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【2021年版】株式投資型クラウドファンディング総まとめレポート

株式投資型クラウドファンディング(株式投資型CF)とは?

株式投資型クラウドファンディング(以下、株式投資型CF)は、個人投資家がインターネットを通じて成長期待の大きい非上場のベンチャー企業に対して少額から投資できる仕組みです。

投資先が将来成長し、新規株式公開(IPO)や事業売却(M&A)などに至れば、投資額を大幅に上回るリターンを得られる可能性がある一方で、倒産・解散にいたった場合や、株式売却のイベントが発生しない場合は、投資金額を上限とした損失が発生する可能性があります。

2021年の国内市場の総括

2年連続二桁成長で、約40億の調達規模に

2021年の株式投資型クラウドファンディングにおける調達額累計は、前年を大きく超える37億円となっています。前年対比でも約171%と2年連続の二桁成長を遂げています。

2022年1月現在、5社の事業者が株式投資型クラウドファンディングを運営しています。

日本初の株式投資型CF「FUNDINNO」の他にも、上場企業であるZUUの子会社が運営する「ユニコーン」、国内最大級の購入型クラウドファンディングを運営するCAMPFIREの子会社が運営する「CAMPFIRE Angels」、大和証券グループと連携して事業運営している「イークラウド」などが徐々に案件数を増やしています。

2021年9月にはインベストメント・テクノロジー株式会社が金融大手のSBIグループからSBIエクイティクラウドの株式を譲り受け、エンジェルナビ株式会社として事業を運営していくこととなりました。

国内の株式投資型CFに関する2021年の主要トピック

株式投資型CF利用企業によるIPO事例が発生

2021年3月には、卓球で国内トップのTリーグに参加するチーム「琉球アスティーダ」の運営会社である琉球アスティーダスポーツクラブ社が、東京プロマーケット*に上場しました。

※東京プロマーケット(TPM):東京証券取引所(東証)が運営する「プロ向け」の株式市場。株式の売買ができる投資家を、株式投資の知識や経験が豊富なプロ投資家(=特定投資家)に限定している

琉球アスティーダスポーツクラブは、2019年12月にファンディーノで151人の株主から2,250万円の資金調達を行い、およそ1年3ヶ月で上場に至りました。株式投資型CFを利用した企業の上場は、国内で初の事例となります。

今後、一般市場への上場案件など、より大きな投資リターンを出す案件を創出できるかが、株式投資型CFの盛り上がりを支える1つのポイントになってくると考えられます。

日本クラウドキャピタル、国内初のインターネット完結の非上場株式市場を開始

「ファンディーノ」を運営する日本クラウドキャピタル社は、2021年12月に「セカンダリーマーケット」の提供を開始しました。

従来、株式投資型CFには流通市場がなく、株式公開やM&Aのようなイベントが発生しない場合、売却相手を探すことは困難でした。

日本クラウドキャピタル社は「株主コミュニティ」という制度を活用し、非上場株式の二次流通市場「ファンディーノマーケット」を提供中です。ファンディーノマーケットでは、銘柄ごとに設けられたコミュニティに参加することで株式の売買が可能となります。

この「ファンディーノマーケット」により、株式投資型CFの投資家にとってはIPOやM&A以外の新たなエグジットの場が生まれたことになります。

エンジェル税制の拡充も投資の後押しに

株式投資型クラウドファンディングを取り巻く動きとして、スタートアップに投資した個人が税金の優遇を受けられる「エンジェル税制」が拡充されたことも取扱案件数や調達額の増加の要因の一つに挙げられます。

1997年に始まった「エンジェル税制」は、2000年代に今の原型となる優遇措置が創設され、2020年に上記の大幅な要件緩和が行われました。

規制緩和の行われた2020年を境に、株式投資型CF案件に占めるエンジェル税制対象案件の割合が増加し、前年のおよそ2倍になっています。

現状、エンジェル税制の対象となるのは、株式の案件のみで、新株予約権の案件はエンジェル税制対象外となっています。株式で募集を行った案件のうちエンジェル税制案件の割合は、2020年は約4割でしたが、2021年で既に約9割ほどになっています。

こういったことからも2020年の規制緩和によって、エンジェル税制の対象案件が大きく増加したことが分かります。

また、実際にエンジェル税制を利用する投資家の割合も増加しています。

株式投資型CFを提供する国内プラットフォームの一つ「イークラウド」では、これまで実施した9案件全てがエンジェル税制の対象となっていますが、2021年では2020年と比較して利用率が上がっていることがわかります。このように、個人投資家内での認知度も一定の割合で獲得されていると考えられます。

