ソニーがパラマウント・グローバルを買収したらどうなる?

ソニーがパラマウント・グローバルを買収したらどうなる?


その1  報道から感じるポイント


 4月19日、ソニーが投資会社のアポロ・グローバルと共同で米主要メディア・グループの1つであるパラマウント・グローバルの買収に参入するとNew York Timesが報じている。

 この報道だけで「断定的に」解説することは難しいが、久々に訪れた日本企業(ソニー)が米国で存在感を高める機会であり、同時にソニーにとってもビジネスチャンスであると感じるため、「この段階」で取り上げることにした。

 本誌が認識している米国の映画を含むメディア業界の最新状況も取り混ぜて解説したい。

 パラマウント・グローバルとは、傘下に映画制作・配給として存在感の大きいメジャー映画スタジオ「ビッグ5」の1つで「ミッション・インポシブル」「インディ・ジョーンズ」「トップガン」「ゴッド・ファーザー」「フォレスト・ガンプ」などの知的財財産権を保有するパラマウント・ピクチャーズ、全米4大ネットワークの1つのCBS(注)、ケーブルテレビ運営会社(旧バイアコム)、さらにストリーミング配信を行うパラマウント+などがある米主要メディア・グループの1つである。

(注)全米4大ネットワークとはABC、NBC、CBS、FOXであるが、CBSが最もドラマ・コンテンツが充実しており視聴率が高い。

 ソニーも傘下に「ビッグ5」の1つであるソニー・ピクチャーズがあり、また本格的なストリーミング配信を手がけていないためシナジー効果が期待できる。ただしソニーは米国にとって外国企業なので4大ネットワークのCBS買収は現実的ではなく、分離して買収対象から除外すべきである。

 報道を受けて4月19日のパラマウント・グローバルの株価(終値)は、前日の10.97ドルから12.44ドルまで上昇したが、それでも時価総額は85億ドル(1.3兆円)と米主要メディア・グループの中で「飛びぬけて」安い。詳しくは後述する。

 業績が振るわず(2023年12月期も6億ドルの赤字)株価が続落する中で、オーナーのレッドストーン家は以前から高値での売却チャンスを探っており、本格的にビジネスを拡大するつもりなどないからである。しかし現時点でも作品の著作権も含めたパラマウント・グローバルの資産価値を考えると、確かに株価は「格安」で買収金額も抑えられる。

 現在のパラマウント・グローバルは、グループ内の映画・ドラマ制作を請け負っているスカイダンス・メディアとの合併交渉(スカイダンスによる買収)が進んでいるとされるが、スカイダンスを率いるデビッド・エリソンは実力不足で株式市場も期待していない。

 デビッド・エリソンは、オラクル創業者で大富豪のラリー・エリソンの息子である以外に長所はなく、同じく映画制作会社を率いる妹のミーガン・エリソンとともに評判は芳しくない。だからソニーによる買収となれば株式市場も反応するはずである。

 しかしソニーと共同でパラマウント買収に参加するとされるアポロ・グローバルとは、かなり「きわどい」投資も行うが融資条件は大変に厳しい投資ファンドで、わざわざソニーから声をかけたとは思えない。

 アポロ・グローバルにはSBG傘下のSVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)もお世話になっている。未公開株式を担保に「かなり」の金額を高利で借入れているが、その主要な担保がアーム株式である。SVFが保有するアーム株式は昨年9月の新規上場に際して161億ドルでSBGが買い戻しているが、実際はSBGが41億ドルだけを支払いアポロが担保解除したアーム株式の10%だけを売り出した。正確にはその売り出し代金で41億ドルを支払っている。

 つまりSVFは今後SBGから支払われる120億ドルをアポロに返済して「やっと」アーム株式の担保が解除されSBGに引き渡せるが、SBGもそのアーム株式を追加売却しなければ120億ドルも支払えない。SBGもSVFも見かけほど資金に余裕があるわけではない。

 いつの間にか横道に逸れていたので話を戻すが、今回はせっかくの機会でもあるため米主要メディア・グループの「顔ぶれ」と変遷、とくに「ビッグ5」を中心とした映画業界の最新状況、それにここからソニーによるパラマウント・グローバル買収が進む可能性などを考えてみたい。


その2  米国映画界を支配するメジャー映画スタジオ「ビッグ5」


 米国映画界の最新状況から始める。映画の制作・配給だけでなく事前市場調査・資金調達・俳優や監督の起用・広告宣伝、それに幅広い上映館の確保などを自己完結型で取り仕切るメジャー映画スタジオは、長い競争の末に以下の5社(ビッグ5)に集約されている。カッコ内の数字は2022年の北米における市場シェアである。独立系スタジオや後から出てくる新規参入もあるが「ビッグ5」の市場シェアは9割を超えている。

