第6回:ユキカゼが拓いた希望と、貫かれた意志
「宇宙戦艦ヤマト2199」第1話では、冥王星沖の会戦で、古代守の乗る駆逐艦ユキカゼの魚雷が、ガミラスの艦を沈めます。この作戦で初装備となった、試製空間魚雷による戦果でした。それは、これまでビームもミサイルも、ほとんど歯がたたなかった敵との戦いに希望の光が見出された、小さな、そして大きな一撃、いや、二撃でした。落ち着いた、艦長らしいたたずまいを見せていた古代守も、おもわずガッツポーズをキメます。きっとお堅いメガネ女子であっても、それをみたらコロリと心惹かれてしまいそうな、とても男らしい「よしっ」でした。
魚雷発射管から、魚雷が発射される場面では、撃ち出される魚雷も、それを送り出すユキカゼも、CGではなく、絵で描かれています。画面のなかのユキカゼは、まるで魚雷発射管のあたりを、カメラがガン見しているかのような状態ですが、そのように撮影される前の「素材」の状態の絵には、艦のいちばん底の面から、てっぺんについた三連装の高圧増幅光線砲の砲塔までが、描かれています。
まるで戦場カメラマンが、すぐそこでカメラを構えているかのように、画面が小刻みに揺れているこの場面は、当初のプランでは、魚雷の動きに合わせて、ユキカゼの姿がもっと大きく上か下かに移動するような映像になる予定でした。「素材」の絵が大きめに描かれているのは、魚雷の絵が描かれる前であり、ユキカゼの姿もどのぐらい移動するのか、誰にもわからなかったからです。 そのプランが考えられるさらに以前、「絵コンテ」の段階では、守の立つ艦橋を窓の外からみた絵から、そのままカメラを引いてゆくと、魚雷を発射する絵になる、というプランも考えられていたようです。オープニング映像で、艦長室から下へ行き、やがて全体像になるヤマトの、その撮りかたに近いイメージでしょうか。
魚雷を発射するユキカゼは、ほかの場面とは別の艦にさえ見えるくらい、前後の厚みが圧縮されて描かれています。「ヤマト2199」でメカニックが「絵」で描かれる場面の多くと同じように、このユキカゼの絵も、3DCGに合わせて描かれています。別の艦のようにも見えるかたちも、正確に計算された、「嘘」のない造形なのです。艦全体のかたちに合わせて、艦体表面のパーツも前後の厚みがないみたいに描かれるなか、魚雷発射管と、そのなかのライフリング(角型にきざまれている溝)は、立体感が強調されて描かれています。これは絵の大もとである「ディティールアップデザイン画」にはない、チーフメカニカルディレクターの西井正典さんによる指定です。
発射管は、立体感を強調しているだけではなく、かたち自体も、CGよりも、すこしだけ大きく描かれています。このぐらいならば、「嘘」にならない、かな?という、ギリギリの誇張ぐあいが、メカニックの登場するアニメ作品に多く関わってきた西井さんの経験値から割り出されています。
いくつかの試行錯誤の果てに完成したこの場面は、画面全体が揺れ動く中、どしりと構えるユキカゼの姿と、魚雷の煙が描く軌跡のコントラストが、目にあざやかな映像になっています。たとえどんなプランを選んだとしても、「魚雷発射管から魚雷を発射する」映像ならば、間違いなく目に残る発射管のかたちが、ほかの部分よりも、ほんのすこしだけ力強く描かれています。
ようやく見出された勝機に、古代守がガッツポーズをキメた矢先、ユキカゼをはじめ、全艦に撤退命令が出ます。けれど守は、それに従わないという選択をします。彼は詩も文学も知らないような、血気盛んな人間ではありません。何も捨てるものがない、誰も待っているひとがいない孤独な男、というわけでもありません。それでも、彼は、その道を選ぶのです。 一隻でも、一人でも多くの命を、想いを守る、そのために。
→第7回:人類初のワープテストと、決して透けては見えないモノ
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■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「シンドバッドの
冒険」(14年)ほかアニメ、
ゲームの設定デザインなどを担当、
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。
『ヤマト2199の「中」の話』の方針やモロモロの注意事項は、こちらに。 →5月から「宇宙戦艦ヤマト2199」のnote、はじめます。
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