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異世界転生しないホリエモン

 ひろゆきは異世界転生する。しかし、ホリエモンは異世界転生しない。この点にふたりのキャラの違いがもっとも表れている。
 たしかに両者には共通する感覚がある。どちらも集団の不合理なルールが大嫌いだ。

 少し前、ホリエモンが「寿司職人が何年も修行するのはバカ」と発言して、炎上したことがあった。寿司屋で下積みする必要はない。専門学校で集中的に勉強したほうが効率良く技術を習得できる、と。こういう発言の背景には、前回触れたインターネットのオープンイノベーションの考え方がある。

 「技は見て盗め」とよく言われる。確かに職人の技は簡単に教えられないのかもしれない。しかし、意地悪な見方をすると、技術をわざと隠すことで、弟子たちに無償労働させているだけだ、とも言える。そして、しばしば必要のない無駄なルールもある。ある家具職人のメーカーでは女性であっても髪型は坊主、風邪を三回ひくとクビになるらしい。特殊なノウハウを独占することが権力につながっている。

 しかし、ホリエモンが指摘するように、技術を秘匿することは業界の進歩を停滞させる原因ともなる。たとえ職人の世界であっても、技術やノウハウを共有した方がレベルアップするケースがある。たとえば、僕が知っている例だと、日本酒がある。かつて福島県は「二級酒王国」と呼ばれていたが、杜氏の経験と勘に頼っていた酒造りの工程をマニュアル化し、門外不出だったテクニックやノウハウの共有を進めた結果、レベルが飛躍的に向上した(全国新酒鑑評会で金賞受賞銘柄数が9年連続一位)。

 インターネットでは技術を学べる手段はいくらでも転がっている。わざわざ職人のもとで下働きをすることに意味はない。知識や情報はつらい修行で身につけるものではない。自分に足りない知識や技術があれば、ネットで検索する。専門家に質問する。ノウハウを持っている職人をお金で雇えばいい。そもそも、会社とはそれぞれ足りない部分を補うものだ。技術やノウハウは隠さず共有したほうが全体のレベルがアップする……このようなホリエモンの考えにはオープンイノベーションの考えがある。

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