 その「ビッグ5」を市場シェアの高い順番に並べると、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ(27.1%)、ユニバーサル・ピクチャーズ(22.4%)、パラマウント・ピクチャーズ(17.6%)、ソニー・ピクチャーズ12.8%)、ワーナーブラザース・ピクチャーズ(12.7%)となる。

 すべて1912~1924年にユダヤ資本によって設立され、ロサンゼルス郊外(ハリウッド)に本社を構える「閉鎖集団」であるが、その中でもパラマウントは第3位で、ソニー・ピクチャーズよりもシェアが高いことに注目してほしい。

 最近までのメジャー映画スタジオには、ルパート・マードックが率いるニューズ・コーポレーション傘下だった21世紀フォックスが含まれており「ビッグ6」だった。2019年3月にその21世紀フォックスおよび関連資産の大部分を713億ドルもの巨費でウォルト・ディズニーが買収し、翌年にグループ内の20世紀スタジオと改組したため「ビッグ5」となっている。

 メジャー映画スタジオは「金食い虫」であるため自力で存在しているわけではなく、ソニーを除いて「ビッグ5」はすべて米主要メディア・グループ傘下となり、それぞれのメディア戦略の中核に組み込まれている。またメジャー映画スタジオも資本を求めて「親会社」をたびたび乗り換えている。


その3  「ビッグ5」の親会社である米主要メディア・グループについて


 その1でラマウント・グローバルについて書いたので、残る3社とソニーについて解説する。


ウォルト・ディズニー・カンパニー


 「ビッグ5」でもシェア最大のウォルト・ディズニー・ピクチャーズの「親会社」は、もちろん総合エンタテインメント大手のウォルト・ディズニー・カンパニーである。

 その傘下には、世界6か所にあるディズニーランド関連施設(東京・香港・上海・パリはライセンス契約、フロリダ・南カリフォルニアは直営)、4大ネットワークの1つであるABC、スポーツ専門チャンネルのESPNなどがあり、映画関係では先述の20世紀フォックス以前にマーベルとルーカス・フィルムを、それぞれの作品の知的財産権とともに買収している。

 また2018年後半にはストリーミング配信のディズニー+、ESPN+、HULU(67%出資)をスタートさせているが、そうなった経緯は次項に出てくる。ストリーミング配信の合計会員数だけは業界トップクラスであるが、早くも会員数が純減に転じており収益も芳しくない。

 ウォルト・ディズニー・カンパニーの業績はコロナに襲われた2020年10月期に24億ドルの赤字となり、その後は黒字転換するがコロナ直前である2019年度の116億ドルの黒字に対して2023年度は34億ドルの黒字に留まる。

 株価はコロナが終息するとの期待から2021年3月に197ドルの高値となるが、そこから業績の伸び悩みで2023年10月には79ドルまで下落し「物言う株主」の攻撃に晒される。4月19日の株価は112.61ドル、時価総額は2065億ドル(32兆円)である。


コムキャスト


 「ビッグ5」のシェアがディズニーに次ぐユニバーサル・ピクチャーズの前身であるMCAは、バブルが弾けていた1990年12月に松下電器産業(当時)が61.3億ドル(当時の為替で7800億円)で買収するも、全くコントロールできず1995年にカナダのシーグラムに売却してしまう。当時は円高で、かなりの売却損となったはずであるが、見切りは早かったことになる。

 その後のMCAは仏ビベンディ、NBCの親会社のGEと次々「親会社」が代わりNBCユニバーサルとなる。2013年にケーブルテレビ大手のコムキャストがNBC、ユニバーサル・スタジオ(ロサンゼルス郊外)などと共に完全買収する。

 その後のNBCユニバーサルは2020年(当初)の東京オリンピックから2032年までの夏冬8大会の放映権を76.5億ドル(当時の為替で8400億円)で独占取得し、2017年には非公開化されていたユニバーサル・スタジオ・ジャパンをゴールドマン・サックスから5000億円で買い取るなど、当時は米主要メディア・グループの中で最も勢いがあった。

 「親会社」であるコムキャストの業績は、2022年12月期の純利益が49億ドルに落ち込むが2023年12月期は151億ドルとコロナ前のピークを上回っている。株価は2021年9月の61ドルの高値から2022年9月に29ドルまで下落したが、4月19日は40.24ドル、時価総額は1598億ドル(24.7兆円)となっている。業績が好調で、株価は割安(PERが10倍台)に放置されている。

