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シティガールとは?

ひとりでバスに乗り、目的地に向かっていた。
車内は結構空いていて、私はふたりがけの席にひとりで座り、本を読み始める。

あるバス停に停まってすぐ、耳元で小さな「すみません」が聞こえる。
パッと顔を上げると、声の主はランドセルを背負った小学1〜2年生くらいの女の子だった。
隣に座るのかなと思ってすぐ腰を上げると、
「このバスは●●駅を通りますか?」と聞かれた。

女の子は緊張からか私の顔ではなく自分の手を見つめている。勇気を振り絞ったような、とても不安そうな表情をしていた。

私は心の中で《うぅ!可愛い!偉い!》と思いながら「通るよ〜」と答える。すると女の子はフゥっと安心したような表情で別の席にスッと座った。そして私はすぐに思った。


《いまの私、ちゃんと微笑んでたか?口角上げられてたか?ちゃんと優しい声色だったか?》


抑揚のない喋り方をする私が、その子を安心させられたか不安になった。
なんなら私はその子が尋ねてきた駅の近くで降りる予定じゃないか…!
だったら「私と同じ場所で降りれば大丈夫だよ〜」とか「バス停に着いたら教えるから大丈夫だよ〜」とか、とにかく「大丈夫」であることもっと伝えられたじゃないか!最近は、持久力も瞬発力も対応力もなくて自分が情けない…。

そこからは本の内容なんて頭に入らず、とにかく女の子が無事にバス停を降りられるように全集中して読書するフリをしていた。
ちなみに女の子は私の2列後ろの席に座ったので、神経を後方に集中させることにした。

女の子が尋ねてきた駅から近い停留所は2つある、手前か奥で降りるかの違いだ。
私は奥にあるバス停で降りる予定だった。
しかし手前のバス停に着いたところで、女の子が一目散に席を立ってバスを降りる。私も慌ててなんとなく勢いで女の子と一緒にバスを降りる。

《わっ!降りてしまった》

私は女の子にも周囲にも怪しまれない距離感で、女の子の後ろを追うようにして駅を目指すことにした。

女の子は割と慣れた足取りで駅までテクテク歩いていく。なんなら私の知らなかった近道を使ってくれたので新しい発見にもなる。
そして無事に駅に着くと、女の子は改札の中にちょこちょこ〜と消えていった。

都会に住む小学生、偉い。すごい。スマート。

上京するまでバスや電車に乗ることはほぼなく、田んぼ道をチャリで駆け抜けていた私からすると、その子のほうが間違いなくシティガールだった。
上京して15年、東京を必死にサバイブしてきた私よりもよっぽど立派な大人に見えた。というか大人だった。

背負っているランドセルも未来も大きくて、でも実際はまだ小さい背中にバイバイして、来た道を戻りながら私は整体へと向かったのである。

シティガールとはなんぞやと思いながら、肩甲骨を剥がされた日だった。


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