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ご質問/語彙と知識について


 ちょっと前なのですが、こんなご質問いただきました。部分的に引用させていただきます。

「語彙」について、小説を書く上では豊富でなければいけないと思うのですが、これは一体どうしたら豊富に出来るのでしょうか。様々な本を読んでいくしかないのでしょうか。勉強あるのみだとは思うのですが、いざ、書こうとすると中々的確な言葉を見つける事が出来ずに悩んでしまうのです。
 また、「知識」について、例えば主人公の職業が教師だとしたら、教師についての知識が必要になりますよね。そういう場合は主にどういう方法で知識を得ているのでしょうか?経験がない事や、専門分野でない事は、知識として持ち合わせていないので小説にするには難しく、その職業ならではというネタを作る事が出来ないのです。ストーリーとして職業重視にしていなくても、ある程度の知識が必要ですよね?榎田先生は、どの様にして情報を仕入れているのか、もし可能であれば教えて頂きたいです。

 ……うん。語彙ですね。
 語彙、あったほうがいいですよね。
 どうしたら語彙の豊かな人間になれるんだろう……私程度の語彙力の人間に、なにを語れと……!(笑)
 でも!
 世の中には便利なものがあります。類語辞典というものです。 「うーん、このページだけで『せつない』を二度も使っている……どうしたものか……」という時に、類語辞典は教えてくれます。『やるせない』もあるよ!『哀愁漂う』もあるよ!と……。
 実際、私も類語辞典にはおおいにお世話になっています。WEB 上にもあるのでそれをどんどん活用しましょう。ただし、類語辞典に載ってれば使えるというものでもないので、吟味して選ぶのも大切です。
 
 基本に立ち返りますと、ご質問者様のおっしゃるように、読書をたくさんするのがいいと思います。ただ、語彙力つけるために読書をするというよりも、好きな本を沢山読んでいたら、いつの間にかある程度の語彙力が身についた……というのが自然な流れかなあ、と。自分を振り返るにつけ、語彙を増やそうと思って本を読んだことは一度もないし、事実たいした語彙力はありません。これは謙遜ではなく、恥ずかしながら事実です。私が小説の中で使っている言葉というのは、ほとんどが日常的に使われる言葉であって、難しい言葉はまず出てきません。そもそも、ライトノベルやキャラクターノベルにそう難しい言葉を使う必要もないので、あまり構えなくて大丈夫なんじゃないかしら……。難しい言葉がいいとも限りませんし……。「宏闊る原野に恐慌し、背を丸め、地に伏し、寂寞を噛みしめる」という文章もいいのかもしれませんが(類語辞典で調べて書いた。笑)、「広すぎて、あまりに広すぎて恐ろしく、虫のように身体を縮め、冷たい土に額を押しつけ、寂しいと口に出すこともできなかった」でもいいわけです。このへんは好みの問題でもありますが。もちろん、語彙力があるに越したことはないので、私も精進したいと思っております……!

 さて、ここからは私の勝手な想像なのですが、もし文章を書こうとしていてうまくいかないのだとしたら……それは語彙の問題というよりも、表現の問題かも? 文章というのはすなわち、頭に思い浮かんでるイメージを言語化することなわけですが、その表現方法はひとつではありません。自分の書いた文章が、いまひとつだなあという場合、語彙で補うよりも表現を変えてみるほうがいいような気がします。
 日本語を英語にする時とちょっと似てるかもしれません。エレベーターの中で、外国からの旅行者に「お先にどうぞ」と言いたい時、つい「【お先】って英語で何て言うのかな……」と考えてしまうわけですが、これの回答は After you ですよね。つまり「私はあなたの後に行きますよ」というのが、「お先にどうぞ」になるわけです。そういった発想の転換をしてみるのをお勧めいたします。あたりまえの表現から少し離れて、オリジナリティがあり、かつわかりやすい(ここ大事)表現が見つかるのが理想的ですよね。

 そして知識ですが、これはもう単純に「調べる」「取材する」です。
 かつ、「自分の手に負えないものは書かない」という判断力も必要です(笑)。たとえば、法律にまったく明るくないのに、弁護士を主人公にしても自分がつらいだけです。どうしてもそうしたいならば、法律の専門家、もしくはその近くで働く人を見つけましょう。ググったり参考文献をあたるより、遥かに効率が良く、興味深い話を聞けます。
 直接の知人ではなくても、友達の友達くらいにいるかもしれません。私も友達の友達に聞いたことがあります。友達の友達の看護師さん、友達の旦那さんの医師、友達の知人の板金屋さん……使えるツテはすべて使います。私のひきだしにたいしたものは入っていませんが、私の周りにはいろんなことを知っている人たちがいます。そして多くの場合、「小説を書いているんだけど、あなたの仕事について聞かせて」とお願いして、嫌がる人はあまりいません(医師や弁護士の守秘義務に関わるところは、もちろん聞かないのがマナーです)。むしろ喜んで教えてくれる場合が多いと思います。たとえまだプロになっていなくても「小説の勉強をしているから、協力してほしい」でいいと思います。もちろん、ちゃんとお礼はしましょう。ケースバイケースですが、私は友人にはごはんをご馳走する場合が多いです。

 もちろん、普通に参考文献をあたることも多いです。こんなかんじで。
 でも参考文献は数冊読んでも、その中で「これは参考になる……!」という部分は少ないものです。また、その文献が少し古かったりすると、読者さまから「今はそんなことしていません」というメールをいただいたりします(笑)文献をあたる場合は、いつ出た本なのかも気にしましょう。

 などと色々書きましたが、個人的には、「多少間違いがあろうと、勢いがあって面白い小説はいいよね!」と思っています(^^)