 ストリーミング配信は傘下のPeacockなどでスタートさせているが、あまり積極的ではない。


ワーナーブラザース・ディスカバリー


 ワーナーブラザース・ピクチャーズの親会社であるが、そうなった背景は複雑怪奇である。

 オバマ政権末期の2016年10月、米通信大手AT&Tが米主要メディア・グループのタイム・ワーナーから、メジャー映画スタジオの1つであるワーナーブラザースと作品の著作権・撮影スタジオなどの関連資産、ニュース専門チャンネルのCNN、ドラマとボクシング専門チャンネルのHBOをワーナー・メディアとして分離し、何と854億ドル(負債込みで1080億ドル)もの巨費での買収に合意してしまう。

 確かに当時はAT&Tの通信設備と映画などコンテンツの融合は有望のように思えたが、買収金額は明らかにタイム・ワーナーのオーナーであるテッド・ターナーに吹っ掛けられている。このAT&Tとはエジソンが創設した名門企業のAT&Tではなく、そのAT&Tが切り離した(見捨てた)テキサス州の地域電話会社が後に凋落したAT&Tも買収して社名をAT&Tに戻した「巨大な田舎会社」である。

 AT&Tにとって「さらなる」不幸は、買収に含まれていたCNNが新大統領となったトランプ批判の急先鋒だったため買収認可が2018年6月までずれ込んだことである。その間にストリーミング配信が始まり電話回線を使ったコンテンツ配信が割高となり、そもそもコンテンツ買収のメリットがなくなってしまっていた。

 間もなくAT&Tには世界最強(最凶?)の「物言う株主」であるエリオットが乗り込んでくる。

 それでAT&Tは2021年5月に傘下となったばかりのワーナー・メディアを半値の430億ドルで再分離し、ディスカバリー・チャンネルを運営するディスカバリーと経営統合させる。統合会社の71%をAT&Tが保有するが、何と残る29%を保有するディスカバリーをタイム・ワーナーが取得し、統合会社にCEOを派遣して社名もワーナーブラザース・ディスカバリーとして「すっかり」主導権を奪ってしまう。テッド・ターナーにまたしても「してやられた」わけである。

 さらに統合会社となったワーナーブラザース・ディスカバリーの業績は一度も黒字化せず、4月19日の株価は8.40ドルまで下落し、時価総額は205億ドル(3.1兆円)になっている。71%を保有するAT&Tの持ち分は145億ドルまで目減りしている。そのコストは854億ドルである。

 ストリーミング配信は傘下のディスカバリー+やHBOマックスを通じて力を入れている。

 ここでテッド・ターナーもパラマウント・グローバル買収を「密かに」狙っているらしい。テッド・ターナーの目にもパラマウントは「割安」に映っていることになる。


ソニー


 最後は唯一の米主要メディア・グループではないソニーである。ソニーは先述の松下電器より早い1989年9月にメジャー映画スタジオの1つであるコロンビア・ピクチャーズ(当時)を48億ドル(6700億円)で買収した。ソニー社内では今でも買収した理由がよくわからないらしい。

 当時のソニー社長は東京芸術大学出身の大賀典雄だったが、買収したコロンビア・ピクチャーズを全くコントロールできなかっただけでなく、まさにカネをせびられ続けて「食い物」にされ続けるが、大賀は売却してしまう決定もできなかった。

 またソニー社長も大賀に続いて1995年に出井伸之、2005年にハワード・ストリンガーと「凡庸」が続き、ソニーの業績も2009年3月期から2015年3月期まで(2013年3月期を除いて)純損益の赤字が続き、株式時価総額も2012年には一時7000億円台に沈む。

 コロンビア・ピクチャーズはソニー・ピクチャーズとなった2000年代半ばになって、ようやくスパイダーマン・シリーズ、マスク・オブ・ゾロシリーズ、メン・イン・ブラックシリーズなどヒット作が出始め、ハリウッドでの存在感も回復していく。

 またソニーの業績も2010年代半ばから、ようやくゲーム事業やエンタメ事業の回復で上向き始め、2021年3月期に初めて1兆円を上回る1兆1717億円の純利益となり、株価も2020年12月に1万円台となる。

 純利益は2022年3月期が8821億円、2023年3月期が9391億円、2024年3月期予想も9200億円と、高水準が維持されている。

4月19日のソニーの株価は12530円、時価総額は東証第4位の15.65兆円(1012億ドル)である。また2023年4~12月期における映画部門のセグメント営業利益は416億円(前年同期は254億円)で、黒字ではあるが決してソニーが映画部門の収益に依存している状況ではない。

