見出し画像

反TSUTAYAオリンピック宣言

(初出『子午線通信』4号、2017年)

 むかし同人誌のフリーペーパーに書いた文章です。レンタル事業の縮小、Tポイントの終了と経営が低迷しているTSUTAYAが、オリンピックに食い込もうとした文化イベントになぜか参加してしまった話です。若書きだなと思いますが、いま読んでも奇妙な話すぎて面白いと思います。
 大阪万博の巨大木造リングもそうですが、オリンピックや万博といった国家的なイベントに協力=翼賛してしまう建築やアートをどう考えるべきか。まあ、その理由はお金がかかるからですが。
 そういう意味ではそれほど金がかならない文筆業は幸せだと思います。


 2015年の冬、虎ノ門ヒルズでおこなわれたあるイベントに行った。イベントのメンツは、建築家の磯崎新、妹島和世、彫刻家の名和晃平、思想家の浅田彰という豪華なもので、私は勤めていた出版社の物販のために行ったのだが、このイベントが謎だった。一般への告知はなく、招待客だけのクローズドな講演会。主催も「カルチャー・ヴィジョン・ジャパン」(以下、CVJ)という耳慣れない団体だった。要領を得ないまま、会場前でぼんやりと売り子をしていると、デザイナーの山本寛斎、東大教授のロバート・キャンベルや下村博文前文部大臣があらわれ、一体これは何の会なのか、と驚いていると、さらには元サッカー日本代表の中田英寿まであらわれた。

 同僚に聞くと、「カルチャー・コンビニエンス・クラブ」、つまりTSUTAYAの創業者である増田宗昭が会長をつとめる文化団体であるらしかった。舞踊、能楽、華道など伝統芸能の家元や、内閣官房や文化庁の官僚、そして、電通やパナソニック、ベネッセ、吉本興業、三越伊勢丹などの大企業の幹部が集まっていた。出席者リストをこっそり見せてもらったが、多くの人間に「オリンピック担当」という役職がついており、2020年の東京オリンピックにむけた文化団体であることがようやくわかった。


 その日のイベントは、磯崎新の「東京祝祭都市構想」をめぐるものだった。詳しい内容は『偶有性操縦法』(磯崎新著、青土社、2016年)に書かれているが、皇居前広場で、オリンピックの開会式をふくめた全世界的な100日間の祝祭をひらき、国立競技場は建設することなく、「原っぱ」のままで競技をおこなう、というものだ。新国立競技場問題に対する磯崎なりの介入であり、いつものように実現不可能なプロジェクトをばーんと打ち立てるものだった。東日本大震災のときには、国会議事堂を福島第一原発に隣接させ、首都を移転させるという計画を発表している。講演の評判はどうだったのだろうか。たまたま私の隣の席に座っていた中田英寿は、磯崎が話し始めて10分もしないうちに席を立ち、そのまま戻ってこなかった。

ここから先は

3,606字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?