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祝日前のATMと「アセンブラ0X」

「アセンブラ0X」という漫画で、登場人物のひとりが祝日の直前にあわててATMに駆け込むも、行列に並んでいるあいだに閉店時間が来てしまって。という場面があって。だいぶむかし、1993年に描かれた漫画ではあるのですが、ごく最近まで、祝日前や金曜日にATMに行くたびにこの場面を思い出していました。

その後、お金をおろせなかった彼は全財産157円の状態で同居人とふたりで、どう過ごすのか、というかまずは空腹をどうやって満たすのかを必死に考えたり、そのうちに更なるピンチが発覚したりする、世にもしょうもないお話がハイクオリティな絵で繰り出されてゆく、味わい深い一本で。久しぶりに電子書籍で単行本を読んでみたら、作品の他の部分はけっこう忘れていたのに、このエピソードのことは、某有名袋ラーメンのパッケージをアレンジした袋のデザインまで、やたらとよくおぼえていました。

麻宮騎亜先生の作品ということもあり、基本的にはアニメや漫画が好きなかたをターゲットにしつつ、当時の世の中の気分に合わせておそらく意図的にイケイケでトレンディな雰囲気を押し出しているなかでの、ものすごく泥くさい異色のエピソード。ビジュアル的にも、このエピソードの主役もその同居人も、筋骨隆々の冴えない男子ふたり、主な舞台もカラーボックスが家具がわりの1Kアパート、という感じなのですが、その、本来ならどこからも光が当たらないような地味でしょうもない時間が、むしろ時代を超える普遍的な実感をいつの間にかたたえてしまっているのが、おもしろいところでした。

今回再読してみて思ったことは、あ、最近ATMに行ってない。でした。この状況になり、キャッシュレス決済が中心になってから、ある程度の現金はつねに持っているものの、それを補充する機会も減ってきていて。キャッシュレスで支払える場所がどんどん増えていること、当初はおそるおそるだったそれを、気がつけば当然のこととして受け止めていることに、あらためて気づいたのでした。20年以上スタンダードだったATMに急ぐ場面のことも、思い出していました。と、ごく自然に過去形で書いているくらい、すでに世界は変わり始めているのだなぁと。

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