 逆に言えば、ここからコンテンツの内容と比較して明らかに割安のパラマウント・グローバルを抱えるリスクは「それほど」大きくないはずである。


その4  「ビッグ5」の強力なライバルとなった新規参入2社


 米国メジャー映画スタジオあるいは「親会社」である米主要メディア・グループにとって強力なライバルとなる新規参入が2社ある。

 1社はネットフリックスである。現在もCEOであるリード・ヘィスティングが1997年にレンタルビデオチェーンとして創業し2002年には早くもNASDAQに新規上場したが、2007年に業態をVOD方式によるストリーミング配信サービスに完全に切り替えてしまう。

 さらに2012年頃から、既存作品の配信だけではなくオリジナル作品の制作にも乗り出す。出演料をケチらず実力俳優や監督を起用して評判となるドラマ・シリーズや大作映画を連発する。一気にコンテンツ制作会社としての地位を確立し、それで世界中の有料会員獲得に拍車をかける。

 2015年には日本へも進出し、同じように日本人の作家・俳優・監督を積極的に起用したドラマや映画を多数制作して知名度を上げ、有料会員を獲得していく。2020年1月にはスタジオジブリ21作品の配信権を獲得して(日本を除く)全世界に配信する。

 このネットフリックスのビジネスモデルは、メジャー映画スタジオを中心とした「それまでの映画の収益モデル」を大きく変化させる。何よりも少数のメジャー映画スタジオが独占していた「大作を制作して宣伝して幅広い上映館に集客する収益モデル」が、ネットフリックス参入とコロナによる外出規制で完全に崩壊してしまった。

 コロナ直前にはメジャー映画スタジオも相次いでストリーム配信に乗り出していたが、これは高級ホテルが施設内で格安のビジネスホテルを始めるようなもので築き上げたビジネスモデルの自己否定となり、当然に収益は悪化する。

 ここで「ビッグ5」だけが加入するMPA(旧・米国映画協会)が2019年1月にネットフリックスの加盟を認める。これは「ビッグ5」がネットフリックスの存在感を認めたわけではなく、MPAに加盟させて裏方やエキストラなどにハリウッド組合員の使用を義務付けるためである。

 また「ビッグ5」はその決定に大きな影響力があるアカデミー作品賞だけは、「絶対に」ネットフリックス作品に受賞させないなど、あからさまな「嫌がらせ」は続いている。

 それでも4月16日のネットフリックスの2024年1~3月期決算説明では、売上げが前年同期比15%増の93.7億ドル、純利益が同79%増の23.3億ドルといずれも過去最高となり、全世界の会員数もこの3か月で予想を大きく上回る930万人増の2億6960万人に達した。

 ちなみに北米におけるネットフリックスの料金モデルは、画質や端末数の違いにより月額9.99~19.99ドルに分類されており、2022年11月に導入された広告付きモデルが月額7ドルである。また日本における料金は、だいたい1ドル=100円で換算した「ネットフリックス価格」が適用されている。

他社のストリーム配信料金も、だいたい同レベルか、少しだけネットフリックスより安い。

 ネットフィリックスの4月19日の時価総額は2402万ドル(37兆円)で、先述したウォルト・ディズニーの2065億ドル、コムキャストの1598億ドル、ワーナーブラザース・ディスカバリーの205億ドル、パラマウント・グローバルの85億ドル、そしてソニーの1012億ドルを「すべて」上回る。

 そして強力なライバルとなるもう1社がアマゾンである。アマゾンプライム会員とは基本的に個別の送料が無料となる会員向けサービスのことで、年会費は北米が139ドル、日本が5900円である。両者にかなり差があるが、これは単純に北米と日本の輸送距離(コスト)の違いを反映しているだけである。

 これとは別にアマゾンプライムビデオ会員があり、日本の会費は月額600円(年額5900円)で、確かにネットフリックスなど類似サービスより安い。

 問題はコンテンツの内容と豊富さであるが、アマゾンは2021年5月に破綻していた老舗の映画制作・配給会社MGMを、その豊富な作品の知的財産権とともに84.5億ドル(9200億円)という格安価格で取得し、自社配信に力を入れ始めた。

 ここまで見てきたディズニーによる21世紀フォックス買収、AT&Tによるワーナー・メディアの買収と比較して、買収価格は1桁安い。会社が破綻していても作品の価値は変わらない。

 またアマゾンは最近になってドラマ・映画の自社制作に取り掛かり、日本でも2023年9月に「沈黙の艦隊」の実写化(映画化)、2024年2月から同作品の続編の配信を開始している。

 現時点でアマゾンがコンテンツの自社制作にどれほど真剣に取り組むかは不明であるが、すでにMGMを買収して豊富なコンテンツを手に入れているため、既存のメジャー映画スタジオだけでなく先行するネットフリックにとっても「気になる」存在となる。


その5  それではソニーのパラマウント・グローバル買収はどうなる?


