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もともと明日のことはわからない

タイトルは最近の田中陽希氏のことばだ。本日は小難しい話は休みにして、グレートトラバースの話をしたい。以前「グレートトラバース3の秘湯」をポストした。

1.グレートトラバースの凄さ

日本三百名山を人力のみで全山踏破しようと挑戦しているプロアドベンチャーレーサーの田中陽希氏。日本列島を鹿児島県の屋久島から北海道の利尻島へ北上するルートの総距離は10,000㎞を超える。陸路は徒歩とスキー、海路はシーカヤックやパックラフトを使用する。

しかし、新型コロナの影響を受けて300座のうち40座ほどを残したところで思いがけない停滞を余儀なくされている。

田中氏はこれまで2014年の『グレートトラバース~日本百名山一筆書き踏破』、2015年の『日本二百名山ひと筆書き』の2度の旅を完遂した。そして今回は、2018年1月に開始した『日本三百名山ひと筆書き ~Great Traverse3~』である。公共交通機関や車や動力船などを一切使わない100%人力旅で、海峡はシーカヤックを漕いで渡る。

彼はチームで取り組んでいる本職のアドベンチャーレース活動の合間に、自分個人の旅に出た。それが「グレートトラバース」だ。実は3つの旅はテレビ局などの乗っかり企画ではなく、いずれも田中自身が企画したものである。田中氏は出演料をもらっているタレントではなく、あくまでもアドベンチャーレーサーである。スポンサー(登山用具会社)と彼を応援している人に支えられている。

グレートトラバースシリーズは、田中氏の個人旅に、山岳撮影スタッフが密着させてもらってドキュメンタリー番組を作っているという立て付けだ。田中氏は、一人旅/個人旅としてスケジュールやルートを勝手に決めてどんどん行き、スタッフはそれに追いすがるようについていく。同行ではなく密着である。

ところで田中氏は速いのでついていくだけでも大変なはずだが、実は密着カメラマンの駒井研二さんや、もう一人のプロカメラマン平出和也さんは、山に関して田中氏を上回る最強クライマーなのだ。速い田中氏を猛追したり先回りしたり、離れた危険個所から撮影したりドローンを使ったりとホント最強なのである。ここからは私の勝手な憶測だが、平出さんも駒井さんも、田中氏の山旅で展開される素晴らしい景観もさることながら田中氏の人間的成長と大自然や人との関わりの中でほとばしり出る純粋なメッセージを映像記録としてどうしても残しておきたいという強いモチベーションで、命がけの撮影を続けておられるのではないか。NHKのディレクターも凄腕の山男と聞く。彼らが撮影した迫真映像をベースに、NHKがドキュメンタリー「グレートトラバース」として制作している番組が、感動を呼ばない訳がない。

未だなんとなく、田中氏とスタッフとNHKの関係が呑み込めない人は、以下ブログを参考にされるとよくわかると思う。ほかのドキュメンタリーとは次元が違います。まさに歴史に残るドキュメンタリー映像なのです。

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2.自分の挑戦、自分の旅

田中氏はグレートトラバースの旅についてシンプルに表現する。

「これは自分の挑戦であり、旅なのです。」(田中陽希)

自分の挑戦、自分の旅。なんと清々しいことばだろうか。

田中は屈強な体格に似合わず、繊細な心の持ち主だ。そのため感染予防にも細心の注意を払った。同行する撮影スタッフとも距離を保ちながら接し、常に除菌スプレーを携行して、応援者からの写真撮影には応じても、握手は控えるようにした。(中略)
いちばん怖れていたのは、自分が知らずに感染して無症状のまま誰かに感染してしまうことだ。撮影スタッフが移動のために使うバンが東京ナンバーであることも、地域の人たちを不安にさせてしまうのではないかと気になった。

3月はじめ、まだ世間は今ほど緊張感が高まっていなかった時期だったが、田中氏は既にこう考えていたのだ。『自分の旅』をしている田中氏ならではのコトバであり、感性だ。

生活していくためには、もしくは、自分のキャリアを守るには、感染を広げてしまっても仕方がないと考えた方々(外出自粛中に湘南海岸に出かけていた人とか、テレ朝のコロナアナとその周囲とか、濃厚接触ビジネスをしつこく続けていた店とか)には耳の痛い言葉だろう。

そして感染防止への社会的要請が高まったとき、彼は決断した。

毎日欠かさず投稿していたSNSの発信を一時休止することを決める。田中の親世代のファンは、我が子のことのようにこの旅を応援しており、日々の投稿を楽しみにしているが、やむを得ない判断だった。「外出自粛によってたくさんの方がこれまでと同じ生活を送れないなかで、自分が毎日歩き続け、旅を楽しんでいることを発信するのは適切でないと思いました。不愉快に思われる方もいらっしゃるでしょうから」

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3.コロナ騒ぎによる停滞の中で

そんな陽希さんだが、コロナ騒ぎが長期化し、山形県で一歩も前に進めず、停滞を余儀なくされている。先行きは?焦りはないのか?

「撮影スタッフが東京を出られるのはまだ先だと思うので、そうですね、早くて6月初め頃じゃないでしょうか。山岳団体が今後発表するであろう指針も気になるところです。自分が登山を再開することで生まれる影響も考えなければいけませんから」

 停滞が長引くなか、旅のモチベーション維持は難しくないのだろうか。

「あまり深く考えないようにしています(笑)。いつかは歩けるようになりますからね。これまでも悪天候による停滞があったんです。昨年は長梅雨により南アルプスの麓の川根本町で1カ月も過ごすことになりましたし。だから大丈夫です」
もともと人間て、明日のことはわからないじゃないですか? コロナがなくても、明日に何が起こるか僕らは予知できない。そう考えると、いまも同じですよね。 感染予防をしっかり行い、心身の健康を保っておく。1年目に骨折して2年の予定が3年に延び、いままた4年目に突入することを覚悟し始めています(笑)」

もともと人間て、明日のことはわからない・・・。いいことばだ。我々だって、どんな時でも邪心のない『自分の旅』をしなければいけませんね。

私は、本当にグレートトラバースと田中氏が好きだ。


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