疑惑の凶弾 その7

疑惑の凶弾 その7   2022年8月8日に掲載

 安倍元首相が凶弾に倒れて亡くなった7月8日から1か月が経過しようとしているが、ネット上では銃撃犯とされる男以外の「銃撃犯」の存在など陰謀論が溢れ始めた。

 決して好ましい状況ではないが、何しろ捜査当局から銃撃事件について一切の説明がないため、ある程度はやむを得ない。

 その捜査当局の見解を唯一伝えているのが、7月20日に開催された自民党の治安・テロ対策調査会において、出席していた青山繁晴・参議院議員の質問と検察庁・警視庁幹部の回答部分だけを青山議員の責任で自身の動画「ぼくらの国会」に7月21日付けで公開したものである。

 そしてその「続き」が8月5日付けで公開されたが、7月21日付け動画の内容と「微妙に」違うような気がしたため、7月21日付けと8月5日付けの動画をもう一度聞き比べてみた。その結果、7月21日時点の動画では「ほとんど強調されていなかった部分」までよく聞き入れると、ほとんど違いがないことは理解できた。

 そこで8月5日付け動画で改めて明らかになった捜査当局の見解は以下の通りである。

 まず安倍元首相は「失血死」である。7月8日の医師団の会見では「心臓(心室)が損傷していた」との説明があったが、捜査当局の見解では「心臓は損傷していない(つまり死因ではない)」となっている。これは安倍元首相の死亡確認直後から6時間かけて行われた司法解剖の結果であり、同日の「医師団の会見」とは食い違っているとも付け加えている。

 それでは致命傷となった銃弾は、銃撃犯とされる男の手製銃から2回目に発射された銃弾のうち(1回目は全弾が外れた)、安倍元首相の左上腕部から体内に入り鎖骨下の大動脈を損傷させたものである(だから失血死となる)。その銃弾は射出口のない盲管銃創であるにもかかわらず、司法解剖でも体内から発見されていない。

 さらに安倍元首相はもう1発被弾しており、その銃弾は首の右前部分から体内に入り右肩部分の骨に当たって(骨折している)止まっており、この銃弾は発見されている。

 つまり捜査当局は銃撃犯とされる男の「単独犯」と断定しており、安倍元首相が被弾した2発の銃弾は、ほぼ同一方向から飛んできた(つまり銃撃犯とされる男の手製銃から発射された)と結論づけている。1発の銃弾は発見されているため捜査当局は銃撃犯とされる男の「単独犯」として公判維持ができると考えていることになる。

 これが捜査当局の(本来は表に出なかったはずの)公式見解となるが、そこで「新たな疑念」が出てくる。

 8月2日付け「疑惑の凶弾」その6でも書いた通り、日本では何故か閲覧できなくなっている安倍元首相被弾の瞬間を(2発とも)捉えた動画では、首の右前部分から体内に入ったとされる銃弾の方が一瞬だけ早く着弾している。一瞬ではあるが同じ手製銃から同時に発射された銃弾であるとは言えない「時間差」である。

 さらに同じ手製銃から発射されたなら「弾道がほぼ同じ」でなければならない。捜査当局の言う「首の右前部から体内に入り右肩の骨に当たって止まった銃弾」とは、左上腕部から体内に入り鎖骨下の大動脈を損傷した銃弾と「同じ方向から飛んできた」と決めつけるための解釈と感じる。

 ここは動画を見た限りでは断定できないが、直後に駆け着けた近くで開業されている医師の説明では銃撃直後に安倍元首相の心臓は停止しており、その時点のニュースでも心肺停止状態と報道されていた。捜査当局の見解では銃撃直後の安倍元首相の心臓は無傷で生存していたことになる。

 ここは首の右前部分から体内に入った銃弾が右肩の骨に当たって止まったのではなく、もっと高い角度から発射されて右首のどこかから体内に入り、心臓に直接損傷を与えていたと考えたほうが自然である。

 つまりこの銃弾は銃撃犯とされる男の手製銃から同時に発射されたものではない可能性が残る。捜査当局が捜査状況を開示しない理由は公判維持のためであるが、たまたま青山議員の2本の動画から「捜査当局が用意しているシナリオ」の一端が明らかになった。

 青山議員は「捜査当局が嘘をついているとは思わない」と繰り返し強調しているが(1発の銃弾が発見されていないという不都合な真実まで伝えているから)、客観事実だけを積み上げても拭いきれない「新たな疑念」が出てきたことも事実である。

2022年8月8日に掲載