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「ふしぎ星の☆ふたご姫」の忘れられない一年

TVアニメ「ふしぎ星の☆ふたご姫」のBlu-ray-BOXが11月24日に発売されるとのことです。放送から16年目にして初めてのBlu-rayソフト化ですね。2005年後半、そして翌年にも発売された「キャラクターディテールブック」2冊の復刻縮刷版が封入される、というのも感慨深いです。…と、すらすら年代の話が出てくるのは、この作品がいまの、アニメの設定をつくる仕事のデビューの場をいただいたシリーズで、2005年は忘れられない年だからです。

「ふしぎ星の☆ふたご姫」は、星の内部に7つの国がある「ふしぎ星」で、ふたごで姫のファインとレインが、星のピンチを救うために、それからあんまり気が進まないけれどプリンセスらしいプリンセスになる修行のために走り回る物語。初めてづくしで、いろいろな思い出がある中、パッと頭に浮かんだのは第27話「黒いプーモ☆フォーチュンプリンセス」の冒頭、月の国の王子シェイドが、彼もまた、ふたご姫とは別のアプローチで星のピンチを救うために奔走していたことを告白する場面の設定のこと。正確に言えば、その場面のための設定をつくらなかったこと、でした。

誰もいない、月の国の玉座のある部屋で、玉座を前にしたシェイドの話を、離れた場所で聞くふたご姫、そして宝石の国の王子ブライト、という場面なのですが、じつは脚本の段階では、4人が話をする場所は玉座のある部屋ではなく、温室でした。その時点ではまだ登場していなかったその場所のデザインを発注する打ち合わせの席で、河本昇悟監督からこの場面は温室ではない場所にしたい、どこがよいと思いますか?と、相談されたのですが、まだ知識も経験もなかったのもあり、そのときはうまく答えられなくて。

わざわざ新しく起こすのではなく、すでにある場所でどこか…ということも監督はおっしゃっていたので、答えがあってもなくても、たぶんどうするのかは70%くらいすでに心の中で決めていらしたのでしょう。

完成映像では、いつもなら玉座に座っているはずのシェイドの母、つまり女王がいないことで違和感や不安定な感じがあって。玉座にふれるシェイドの手つきからは体調を崩して寝込んでいる母への思いも感じられて。また、部屋全体が、どこであるかがわからないほどではない、けれど、ふだんに比べるとずいぶん暗くなっていて、そのことが現状のヤバさ、未来が見えない感じを言葉ではないかたちで伝えていて。あぁ映像で演出する、というのはこういうことなのかと、当時はまだ厚みのあったテレビの前で感心したのをよくおぼえています。

風景デザインの中のどういう要素が、芝居や演出につながってゆくのか。監督はどういう部分がいちばん欲しいと思ってデザインを発注するのか。どういうアングルで描けば、それを提示できるのか。そもそもその設定画を起こす必要があるのか。ふりかえってみれば、いま、アニメで設定画をつくるときの、いえ、つくる前の段階から考えているようなことは、ほぼこの作品で、河本監督やスタッフのかたがたとのやりとりの中で身につけていったものばかりで。

それから、おしゃれなドレスやかわいらしいお部屋もあれば、メカもある、おもちゃばこをひっくり返したような世界観も、その中でゆるゆる〜っと生きているキャラクターたちも、すごくかわいらしくて。一年間、ものすごく多くのことを学んだ仕事であるのと同時に、とてもとても大好きなアニメでもあったのでした。

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