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谷川雁の原子力(中) 詩の隠喩としての原子力

(『現代詩手帖』二〇一四年九月号掲載)

 原子力と現代詩の接点として誰もが思い浮かべるのは、現代詩人会の壷井繁治や岡本潤らが一九五四年三月にアメリカのビキニ環礁水爆実験により第五福竜丸の乗組員が被爆したことをうけて出版した『死の灰詩集』であろう。これにたいして、鮎川信夫が『死の灰詩集』が「文学報国会編『辻詩集』の戦後版」であると述べ、当局から世論や国民感情にすりかわったとはいえ、時代情勢に没入している点では戦前の戦争賛美詩と何も変わらないではないか、と批判したことはよく知られる(「『死の灰詩集』の本質」など一九五五年)。鮎川にとって、ファシズムやコミュニズムを問わず、集団的な権威のために詩はあるのではない。詩は「自己の内的生命の欲求」によって書かれるべきであった。
 ところで谷川雁もまた『死の灰詩集』に関して言葉を残している。

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