角川版魚住1-3

魚住くんシリーズについて

※この記事はブログからの転載+書き足しです

さて、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、『夏の塩』は私のデビュー作です。2000年の7月に、榎田尤利名義で、BL作品(ボーイズラブ。男性同士の恋愛を物語の中心とした作品群のこと。性愛表現が含まれる場合が多く、書き手も読み手もほとんどが女性である)として発売されました。

光風社クリスタル文庫より発売されましたが、現在は絶版です。絶版になってから数年して、2009年に新装版が出ました。こちらは大洋図書さんからで、ハードカバーのとてもきれいな装丁になっております。上巻が『夏の塩』下巻が『夏の子供』。クリスタル文庫版の頃にはなかった書き下ろしの短編が収録されています。現在も販売中ですが、市場在庫が少なく、入手は難しいかもしれません。電子版も出ております。なお、旧文庫版、ハードカバー版は茶屋町勝呂先生に美麗なイラストを頂戴していました。

そして2014年、角川文庫さんから、榎田ユウリの名義で、文庫版に戻って全五巻の刊行中です。2015年3/15現在、三巻目まで発売中。『夏の塩 魚住くんシリーズⅠ』『プラスチックとふたつのキス 魚住くんシリーズⅡ』『メッセージ 魚住くんシリーズⅢ』『過敏症 魚住くんシリーズⅣ』(3/25発売予定)、そして『夏の子供 魚住くんシリーズⅤ』は6月の発売を予定しています。

というわけで、なんと3度目の魚住くんなわけですが、以下に変更点などをまとめてみます。

1.著者名義が榎田尤利から榎田ユウリに変更になっています。

2.BLレーベルではなく、一般の文庫レーベルからの発売になります。

3.カバーイラストは岩本ナオ先生にお願いしています。中のイラストはありません。

4.書き下ろしはありません。また、物語の流れが変わるような大きな修正もありませんが、文章の細かい部分には結構手を入れています。

5.ハードカバー版に入った『ハッピーバースデーⅠ』『ハッピーバースデーⅡ』は収録されます。

このシリーズはBLであると同時に青春群像劇でもあると考えていますので、これを機に新しい層の読者さんにも手にとっていただければなあ、と思っています。エロチックなシーンはさほど多くないです……たぶん。当社比だけど(笑)同性愛そのものに嫌悪感のない方でしたら、お読みいただけるレベルかと思います。

「BLに興味なかったけど、読んでみたら面白かった」だとか、「BLうんぬんはさておき、キャラクター小説として面白かった」とか、「いやむしろBLいいかも。目覚めたかも。ほかのも読みたいかも!」とか……そうなってくれたらいいなあという、欲の深い私なのです。とはいえ、そんな欲深な私に、このシリーズを既読の読者様までおつきあいさせるのもなんですから、今回はあえて書き下ろしはつけていません。つまり、過去の魚住くんシリーズを持っている方は買う必要はありません。もちろん買っていただければとても嬉しいですが(笑)

いずれにしても、デビュー作がいまだに新装版として刊行されるのは本当にありがたいことです。長いあいだ、私を支えて下さっている読者のみなさまに、心から感謝を申し上げます。なんだかんだで、職業作家も15年目ですが、デビュー作を読み返していると「基本的に、自分の書きたいことは変わっていないのだな」と感じることもあります。それがいいことなのか、逆に進歩がないということなのかは、現時点ではよくわからず……いつか答えの出る日がくるのかもしれませんね。

余談。「魚住くんシリーズ」というシリーズ名を、なにかもっとカッコイイものに変えられないかとさんざん考えたのですが、あまりに自分の脳内で定着しすぎてて、無理でした……。ちなみに、この作品は雑誌への投稿作だったため、途中からなんかこう適当に……シリーズ名がついていたような……もはや記憶が曖昧です(笑)

もっともっと余談。こちら結果的に全五巻という長さになっていますが、最初は『夏の塩』という短編のみで、雑誌に投稿した作品でした。当時『小説JUNE』という雑誌がありまして、その中に中島梓先生(栗本薫先生)が主催していらした小説道場という投稿コーナーがあったのです。当時、うすらぼんやり「小説書こう」と考えていた私が、最初にJUNEに投稿したのが『夏の塩』で、のちに雑誌に掲載される運びとなりました。掲載されたら嬉しいわけでして、続きを書いては投稿し、書いては投稿し……と繰り返し、たぶん二巻ぶんくらいまでは投稿作としての存在だったのですが、いつしかフツーに毎回掲載されるようになって、あるとき私が「あの~、いつまで投稿の窓口に送っていれば……」と聞いたら「あっ、ごめん、次からは僕(当時の編集長)あてに送って!」となった次第です。なので、どこまでが投稿作で、どこからが依頼原稿なのか私自身も覚えていないという(笑)

小説JUNEという雑誌は、「投稿者をプロ作家として育てる」という姿勢はほとんどなく(笑)、投稿者に担当がつくわけでもなければ、具体的に指導もありませんでした。(そうではないケースがあったらごめんなさい。少なくとも、私の場合は放任されておりました)そもそも、その雑誌を作っている会社はほとんど書籍を出していなかったので、育てても自分のところでデビューさせられない、という背景もあったかも。いずれにしても「好きに書いてきて。面白ければ載せるから」という雰囲気でした。別の雑誌でデビューした同業の方に聞くと、ビシバシと指導をする編集部もあったようなので、そのへんは色々なのですなあ。そんなこんなで、放牧(笑)状態で、好き勝手に書いていたことが、現在の私を作っているのかもしれませんね。こう書きなさい、ああ書きなさい、と言われるのは苦手なので、私にはとてもよい環境だったわけで、当時の編集長に感謝している次第です。