が高いのは、この3つあたりでしょうか。

海外製品であっても、危険性のあるものについては同様の図で記されています。国際ルールとしてハザードマークは共通図を用いるので、これらのマークを見つけたら、きちんと読み、使い方を調べることをお勧めします。

いずれも価格の高い、専門性のある画材であることがほとんどですが、専門性の高い画材は、お値段の違いだけでなく、学童用画材では表現できない美しさ、快適さを持っていることも確かです。まれに専門用水彩絵具に有毒性マークがついている絵具があるようなので、必ず確認し、正しく使用するようにしましょう。

 子ども用の水彩絵具と、プロ用の水彩絵具の違いについては、かれはさんのブログでよく検証されており、読み物としても面白かったので、ご紹介させていただきます。結論から言うと、混色時に違いがわかりやすく、安価なほうが鮮やかさが若干落ち、値段の違い=顔料の純度であることがわかります。

透明水彩で空想の絵を描く枯葉庭園-水彩読本
サクラマット水彩について(子供用絵の具とプロ用絵の具の違いとは?)https://k-garden.art/sakuramat-watercolor/


 次回は、数ある学童用絵具・プロ用絵具のなかで、結果として私たちが長く愛用している絵具をご紹介します。
 特に学校や保育園等の施設としか取引しないような学童用品カタログに掲載される画材は、なぜだか学術的・専門的なレビューが少なく、大容量でお試し購入するには難易度の高いものばかりなので、私も検証には苦労しました...。
 園と相談しながら少しずついろんな商品を試し、子どもたちにも使ってもらって感じたことを、まとめたいと思っています。


[参考]

画材のエコロジー
「ハザードマーク一覧」
http://www.artnavi.ne.jp/representation/gazai/ecology/hazardmark.html#c

note:Textmarker | 蛍光ペン研究ユニット
「APシールとCLシールとは?そして「つくる責任」につながるのか?」
https://note.com/textmarker/n/nd191b1400484

3色パステルアート〜心理カウンセラーカラ学べるパステルアート〜
「ダイソーパステルリニューアル版(2018年10月)と旧製品との比較」
https://3cart.net/daisopastel/


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