国内株式投資型クラウドファンディングに関わる今後の論点

2022年以降に注目すべきトピックとしては、金融庁による株式投資型クラウドファンディングの規制緩和が挙げられます。

議論されているトピックは主に以下の3点です。

①ベンチャー企業が調達可能な金額(1億円未満)の算定方法の見直し
②投資家の投資上限額(50万円以下)のあり方の見直し
③少人数私募の人数算定方式の見直し

①ベンチャー企業が調達可能な金額(1億円未満)の算定方法の見直し

株式投資型CFでは、投資先のベンチャー企業が破綻した場合などの投資家の損失額を限定するといった発想から、調達可能な金額を1億円未満としています。

更に、この金額の算定は、以下の3つを合算して行われています。

(Ⅰ)今回の株式投資型CFで発行する有価証券の総額
(Ⅱ)今回の株式投資型CF開始前1年以内に発行する有価証券の総額
(Ⅲ)今回の株式投資型CFの申込期間中に発行する有価証券の総額

つまり、1年以内にベンチャーキャピタル等から資金調達を行っている場合などにおいて、1億円の枠がフル活用できないという状況があり、他の調達手段との組み合わせづらい状況がありました。

今回の見直しでは、合算の対象を株式投資型CFで調達した金額に限定する方向で検討されています。これが実現することで、ベンチャーキャピタルなど他の調達手段との組み合わせがより積極的に進んでいくものと考えられます。

②投資家の投資上限額(50万円以下)のあり方の見直し

株式投資型CFでは、投資先のベンチャー企業が破綻した場合などの投資家の損失額を限定するため、投資上限額が設けられており、現行制度では1社あたり50万円/年とされています。

海外においてプロ投資家について投資上限額の制限は設けていない状況などを踏まえ、いわゆるプロ投資家である特定投資家については自身でリスクを踏まえた投資ができると考え、投資上限額を見直す方向で検討が進んでいます。

現状、多くの投資家の1件あたりの投資金額は10-20万円程度であり、株式投資型CFによる投資のリスク等の再検証は時期尚早との見方があり、一般投資家の投資上限額の見直しについては、今後の投資状況を見極める方向となっています。

③少人数私募の人数算定方式の見直し

50人未満の者を相手方とする少人数向けの勧誘については、基本的に有価証券届出書の提出といった開示規制が免除されます。

しかし、過去6ヶ月以内の勧誘対象者数を通算して50名以上となるかが計算されるため、株式投資型CFを実施した6ヶ月以内に勧誘を行うと、その後の勧誘対象が少人数であっても合算して募集とみなされるため有価証券届出書の提出が必要となってしまい、機動的な調達の妨げとなっていると考えられています。

今回の見直しでは、米国にて行われた「少人数向け募集」取得者数合算ルールの変更を参考として、少人数私募の人数通算期間を6ヶ月から3ヶ月へ短縮する方向で検討が進んでいます。

2021年の振り返りと2022年の予測

イークラウド波多江が見る、2022年のECF

2021年、日本国内でベンチャー企業に投資された資金は6,000億円を越えていると予想されており、約2,000社が資金調達を行なっています。事業売却の経験がある2周目の経営者(通称:シリアルアントレプレナー)なども増え、その信頼残高を活用する形で、創業期から10億円単位の調達を行い、事業を行うベンチャー企業なども増えた1年でした。

このように、日本国内のベンチャー投資資金は増加傾向にありますが、米国における投資資金は約16兆円です。比べてみると約26倍の差があるのが現状です。一方、国内の個人金融資産は約2,000兆円、この1%でもベンチャー投資をする資金にすることができれば、日本のベンチャー企業は世界水準の大きな成長資金を手にいれることができます。

ベンチャー企業に新たな成長資金を確保する手段を増やすべく、2015年の法改正により株式投資型クラウドファンディングの利便性が高まりました。当初利用社数は20社程度でしたが、年々利用者が増え、2021年には年間で40億円ほどの資金調達として利用される見込みです。投資金額ベースでは40億円/6,000億円=1%未満ですが、社数ベースでみると、150/2,000社=7.5%と、資金調達手段として存在感が高まってきています。

2022年においては、法改正も施行される見通しで、資金調達金額通算1億円規定の見直しも検討されていることから、ベンチャー企業から見た時の利便性が高まり、利用者数や金額は更に加速的に増加すると予測しています。

世界の株式投資型クラウドファンディングを観察していると、様々な領域で事業を行なっているベンチャー企業の資金調達が増加しています。AIやSaaS等に加え、個人向けの金融サービス、Foodtechを含む食品関連事業、アパレル企業など、個人投資家が応援することで成長が加速するベンチャー企業が積極的に株式投資型クラウドファンディングを、資本政策に組み込み始めています。

2022年には、日本においても、ベンチャーがより戦略的に株式投資型クラウドファンディングを行う場合や、株式投資型クラウドファンディングを行っていた会社がIPOやM&Aで投資家に大きくリターンを出すケースも発生する可能性があり、注目度が更に高まる1年になると思います。

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