マガジンのカバー画像

絵画レッスン交換日記:目を凝らせば世界は甘美

7
画家仙石裕美と編集者Lilyの交換日記のようなもの。絵のレッスンを通じて考えたことを記録しています。
運営しているクリエイター

#編集Lily

私たちのこと|絵を描くふたり:仙石裕美&編集Lily

私たちは2012年に出会いました。画家と書籍編集者。偶然机を並べることになったその日から、すでに親友であり、盟友だったのだと思います。 仙石裕美(Hiromi SENGOKU) 画家。 埼玉出身。武蔵野美術大学大学院中退、パリ国立美術学校 (ボザール) 修了後、東京を拠点に個展や国内外グループ展・アートフェアにて作品を発表。2023年~ロンドン在住。制作と発表のほかに絵画講師もします。 ■ HP: Hiromi SENGOKU >>作品集(※ぜひご覧ください) ■ X:

桃を描いたら成人向けコンテンツに指定された件|絵を描くことで思考する #03

「で、何を描くか?」という問題である。 「で、何を描くか?」問題はわが日常に唐突に現れ、厳然とそこに在った。 「一対一のレッスンだし、私はLilyさんが描きたいものを描くのがいいと思うんですよ。とはいえ最初だから、大きすぎず、シンプルな形状のものがいいです。たとえば野菜や果実。デラウェアまでいくと複雑で、林檎とか。サイズもそれくらいのものが描きやすいと思います」 前回のプレレッスンの終盤、仙石裕美が私に言った。 描きたいものを描くがよろしいーーこのひと言、たったひと言が

話そう、私と絵のハナシ|絵を描くことで思考する #02

裕美師匠との初回レッスンは、プレレッスンのような位置付けだった。今後、じっさいに絵を描いていくにあたって、私がレッスンに求めていることを裕美師匠が時間をかけて引き出してくれるのだ。 その際、「何を習いたいですか?」といった安直な問いは少ない。どちらかといえば、「絵をとおした個人の人生経験」を問うては、前のめりの興味津々で聴いてくれるといった趣で、さながらカウンセリングのセッションだ。 でも、これが、とっても楽しかった。裕美師匠は、もともと鷹揚な人柄で、好奇心旺盛だから、誰

聞かせて、あなたと絵のハナシ|Lilyさんの絵画レッスン #01

Lillyさんのレッスンに際し、実際に制作を始める前に初回ヒアリングを行うことにした。 いつも初回レッスン前にはヒアリングの時間を設けている。制作経験の有無や、どんなタイプの作品が好きで何を習いたいかなどの基本的なことを聞いておくために。 そして今回は、もう少し突っ込んで個人的な美術にまつわる体験や記憶、何をどう感じたかというようなことを書いてもらう質問も盛り込んだ。 制作を始める前に、自身の美術との関わりや体験、感覚といったものに改めて向き合う時間をもってもらいたかっ

大人になるとは初体験の機会を失うことである|絵を描くことで思考する #01

30年ぶり、絵を描く目的で鉛筆を手にすることになった。 と言っても、もともと私は「鉛筆超ヘビーユーザー」だ。仕事でゲラに文字を書き入れるときに鉛筆を使っているからだ。BLACKWINGの602が手元にないと、仕事ができない。カポーティもナボコフも愛用した銘品である。『冷血』も『ロリータ』もこの鉛筆から生まれたのかと思うと気分が上がるし、じっさいとびきり書きやすい。家中のシャープペンシルをすべて火に焚べたとて、わが人生にいっぺんの悔いなし、と思い詰めるほどのBLACKWING

豹は虎のイロチってことで|絵を描くことで思考する #00

「虎がもう、豹になってしもてるやん!」 名古屋城本丸御殿の「竹林豹虎図」のことです。世界観、めっちゃクレイジー。それが最高だった。やあやあ、ここに狩野派あり! キンキラキン(ドヤァ)! という圧にあてられて、刹那、脳がバグを起こしかける。そのなかで得たなけなしの理性的感慨がくだんの言葉です。 徳川家康の命で、江戸期の先端技術を結集して造られたという本丸御殿。入るなり、出端で「竹林豹虎図」を見ることとなります。襖絵です。殿に招かれて尾張藩に来てみたら、「プールつきのマンショ

東京の書籍編集者とロンドンの画家|Lilyさんの絵画レッスン #00

ロンドンに移住して半年ちょっと、こちらで第二子が生まれて首もだんだん据わってきた。 以前通りとはまだとてもいかないけれど、制作も少しずつ再開しているし、移住でいったん中断した講師業もまた再開したいな。……そんな風に思っていたところに、編集者のLilyさんから「絵画レッスンを受けてみたい」というお声かけを頂いた。 Lilyさんは、豊富な文学知識とキレッキレに面白い着眼点、そして文学・著者・読者への愛で素晴らしい書籍制作をしている敏腕編集者さんだ。話しているととにかく面白く、