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予定調和という王道|三浦しをん『仏果を得ず』によせて


小さいいえ』の後、日本の女流作家さんの話にもう少し浸かりたくて、湊かなえさんの『贖罪』を読んだのですが…これが、全然面白くない上に後味がひどく悪くて…(『告白』は読んだ当時は引き込まれましたので、悪い印象はなかったのですが)。気持ちを切り替えるべく書架を見ていた時に、「ああ、これはきっと間違いない」とおもったのが三浦しをんさんでした。

三浦しをんさんといえば、箱根駅伝に臨む大学生の青春を描く『風が強く吹いている』が代表作で、私にとっても彼女の一作目。「駅伝」にも「青春」ともおよそ縁のない人生だったのでそれまでかすりもしなかったのですが、会社の先輩におすすめされて手に取り、爽やかな読後感になるほどとその人気を理解したのでした。

そして、辞書編纂というテーマがユニークで、映画にもなった『船を編む』。言葉のニュアンスをどこまでも追いかける真摯さもまた非常に彼女らしく、やはり爽やか。

そうして、一種の爽やかさを欲していた私にとって、三作目となったのが『仏果を得ず』でした。文楽の芸を極めようとする中で、人間模様があり、恋愛事情がありと非常にシンプルなお話なのですが、 ニッチな分野を掘り下げつつも、ストーリーとしては順当に収まるべきところにきっちり収まる感じが、彼女らしい作だなと思いながら読みました。

ある意味ではあらすじ通り、なんの破綻も驚愕もない話。けれども、軽やかな全体感と、映像が想像できるような文体は安心して読み進めることができ、予定調和が許される数少ない作家さんの一人だなと思ったのでした。作家迷子になった時に安心して手に取れる作家さんというのは、またひとつなくてはならない人なのかもしれません。

よりたくさんの良書をお伝えできるように、頑張ります!