第2回:第三艦橋が崩壊しない、ゆがみない理由
「宇宙戦艦ヤマト2199」第2話で、古代進は宇宙戦艦ヤマトと対面します。地下特設ドックのヤマトは、地上で朽ち果てた姿でたたずむ戦艦大和に合わせて、右に10度ばかり傾いています。その艦体の最下部である第三艦橋は、後部ハッチが開き、艦内への出入口があらわになっています。ズタ袋を片手に、古代はヤマトを、そして出入口へと続くタラップをのぼる、未来の仲間たちの姿を見つめます。
第三艦橋から伸びるタラップは、よく見れば、2枚の板状のパーツが、上下たがいちがいにくっついています。開いた後部ハッチの上に、重なり合っていた板が引き出され、タラップのかたちをつくっているのです。手すりのついている位置は、上下の板で、微妙にちがっています。なるほど、これならば収納するときも、手すり同士が引っかかることがありません。 また、左右で二つある出入り口のタラップは、それぞれがちがう長さ、ちがう角度で地面についています。タラップ全体が、冷暖房機の羽根のように傾いて、足場を調整しているのです。
遠くから、そして近くから。第2話では、あいだにいくつかのカットを挟みながら、第三艦橋の姿がじっくり画面に映し出されます。直線と曲線が絶妙に入り混じった、どこか色気さえ漂うヤマトが描かれた二つのカットは、その「下描き」にあたる絵を、メカニックデザイナーの玉盛順一朗さん本人が描いています。
一般的なアニメでは、映像の設計図である「絵コンテ」から、画面の設計図である「レイアウト」がつくられ、そして「原画」や「背景美術」が描かれてゆきます。それぞれの工程の作業は、ほとんどの場合、別々のスタッフが担当しています。それぞれの技術に特化した担当者が、分業して作業することで、クオリティと作業効率をあげてゆくことが可能になるシステムです。
「ヤマト2199」では、多くの場面で、この「レイアウト」と「原画」のあいだに、もう一段階、別の工程が加えられています。第2話の第三艦橋のカットのような、メカニックの「下描き」の絵を描く作業です。現場では、その絵は「ディティールアップデザイン画」と呼ばれていて、メカニックが画面のなかの大半を占めるようなときに、つくられています。
あらゆるメカニックの中でも第三艦橋は特に、第6話や第24話など、ビシッと画面に大うつしになるカットが多く、そのたびごとに「ディティールアップデザイン画」はつくられています。ヤマト艦内のなかでも、かなり大切にされている場所であるようです。
「ディティールアップデザイン画」は、「原画」のように、アニメーターが、設定を見て描くのではなく、基本的にその場面に映っているメカニックをデザインした本人が、その絵を描いています。そのデザイン画を、アニメーターが「原画」へと整理、そこから彩色、特効、撮影などの工程を経てゆくことで、一枚の「絵」が「画面」になってゆきます。あいだに、別の担当者による作業が入るため、100パーセントとは言い切れないかもしれない。それでも、デザイナーの頭の中にある「本物」と、限りなくイコールに近い絵が、「宇宙戦艦ヤマト2199」の画面には数多くあらわれているのです。
第三艦橋の前にいた古代が、次に画面にうつるとき、彼はもう艦内にいます。はるかなる旅への覚悟は、乗り込む瞬間をあえてうつす必要のないくらい、すでに固まっているのです。魅惑的なボディラインの女性を前にしても眉ひとつゆがめない、カタイ決意を胸に、古代は進むのです。
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■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「ストライク・ザ・
ブラッド」(13年)ほかアニメ、
ゲームの設定デザインなどを担当、
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。
『ヤマト2199の「中」の話』の方針やモロモロの注意事項は、こちらに。 →5月から「宇宙戦艦ヤマト2199」のnote、はじめます。
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