フランスの教育費は本当に無料?どうやって公立学校のレベルを保っているの?
「フランスは教育費が無料」と聞いたことがある方も多いのではないかと思います。日本で長年問題になっている少子化は、子供を育てる際にかかる教育費の高さによるものなのでしょうか?教育費が無料になれば、日本でも子供を作ろうとする人が増えるのでしょうか?
今日はフランスの教育費の実態、公立と私立の差、そしてフランスの教員の給料について見ていきたいと思います(幼稚園から高校まで)。
フランスの小・中・高等学校は Écoles publiques(公立学校)、Écoles privées sous contrat(認可私立学校)、Écoles privées hors contrat(無認可私立学校)の3つに分けられます。
Écoles publiques(公立学校)
公立学校は国によって運営されている。
学費は無料で、保護者が負担する費用は授業に使う文房具などの備品、食堂、課外活動に限られる。
Écoles privées sous contrat(認可私立学校)
国から認可されている私立学校は、公的補助金を受けていながら親からも授業料を徴収しする。ただし授業料は、無認可の私立学校よりも低額。小学校の場合は約 390 €、中学校は 約 763 €、高校は約1 176 €となっている(給食費や文房具費、学童の費用は別)。
認可私立学校では、カリキュラムと基準はフランス教育省によって管理され、教師の給料は国から支払われることが多い。
Écoles privées hors contrat(無認可私立学校)
無認可私立学校は完全に国から独立して運営されており、公的資金援助を受けていない。
これらの私立学校はプログラム、教師、経営に全額を出資しているため、親が払う授業料はしばしば高額になる。学校によって金額は変わるが、1年間に数千ユーロとされている。
フランスの教育制度の一定の要件を遵守しなければならないが、独自のカリキュラムに従うことができる。
公立学校と私立学校の違いは?
日本では「公立学校よりも私立学校の方が良い教育が受けられる」というイメージがあり、私立に入れるために中学受験をする子供達も年々増えてきていますが、フランスにはそのようなイメージはありません。
公立学校:質と多様性の選択
フランスでは公立学校は質が高く、国が管理するしっかりとした教育プログラムを提供していると考えられている。教師は国民教育省(Education Nationale)によって訓練され、採用されるため、高水準の授業が保証されている。
公立学校は、その社会的・文化的多様性が評価されることが多く、生徒はあらゆる社会背景、階級を持つ子供たちと交流することができる。
パリのアンリ4世高校 (lycées Henri-IV) や ルイ=ル=グラン (Louis-le-Grand) のような名門の公立学校は、その学問的卓越性で特に有名であり、非常に人気がある。
基本的に、幼稚園・小学校・中学校・高校は自分の住んでいる学区 (carte scolaire) 内の学校に行かなければなりません。ただし、健康上の問題や、両親の仕事場やベビーシッターさんから近い学校に行かせたい、インターナショナルスクールなどの特別な学校い通わせたいという場合には、申請をすれば学区外の学校にも通うことができます。
教育の質が高く、生徒の多様性があり授業料が無料ということで、多くの家族は子供達を自分の家から近い学区内の公立学校に通わせます。
認可私立学校:より個別的な教育方針がある
認可私立学校の多くは、宗教団体(ほとんどの場合カトリック)によって運営されていますが、宗教が必ずしも教育の中心であるとは限りません。たとえばカトリック系の認可私立学校の場合、キリスト教の基礎的な教えを学ぶ授業 "cours de catéchisme (公教要理)" をオプションで取ることもできます。
このようにより体系的な枠組み、規律、特定の価値観(宗教的、教育的など)を理由に、有料だけれども認可私立学校を選ぶ家庭があります。
無認可の私立学校:代替教育または専門教育
これらの学校は、国から完全に独立しており、代替教育法(モンテッソーリ、シュタイナーなど)や、生徒の特定のニーズを満たすための特別なプログラムを提供することがあります。
一般にこれらの学校はかなり高額なので、非常に特殊な環境を求める家庭が選ぶ傾向にあります。
このように選択肢はありますが、ほとんどの子供達は公立の学校に通います。2023-2024年の統計によると、幼稚園、小学生の86,6 %は公立の学校に通い、中高では79 %の生徒が公立の学校に通ったそうです。つまり約80%の子供達は授業料が無料の公立の学校に通うということです。
公立か私立か、すべてはニーズ次第
フランスでは、日本のように「公立学校のほうが私立学校よりも良い」というイメージは全くありません。公立学校は広く評価され、非常に質が高いと認識されており、公立か私立かの選択は、子供の具体的なニーズ、家族の価値観、立地、特に学校の評判によって決められるのです。
ですから多くのフランス人家庭にとっては、家から近くて、多様性があり、しかも無料の公立学校が第一候補となることが多いですが、一方では監視の行き届いた環境を与えたいとする親や価値観の違いから、私立校を選ぶ家庭もあります。
公立学校の給食費、備品や学童ににかかるお金は?
さて、公立学校の授業料は幼稚園から高校まで無料ですが、給食費や備品費(文房具など)、学童に預けるなどにはお金がかかります。
まず給食費を見てみましょう。給食費は住んでいる地域や両親の収入によって変わりますが、平均して1食につき 2 € ~ 5 € と言われています。例えばパリの公立学校の場合、1食 0.13 € ~ 7.30 € とされています(親の収入によって変わる)。
フランスの公立学校にも学童 (garderie) がありますが、給食費と学童の費用を合わせると、フランス人は一人の子供につき平均して年間約 350 € ~ 440 € を支払っています。授業料は無料ですが、これだけの金額は別途かかるということになります。
さらに授業を受けるためにノートやペンなどの文房具、スポーツの授業の時の衣類や靴、cartable (ランドセル)などを買う必要がありますが、これらには国から補助金 (ARS =Allocation de Rentrée Scolaire) が出る場合もあります(2022年の数値)。
6歳~10歳の子供 : 416.40 €(一人につき)
11歳~14 歳の子供 : 439.38 €
15歳~18歳の子供 : 454.60 €
ただしARS が支給されるのは、親の収入額が以下の金額以内の家庭に限ります。
子供一人の場合:27,141 € (年間収入)
子供2人:33,993 € (年間収入)
子供3人:40,845 € (年間収入)
子供が1人増えるごとに:+6,852 € (年間収入)
フランスの教師のお給料は?
フランスでは一般に公立学校の質が良くしかも授業料が無料という点は、子育てをする上に親にとってはとても安心できることだと思います。では、質の良い学校を保つために重要な先生方のお給料は、平均していくらぐらいなのでしょうか?
これに加え、フランスの教師は生徒指導手当(ISAE)やボーナス (prime d'attractivité) などの各種手当を受け取ることができます。これにより、最終的な手取り額が増えることはあります。例えばフランスでは子供達は塾に通わず、先生達が学校で補習授業をしてサポートをします。その時間は別途に手当が支給されるのです。
一般企業に比べると、教師のお給料は少ないと感じるかもしれません(確かに教師の給与をあげよ、と要求するデモはよく起こります)。では給与はそれほど高くないにもかかわらず、どのようにしてフランスでは高いレベルを保ち続けられる良い教員を採用しているのでしょうか?
どうやって質と意欲の高い教師が採用できるのか?
フランスでは教師になると以下のような利点があります:
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