 ここまでもパラマウント・グローバルの実質価値に比べて株価が「明らかに」割安であり、またソニーにとってもシナジー効果があるため、承認に時間のかかるCBSは除外して「前に進めるべき」と書いてきたが、その通りである。

 ユダヤ資本の牙城であるハリウッドに、日本企業のソニーが「単なる気前の良いスポンサー」としてではなく乗り込む意義はある。

 問題は米大統領選でバイデンが勝ってもトランプが勝っても、外国企業による米企業買収は簡単に認めそうもない風潮である。ただ今でもソニーは、米企業であるソニー・ピクチャーズの経営にほとんど関与していないため、そのソニー・ピクチャーズがもう1つパラマウント・ピクチャーズおよび関連資産だけ買収しても、表面的には大きな違いはないと主張できるはずである。

 見てきたようにライバルはスカイダンスのデビッド・エリソンではなく、古狸のテッド・ターナーである。これからも出てくるはずのニュースに注目したい。

ここまで2024年4月22日


その6  その後の経過(2024年5月3日現在)


 ソニー・グループとアプロ・グローバルは5月2日、パラマウント・グローバルに総額260億ドル(4兆円)の買収案を提示したと報じられている。

 スカイダンスとの独占交渉権が5月3日に切れるタイミンギに合わせての買収提案であるが、まだ法的拘束力のない買収提案のようである。

 それを受けて2日のパラマウント・グローバルの株価(終値)は前日の12.26ドルから13.84ドルまで上昇し、時価総額も97.4億ドルと買収の噂が出てからの最高値となった。少なくともスカイダンスを率いるデビッド・エリソンよりも、ソニーのほうが株式市場のウケがよかったようであるが、翌3日は12.88ドルまで反落して時価総額も90.4億ドルとなっている。

 パラマウント・グローバルの議決権の77%はレッドストーン家が所有しているが、買収提案は全株式を対象に申し入れている。スカイダンスの提案は少数株主を残すスキームのようである。

 それではソニーとアポロが提示した260億ドルとは「適正」なのか?直近の時価総額が90億ドルなので、実に「のれん」に170億ドル(2.6兆円)も支払う計算になる。

 確かに傘下に映画スタジオ「ビッグ5」と全米4大ネットワークのそれぞれ1つがあるため、その希少価値を考えると「そんなもの」かもしれない。

 ただソニーは外国企業なので4大ネットワークのCBS買収は認可される可能性はないため、最初からCBSの分離・売却を前提としなければならない。買い手はいるはずであるが、ソニーの買収後には「足元」を見られる恐れがある。CBSが売却できなければパラマウント全体の買収が承認されないからである。

 またパラマウント・ピクチャーズの所有する過去作品等の知的財産権の価値は、ソニー・ピクチャーズよりは充実しているが、ディズニーやユニバーサルに比較すると見劣りがする。つまり「ビッグ5」ではワーナーブラザースと「3位争い」である。

 先述のように2021年5月にアマゾンがMGMを84.5億ドルで買収しているが、MGMは破綻しており新しい作品の制作は行っていなかったため、この金額は知的財産権の価値が「ほぼ」すべてである。MGMとパラマウントの知的財産権の価値は「ほぼ同じ」と思われるが、パラマウント親会社のパラマウント・グローバルは上場会社であり、その価値は直近の時価総額(90億ドル)に反映されているはずである。ここは価値判断が難しい。

 もう1つパラマウント・グローバルにはストリーミング配信のパラマウント+がある。確かにソニー・グループにはストリーミング;配信会社がないため、シナジー効果が大きいとされている。

 ただパラマウント+の直近の会員数は6750万人で、1億5000万人を超えているディズニー+でも部門収益は赤字であるため、現時点の事業価値はマイナスである。

 そう考えていくとソニーとアポロの提案している260億ドルは「やはり」かなり高いと言わざるを得ない。

 独占交渉期間の切れたスカイダンスもまだ撤退しておらず、背後に父親ラリー・エリソンの投資会社やKKRが控えているため資金量は豊富である。またワーナーブラザースのテッド・ターナーも「いずれ」参画してくるはずで、決着までには「まだまだ」時間がかかりそうである。