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働き方改革法と人事部門の監査

働き方改革法は,非正規雇用の労働者の保護と経営側の説明責任などについて経営者側に大きな責任がある.監査人は,これらの対応のための取り組みが適正に行われているか,また,働き方改革のためにどのような内部統制システムの構築が行われているかを監査する必要がある.

※このノートは,2019年8月2日に行った講演のメモである. 

1 労働法の性格と働き方改革法案

労働関係諸法は、他の法律に比較して法理すなわち判例により運用を判断しなければならないところが大きく、法令の他に判例に十分な注意を払っておくことが重要である。

かつては、労働組合等による紛争が多発し、判例の積み重ねがすすめられてきたが、近年は労働紛争も減少傾向にあり、かつ紛争は、労働組合等による団体的労使紛争から、労働者一人一人による個別労働紛争へと姿を変えてきている。また,雇用環境は,非正規雇用者が雇用者の3割以上を占めるようになってきており,正規雇用者も終身雇用制度が不確実な状況になってくるなど大きな変貌を遂げている.このため,かつての団体的労使関係よる紛争によって組み立てられてきた法理だけでは、労働紛争を解決することが難しい事例が増大し、労働関係諸法の大きな改正が必要となってきていた。

今回の働き方改革法は、そうした積年の法理の積み重ねから生まれたものであり、最近になって突然生まれたものでは無い。 

2 働き方改革の概要

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革法)は、2018年7月に交付され、2019年4月1日から順次施行されている。

同法は、労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法等8つの労働関係法令を一括改正する法令で、2つの柱からなっている。第一の柱は、ワークライフバランスなどを実現するための労働時間法制の見直しであり、第二の柱は、同一賃金同一労働をはじめとする雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目指したものである。

3 労働法制の見直し

労働時間法制の見直しとしては,①残業時間の上限規制し,②「勤務間インターバル」制度の導入の促進,③1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得の義務づけ,④月60時間を超える残業の割増賃金率の引上げ,⑤労働時間の状況の客観的把握の義務づけ,⑥「フレックスタイム制」の拡充,⑦「高度プロフェッショナル制度」の新設,⑧産業医・産業保健機能の強化の8つの施策から構成されている.

4 公正な待遇の確保

公正な待遇の確保については,①不合理な待遇差をなくすための規定の整備,②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化,③行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)規定の整備という3つの施策から構成されている.

5 今後予想される紛争

働き方改革法は、従来から労働諸法を適正に運用してきた組織においては、大きな変更を求めていないが、従来は,適正ではないものの使用者側にある程度許容されてきた運用については、違法となる。例えば,大学においては,以下のような事例が考えられる。

(1)     正規教職員と同じ仕事をしているのに時間単価が異なる
(2)     正規職員に賞与があるのに非常勤にはない
(3)     通勤手当等の計算方法が正規教職員と異なる
(4)     自己啓発手当など,正規職員にしか支払われない手当がある
これらの事例は、状況によっては,法令違反となる可能性がある。

6 大学経営者の責務

大学として法令違反を来さないためには,以下のような点について、法施行前に早急に検討すべき事項である。

  1. 事業主の説明責任を果たす

    •  労働者の  雇用条件については、採用時の説明確認書で明示すること

    •  雇用者からの請求に基づく説明に対応すること

  2. 正規職員と非正規職員の処遇の見える化を行う

    • 正規職員が果たすべき中核業務を明確化し、雇用者の正規職員と非正規職員の責任の程度を明文化しておくこと

    • 非正規職員から正規職員への渡洋などの人材活用の仕組みを設け,恣意的にならない運用を行うこと

7 内部監査の重要性

働き方改革法は,すでに2019年4月から施行されおり,各大学法人とも、その対応への取り組みが終了している段階にあるはずである。監査人としては,これらの対応のための取り組みが適正に行われているか,また,働き方改革のためにどのような内部統制システムの構築が行われているかを監査の視点から検討する時期に来ている.

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